第162話 最後の戦闘

「まず最初に陛下にお伺いします。殿下達の居場所は何処ですか?」

 これだけは聞いておかなければならない。

 

「心配いらないよ。一応王宮の僕の執務室にいるヴィットリオは知っているから聞けばいいけれどさ。もし何もしなくても僕がいなくなったら出てくると思うよ。ちょい山奥にいるけれど気をつけないと抜け出すからね。最初のうちは常時確認して、脱出されそうになっては移動魔法で戻すという作業を繰り返していたんだ。特にレジーナは1時間もあれば山中でも平気で20離40km位動くからね。あと食糧も調理済みの食事が1ヶ月分くらい入った自在袋を2個置いてある。心配いらないよ」


「つまり陛下を倒してしまった場合はヴィットリオさんに聞けばいいんですね」

「まあそうだね。そうしなくとも2日もあればレジーナなら何処かの街まで出てくるだろうけれど」

 これで懸案事項は解決した。


「さて、それを尋ねてきたという事は今日は本気で僕と戦うつもりなんだね」

「そのつもりです」


「僕のシナリオではここで敗れた後、ラツィオの王宮でもう一戦やる予定なのだけれどね。そうやって僕を含む何人かの内乱の首謀者を倒す又は拿捕して処刑する事によって次の時代が来ることを明らかにするという筋書きだったのだけれど」

 そうさせない為に俺は考えたのだ。

 まあ思いついたのはテディのおかげだけれども。


「陛下の未来視ではまだそのシナリオ通りに視えますか」

「三週間くらい前から今日、ここで戦闘を開始して以降の事が見えないんだ。どうも君が新たな作戦か魔法かを考えたのだろう。そこから先の未来を視るのに必要な情報が僕には欠けているようだ。いつの間にか情報戦でも負けていたようだね」

 そうか。

 それなら俺の作戦というか魔法が成功する可能性は高そうだ。


「それでは俺が開発した魔法を披露しましょうか」

「その前にもう少し向こうの戦闘を観察しないかい。どうやってゴーレムを片付けてこっちの騎士団の戦意を奪うか、ちょっと興味があるんだ」

 さっと未来視で確認する。

 大丈夫、陛下に逃げられたり死なれたりする可能性はないようだ。


「いいでしょう。それでは見てみましょうか」

 俺も陛下も空間操作魔法を持っている。

 つまりここの戦闘もバジリカタでの戦闘も自由に視認する事が可能だ。


 まずはこっちの戦闘。

 戦闘用ゴーレムが丸太障壁まであと10離20m程度まで迫ったところでフィオナが伝達魔法を相手ゴーレムに対して使用した。


『フィオナから近衛騎士団及び第一騎士団所属のゴーレムに命令するよ。健康と美容のために、食後に一杯の紅茶。繰り返すよ。健康と美容のために、食後に一杯の紅茶。近衛騎士団及び第一騎士団所属のゴーレム、機能停止!』

 俺にも伝達魔法が聞こえたという事は、きっと俺とミランダにも聞こえるよう伝達魔法の対象に入れたのだろう。


「おや、ゴーレムの動きが止まったね。何かやったのかい?」

「敵に回った際に動きを止められるよう、あらかじめ命令を組み込んであるんです。限定された人しか使えないですけれど」


「なるほど。あのゴーレムの思考部分はフィオナさんが組んだものだったね。

 騎士団でも一応こっちの技術者が調べたんだけれどさ。暗号化されていて命令部分については解析出来なかった。ただ命令を消すとゴーレムが動かなくなるからさ。結局まるごと複写したものに戦闘動作だけを追加しておぼえさせて使っていたんだけれどね。まさかその辺にも罠が仕組んであったとはね」


「陛下はその辺はご存じなかったんですか」

「ああ。何かしているだろうとは思ったけれどさ」

 その辺も情報が足りなかったのだろう。

 陛下も常に俺達を監視している訳では無い。

 自分の仕事もある訳だから。


「なるほど、ゴーレムを止めた後、ミランダさんとフィオナさんの2人でうちの陣に切り込む訳か。空間操作魔法を使用した無敵モードで」

「ええ。あれをやられると流石に騎士団の猛者でも勝ち目がないとわかるでしょう」


 俺達の視線の先ではミランダが無双というかヒャッハーしている。

 ただでさえ強力すぎる魔力を思い切りよく解放しているのだ。

 勿論火魔法とかそういった危ない魔法は使っていない。

 ミランダが使うと大量殺人になるからな、間違いなく。

 戦争だからそれも想定内なのだろうけれど、今後の為にも兵士等に遺恨を残さない方がいい。

 だから睡眠だの麻痺だの生死には異常ないが戦闘不可能になる状態異常系魔法がメインだ。

 結果としてばっしばっしと敵が倒れていっている。


 フィオナの方は倒すと言うより回収モードだ。

 移動魔法を使って主に指揮官や将校クラスをあらかじめ確保してある保護牢へと飛ばしまくっている。

 結果、近衛・第一騎士団合同部隊はあっという間に壊滅寸前。


「バジリカタの方も決着はつきそうだね」

 陛下の台詞で見てみる。

 こっちは完全にナディアさんの独演会場だ。

 停止したゴーレムと単独でゆっくり部隊に迫るナディアさん。

 侵攻部隊の背後はニアに塞がれている。

 上からはマイアが牽制している状態。


「確かにこれじゃ勝負はもう終わったようなものだな。それでは僕たちも遅ればせながら始めるとしようか」

 陛下はそんな事を言って、俺の方へと向き直った。

 だが申し訳ないが俺にはその気は無い。

 だから空間操作魔法を瞬時に起動する。

 テディのおかげで思いついた、未来へと飛ばすあの魔法だ。


「陛下すみません。俺は本来戦いは苦手ですし好きでもないんです」

 俺の台詞は陛下の耳に届いただろうか。

 陛下は姿を消す。

 俺の移動魔法で飛ばされたのだ。

 今のこの場所へ戻ってくることが出来ない場所へ。

 今から半年後の夏、俺達の別荘へと。


 未来視で確認する。

 もう半年後の未来が視える。

 大丈夫、成功したようだ。


 それではチャールズ・フォート・ジョウントとしてのお仕事に戻ろう。

 俺も通常空間の戦場へと帰還する。


『チャールズ部隊の右と左よ、もういいだろう』

 全体に聞こえるよう全範囲に広げた伝達魔法で俺は宣言する。


『チャールズ・フォート・ジョウントからこの場にいる全員に告げる。陛下は倒れた。近衛騎士団及び第一騎士団の者は投降せよ。君達の目でも見えている通りもはや勝ち目はない。スティヴァレ王国の今の体制はこれで終わる。

 繰り返す。陛下は倒れた。近衛騎士団及び第一騎士団の者は投降せよ。おとなしく投降すれば諸君を悪いようにはしない。

 なおバジリカタの方も既に決着済みだ』


『投降する者は武器を捨て街道の左側に出ろ。こちらで回収する』

 この後は敵部隊の捕縛等の処理になる。

 この辺の手順は既にミランダもフィオナも第二騎士団も了解済みだ。

 将校クラスは保護牢へ、下士官以下は第二騎士団の練兵場へ送る事になっている。

 送った先には第二騎士団の担当者がスタンバイ済み。

 既にフィオナが直接保護牢へ数十人送ってしまっているけれど。


 実務は第二騎士団の方でやってくれるが反抗しないよう、俺やチャールズ部隊、ナディアさんが見回りをする必要がある。

 更にその後には王宮で腐った連中の掃除もしなければならない。

 王宮の方はまあ、明日のお仕事だけれども。


 何はともあれ仕事は一段落した。

 でもこれからも当分は忙しいのだろうな。

 そしてまだまだこの後やる事がある。

『ミランダ、フィオナ、この後は頼む。俺は殿下を迎えに行ってくる』

『わかった。ここは任せろ』

『殿下に宜しくね』

 2人に見送られ、俺は移動魔法を起動した。

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