第159話 三文芝居
第二騎士団本部棟内会議室。
俺達は次の作戦についての会議中だ。
『第三騎士団は様子見の模様です』
『国王側が劣勢と感じて態度を変えたようだな。第三騎士団隊長はパルム伯爵だ。元々風見鶏的な奴だからな。今はフロレント領主のヴァジーナ公爵もラツィオだ。それを良い事にだんまりを決め込む気だろう』
『でもその方が都合がいい』
今回の会議は伝達魔法を使用して行っている。
陛下の魔法なら音声ではその気になれば傍受可能。
それが俺達以外にも明らかになったからだ。
『では1月8日の早朝をもってファブーロ郊外へ騎士団1個中隊とゴーレム兵100を出す。こちらはチャールズ殿とミランダ殿、フィオナ殿、メルリーク中隊長。バジリカタはナディア殿とギュンター中隊長。ファブーロ側の兵数が半分以下ですがそれで宜しいのかな』
ファブーロとはラツィオからフロレントへ向かう街道上にある地名だ。
ここを俺達は次の戦闘場所に選定した。
戦場に選定した理由は街道の周囲が湿原である事。
だから部隊を横方向に展開する事が困難になる。
更に距離がラツィオからバジリカタまでとほぼ同じなのも利点だ。
同時に戦闘を行えれば、俺とナディアさんを引き離す事が出来て勝てる可能性が高くなる。
そう向こうが判断すれば計画通りに戦いを進める事が出来るだろう。
『問題ない。我らのうち1名でもいればその場にいる敵のゴーレムを沈黙させる事が可能だ。今まで切り札としてとっておいた。それに我らの移動魔法にも限界がある。我が力を部下に貸し与えてもゴーレム100体と部隊員100名を移動させるのがやっとだろう』
俺の魔力では1回に武装した兵士なら15人程度、戦闘用ゴーレムなら10体程度を移動させるのがやっとだ。
ミランダは魔力が俺より大きく強いが、移動魔法に対する認識と慣れで俺に劣る。
だから結果的に移動できるのはほぼ同じ程度。
フィオナはだいたい兵士10人程度といったところだ。
行って戻ってを繰り返すのはそれぞれ10回以下にしたい。
帰りも移動魔法が必要だし、戦闘時に魔力が足りなくなる恐れもある。
まあ最悪の場合はテディやナディアさんに迎えに来てもらう手もあるけれど。
『確認だが双方とも作戦は同じ。陛下の相手はチャールズ殿が、敵のゴーレムに対してはナディア殿とフィオナ殿が対応するという事でよろしいか』
『その通り。なおファブーロにおいては、遠距離魔法や弓矢部隊に対してはミランダに対処して貰う予定だ。配置位置にいる限り全ての遠距離攻撃を防ぐと約束しよう』
今回に備え、俺達の超小型ゴーレムには更に空間操作魔法の応用を仕込み直した。
範囲空間封鎖、通常空間に対する無敵状態、矢や遠距離魔法を他の空間に逃がす空間歪曲といった戦闘用の空間操作魔法を簡単に使えるように教え込んでいる。
これらの使用についてはテディやサラ、ジュリアを含む俺達の仲間全員に練習してもらった。
今では仲間全員がほぼ使いこなせる状態だ。
『それでは本日の会議は終了としよう。メルリーク中隊長とギュンター中隊長は明後日の会議までに編成案と各種装備・糧食等計画案を策定。ゴーレム部隊の生産・配備状況については同じく明後日の会議までにフィオナ殿に御願いする。
それでは解散』
これで午前中の会議は終了だ。
なお実は午後も2時から会議がある。
こちらは現政権敗退後の仮政府に関する会議だ。
面倒だが仕方ない。
国を運営するなんてのは面倒な作業なのだ。
さて、チャールズ・フォート・ジョウントは一度別荘へ移動し、ウィッグを外して服装を着替えて再び第二騎士団の俺達が与えられた部屋へと移動。
この姿、つまりアシュノール状態の俺はチャールズの部下で伝達担当という事になっている。
本当は俺としての姿はここでは見せない予定だった。
だが皆さんの提言である目的の為に俺自身という役で登場する事になった。
そして今日がその目的を果たす日だ。
既に未来視で俺がこの後どうなるか視ているし、準備も終わっている。
『アシュ、準備はOKだ』
伝達魔法でそうメッセージが入った。
それでは作戦開始だ。
俺は部屋を出て、そのまま第二騎士団の建物を出る。
通行証を見せて騎士団の外へ。
ネイプルの街の賑やかな方へ向かって歩いていく。
いかにも昼食を外に食べに行くような素振りで。
人通りの少ない倉庫街にさしかかった。
そろそろだな。
そう思いつつも俺は変わらぬ素振りで歩き続ける。
今だな。
俺は躓いたふりをしてしゃがみ込む。
俺のすぐ前を矢が通り過ぎて行った。
冷や汗ものだ。
勿論姿は見えるけれど攻撃されない状態の空間に移動している。
それでも自分めがけて矢が飛んでくるというのは心臓に悪い。
「な、なんだこれは」
横の建物の壁に当たって落ちた矢を見ていかにも慌てたように言わせてもらう。
のそっと曲がり角から2人程出て来た。
第二騎士団で見た顔だ。
問答無用で切りつけてくる。
おいおい待ってくれ。
「何だ君らは」
「アシュノール・カンタータ。別名チャールズ・フォート・ジョウント。覚悟!」
違うと返答する余裕すら与えずとにかく切りかかってくる。
洒落にならない。
俺は戦闘は苦手だ。
しかも相手は2人。
ここは走って逃げるのが一番正しいだろう。
移動魔法を使えないと仮定すれば。
幸い俺は軽装だ。
荷物は小さめの肩掛けバッグ1つ。
だから騎士団員と言えど剣を持つ相手よりは走りやすい筈だ。
そんな感じでダッシュする。
やばい。
とっさに感じてちょっと右へ。
矢がさっき俺がいた位置を背後から追い抜いて行った。
おい本気で洒落にならないぞ。
そろそろ出てきて助けてくれ。
そう思った時だ。
『もう大丈夫だ』
やっとその伝達魔法が聞こえた。
俺は止まって呼吸を整える。
普段の運動不足がたたってもう心臓がバクバク言っている状態だ。
『チャールズ・フォート・ジョウント!』
追いかけてくる2人が立ち止まった。
『臨時雇用とは言え大切な我が部下だ。悪いがここで保護させて貰おう』
頭巾から鎧、足元に至るまで黒ずくめの装備。
黒い魔法杖。
頭巾から少しだけのぞく金髪。
いわゆるチャールズ・フォート・ジョウントが俺と2人の間に出現している。
『君達は拘束させて貰う。処理は第二騎士団に任せよう』
2人はすっと姿を消す。
『それではアシュノール君、君も第二騎士団まで送ろう。ここは危険なようだ』
俺は移動魔法で姿を消す。
移動先は第二騎士団ではなく俺達の別荘だ。
「ミランダ、もう少し早く出てきても良かったんじゃないか?」
「これくらいやった方がそれらしいだろ」
チャールズに扮したミランダが黒装束を魔法で一気に脱ぎ捨てる。
俺の前でいきなり下着になるのはやめて欲しい。
そりゃ中身も何度となく見てはいるけれど、それはそれこれはこれ。
「逃がしたのは2人でいいんだな」
「ああ。弓担当の奴ともう1人。テディが顔も名前も把握しているそうだ。今後2週間ほど泳がせておく予定になっている」
つまり今回の襲撃は全て計画通りという訳だ。
「これでアシュがチャールズでないと思ってくれるだろう」
「だといいけれどな。そうでなきゃ状況終了後、平和に静かに暮らせない」
「薔薇のように美しく散るなんてのも詩的でいいんじゃないか」
「やめてくれ」
話している間にミランダは着替え終わったようだ。
俺も魔法でチャールズ装備一式を装着する。
勿論金髪のウィッグもだ。
「それじゃ行くか」
「そうだな」
俺はチャールズ・フォート・ジョウントとして2人を第二騎士団に突き出さなければならない。
ミランダはしれっといつものお仕事に戻る予定だ。
なおあの2人はちょっと閉鎖空間に閉じ込めさせてもらっている。
移動ゴーレムを持っているか陛下でもない限り脱出は不可能だ。
俺とミランダは同時に別の場所へ向け、移動魔法を起動した。
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