第2話

私が暮らしてきた施設には、沢山の仲間が居て当たり前の生活が保証されていた。

毎日のご飯も、生きてく上で必要な教養も教わり、体調が良くないと病院にも連れていってくれる、ちゃんとした施設。

勿論、施設なんて何度も出戻りした事がない私には、それらの事が施設では当たり前なのだと思って毎日過ごしていた。

ただ不思議だったのは、見慣れた施設の人達の他に見たこともない人達の出入りも沢山あった。

その度に一緒に暮らしてきた、お姉さんやお兄さんが1人、また1人と姿が見られなくなっていった。



そして私が4歳になった頃、施設の人達に連れられ、ある夫婦が訪れたのだ。



朝ごはんを食べた後、いつもなら職員さんや一緒に暮らしている兄妹達と、お庭に出て元気に遊ぶ時間。

その日は私だけ、皆と過ごす部屋とは違う、園長先生の部屋に通された。

2年近く施設で過ごしてきた私だけど、園長先生の部屋には職員さんと何度か入った事がある程度だ。

園長先生の部屋には印象的な大きな窓があって、お庭で遊ぶ皆の姿が良く見えた。

窓の横には難しそうな本が、しっかり整理された本棚が連ねている。

園長先生の部屋を訪れると、いつも本棚の前に置かれた座り心地の良さそうな椅子に深く腰を掛け、机に座ってニコニコ笑っている優しい園長先生が居た。

でも今日は、お客さん用の大きなソファーに座っていて、テーブルを挟んだもう1つのソファーには、私が見たことのない優しそうな夫婦が座っていた。



この時私は、初めて会う人達に、ただただ緊張して固まっていたのだ。


どうして良いか分からず、固まっている私を見て園長先生やその場に居た夫婦がクスクス笑いながら、私の事を話していた。

「愛、こっちにおいで。」

園長先生に呼ばれて、やっと動けたものの、何も出来ない私の代わりに職員の人が自己紹介なるものをしてくれたのを今でも覚えている。


「愛ちゃん4歳です。大人しい性格なんですけど、ちゃんと周りの子達の事も気にかけてくれる優しい子ですよ。」

私には勿体ないくらいの賛辞だ。

その後も、園長先生や夫婦の人達が、私の話をしていたのだと思われるが、私には窓の外で楽しそうに遊んでいる兄妹達が気になって、話を聞く処ではなかった。

一通りの話を終え、園長先生の机で男性は手続きと言うものの説明を受けていた。

いまいち状況が理解出来ず、相変わらず固まっていた私に、目線を合わせた女性の人が話し掛けてきた。


「目鼻立ちがハッキリしていて、とっても美人さんなのね。」


急に出された手に、一瞬ビクッと体が固まってギュと目を閉じた。


「これからの貴方の成長が楽しみだわ。今日から私達は家族になるのよ。よろしくね、愛。」



ふわっと私の頭を撫でる優しい感触に、目を開けてみると、そこにはお日さまみたいな暖かい笑顔があった。


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星になる前に… 宮乃森 戒音 @KAINEsan

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