第10話 ホームパーティー

 僕は上崎さん、朝倉先輩と一緒に家に帰ってきた。


「二人とも、上がって上がって」


 僕は玄関のドアを開けて二人を中に招き入れた。


「お、お邪魔します……!」


「お邪魔するわね」


 僕はそのまま二人をリビングに通した。


「とりあえず、飲み物出すので二人は適当に腰かけといてください」


 僕は三人分のお茶をコップにいで持っていく。


「朝倉先輩、どうぞ」


「ありがとう」


「上崎さんも」


「ありがとうございます」


 僕たちは今、食卓を囲むように座っている。


 誰も話を切り出さないものだから、何とも言えない雰囲気になってしまっている。


 それにしても何て話を切り出せばよいのやら……さすがにこのまま沈黙が続くのはマズいよね。


「朝倉先輩は去年も図書委員だったんですか?」


 僕はとりあえず、前から気になっていたことを直接ぶつけてみた。


「ええ、去年も図書委員だったわ。やっぱり、図書委員って人気がないのよね」


「そ、そうなんですね……」


 やっぱり普通は図書委員はあまりものになるんだろうか?


 僕たちのクラスの図書委員はあっさり決まったけど。


 朝倉先輩の話を聞いた後は、何とか本の話題とかを出して話を繋いだ。


 そうこうしている間に陽も傾き始め、外は少しずつ暗くなってきた。


「そうだ!せっかくだし、晩ご飯食べていきますか?」


「いえ、遠慮しておくわ。滝平君に迷惑をかけるわけにはいかないもの」


「私もご迷惑をかけるわけには……!」


「そっか……」


 残念だけど、仕方ないか。二人にも都合があるだろうし。


 にしても、今日は姉さんも帰ってこないし一人か……。


「……分かったわ。一緒に晩ご飯を食べましょう」


「あ、私も!」


 急に二人が態度を180度変えて、晩ご飯を一緒に食べると言い始めた。


 一体、どういうことだろ?


「まあ、そんな捨てられた子犬のような目をされてしまっては、ね」


 僕がその理由を聞くより先に、朝倉先輩はそう言った。


 僕、そんな目をしていたのか……自分では全然気づかなかった……。


「それでは買い出しに行きましょうか」


 僕の家で晩ごはんを食べるとなって、上崎さんも何だか乗り気だ。


 でも、本当に一人で食べる羽目にならずに済んで良かった。


「あ、じゃあ、僕が買い出しに行ってきますんで、二人はここで待っててください」


 そう言って僕がリビングを出ようとすると、上崎さんが回り込んできた。


「滝平君、私も一緒に行きますよ。昨日は一緒に行ってもらいましたし」


「……それじゃあ、今日も一緒に行こうか」


「はい!」


 僕が振り返ると朝倉先輩がキョトンとした様子で突っ立っていた。


「あなたたち、昨日も一緒に晩ご飯を食べたの……?」


「あ、はい。食べましたけど……それがどうかしたんですか?」


 朝倉先輩は何やら言いたげな様子だったが、そこへある人物が帰宅した。


「加依!幸人!君たちが待ち望んでやまなかった兄との再会だよ!もう涙を流して喜んでくれちゃいたまえ!」


 ドアが開くやいなや、僕の兄――滝平駿平が帰ってきた。僕と姉さんは駿兄と呼んでいる。


 この兄は天才とバカは紙一重という言葉を体現したかのような人で、言動はバカみたいなことばかり。


 だけど、勉強ができるからロクに受験勉強もしないで割と偏差値の高い大学に特待生で入学したうえに、プログラミングでお金を稼いで僕と加依姉さんの学費から生活費、姉さんの塾代まで全額払ってくれている。


 僕はそこまで思い出した時点で、加依姉さんが駿兄が今週の土曜日に帰ってくることを言っていたのを思い出した。


 でも、今は金曜日の夜だ。予定より早いような気がする。


「駿兄、帰ってくるのは土曜日って聞いてたけど……」


「フッ、兄という生き物は愛しの妹と弟に会うためならば何としてでも早く帰るものだからね!」


 白い歯をキラリと光らせながら、ニッと笑みを浮かべる駿兄。


「おや?幸人が女子を二人も連れ込んでる?」


「ちょ、別に連れ込んだわけじゃ……」


 僕が慌てて振り返れば、上崎さんは顔を真っ赤にして俯いていた。


 そんな上崎さんの横を抜けた朝倉先輩は駿兄の前に立っていた。


「あの、私は滝平君と同じ図書委員で、高校二年の朝倉悠華と言います」


「これは丁寧にどうも。僕は滝平駿平、幸人の兄です。いつも、幸人がお世話になっております」


 朝倉先輩は流れるように自己紹介を済ませ、駿兄も挨拶を流れるように済ませる。


 こんな風に流れるように挨拶や自己紹介が出来るのは、ホント、コミュ力がある人ってスゴイ……


 こればっかりは、僕には絶対に出来ない。


「そうだ。今から、どこかに行くつもりだったのかな?」


「あ、晩ごはんの買い出しに……」


「そうだったんだね!だったら、僕も一緒に行こうじゃないか!」


 金曜日の夜には似合わないハイテンションっぷりを見せつける駿兄に押し切られる形で、僕たちは4人で歩いて晩ご飯の買い出しに向かうことになったのだった。

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