第19章 それでも俺は挑戦する
第145話 バジリカタ襲撃
何日かの翻訳集中作業の後。
俺はバジリカタの領主館にいた。
この館は領主館だが、領主一族は王都であるラツィオに行ったままになっている。
暴動の後、戻ってくる気配すら無い。
だから今では領主の私的な生活部分と代官らの執務場所以外のほとんどは第二騎士団が使用している状態だ。
その中の会議室のひとつで、俺とナディアさんはギュンター中隊長をはじめとするバジリカタ派遣部隊の幹部一同といた。
『近衛騎士団・第一騎士団合同部隊のゴーレム車はフーレジーネの街に入った。予想ではバジリカタまで2時間弱。部隊規模は戦闘ゴーレム200、騎士団3個中隊300でゴーレム車72台と変化無し』
俺ことチャールズ・フォート・ジョウントは敵部隊を監視した結果を連絡する。
例によって伝達魔法だ。
声を知られたくないからな。
それにしてもゴーレム車72台か。
戦闘ゴーレムもゴーレム車も量産されているようだ。
それこそが近衛騎士団と第一騎士団の自信の元なのだろう。
確かに今までの馬車、歩兵と比べて段違いの力があるからな。
「チャールズ殿のその魔法、味方としては頼もしいですが敵に回すと恐ろしいですな。その魔法があれば偵察部隊すら必要ない」
『ああ。だから基本的には封印している。こちらでも基本的には私しか使えない』
ゴーレムを使用すれば魔法を使える、なんてことは勿論言わない。
陛下がこの能力を使えるという事も今は秘密だ。
「それにしてもチャールズ殿の偽物は何を企んでいるのでしょう。ロッサーナ殿下を拐かしたのも中部や北部で商家や貴族を襲っているのも偽物だと伺いましたが」
「似た魔法を使う一派がいます。遠距離移動魔法は持っていませんがそれ以外の魔法はこちらと酷似しています。ただ殿下を掠ったのはその一族ですらないかもしれません。犯行を証言したという貴族3名らが怪しいとこちらでは見ています」
これはナディアさんが回答してくれた。
勿論この辺の内容については事前に打ち合わせ済みだ。
「その辺りがチャールズ殿の仕業ではないという証拠は提示できないのか」
『残念だが不可能だ。当方でもロッサーナ殿下の行方については調べているところだが、現在までのところ発見には至っていない。心当たりがあるならば教えて欲しい』
以前の犯行はロッサーナ殿下の部下。
ロッサーナ殿下連れ去り以降の犯行は陛下の仕業だ。
だがその事を言う事は出来ない。
なお今でも北部と中部を中心に偽チャールズの犯行は続いている。
勿論犯人は陛下だ。
理由もわかっている。
『偽チャールズの犯行に脅威を感じる貴族は、それらに厳しい政策をとろうとする陛下につくだろう。陛下はロッサーナ殿下の件で反チャールズ対策を進めている』
なお俺は本日も金髪のウィッグをして、頭巾の隙間から見えるようにしている。
「偽チャールズは何故北部と中部を中心に襲っているのだろう」
『南部は経済が弱い。事案を起こした結果かえって民衆が苦しくなる事を避ける為だろう』
そんな会話と意思のすりあわせ、更に敵が接近して以降の作戦についての確認を行った後。
『
勿論実際はナディアさんがゴーレムの魔法で見て報告するのだがそれは言わない。
「わかりました」
「チャールズ殿1人で本当によろしいのか」
『心配は無用』
俺は立ち上がり、軽く皆に頭を下げ、移動魔法を起動した。
◇◇◇
この付近は一面の畑作地帯だ。
今は麦踏みの2回目が終わった程度の段階。
出来ればこの辺の畑は荒らされたくない。
だから出来るだけ畑の被害が少なくなりそうな場所を探して陣取る。
陣取るといっても俺一人だが。
第二騎士団の部隊は街周辺を警戒している。
『車両1台を先頭に騎士団1個小隊、ゴーレム部隊、残りの部隊という形で接近してきます』
ナディアさんから連絡が入る。
なおゴーレムによる通信では無く伝達魔法だ。
この距離なら問題無く使用できる。
なお俺からの連絡もナディアさんに直接伝達魔法で伝えている事になっている。
『それでは出来るだけ畑に被害がないよう対処するとしよう』
勿論俺も視ている。
だが騎士団幹部に聞かせる目的もあるのでこれでいい。
『
重い丸太を組んだ大きい車止めだ。
普通の人の魔法では重くて取寄も移動も出来ない代物。
だが空間操作魔法を自由に使える俺なら問題無く操れる。
これをゴーレム車への障壁として、街道及び直交する農道に並べた。
準備は昨日、俺とナディアさんが第二騎士団に到着後からやっている。
作戦も既に第二騎士団全部に通知済みだ。
基本は俺1人による作戦。
だが第二騎士団と俺が組んだという事実が重要だ。
だから駐留している第二騎士団ともいつでも連絡がとれるようになっている。
さて、来たな。
先頭を走るワゴン型ゴーレム車が丸太障壁を見て止まった。
それでは口上を述べるとしよう。
『私の名前はチャールズ・フォート・ジョウント。ラツィオの騎士団よ、そのような重々しい装備で何用か、答えよ』
派遣部隊及び第二騎士団の全員に聞こえるよう、伝達魔法の範囲を広くして問いかける。
『私は近衛騎士団・第一騎士団合同派遣部隊の長、副千卒長ナグコス・ヴァーミュライト伯爵である。不逞の輩よ退くがいい。王命である』
本来は階級は名前の後ろにつける。
この名乗り方は貴族特有のもので貴族の階級を名乗りたい場合に使う方法だ。
つまりはまあ、相手方はゴリゴリの貴族思考に固まった奴と思われる。
なお部隊が走り寄ってくるのが見えたので空間操作魔法で障壁を作る。
障壁の場所は丸太の障壁と同じ位置だ。
『王命とは片腹痛い。単なる派遣部隊長の言葉ではないか。我は民衆の意思と第二騎士団の意思を受けここにいる。
再度問う、ラツィオの騎士団よ、何用か。答えよ』
我ながらこういう会話は何かむずむずする。
でもそういう場だから仕方ない。
『ロッサーナ殿下を拐かし、また各地で襲撃事案を繰り返している不逞の輩よ。そこを退くがいい』
『それは私では無い。私の名を騙る偽者である』
『ならば証拠を見せよ』
『証拠は疑う方が提示するものである』
この辺はお約束の台詞だ。
『なら第二騎士団に告げる。王命である。至急我らが指揮下に下り、この不逞な輩を排除せよ』
この伝達魔法はギュンター中隊長まで届いているだけではない。
俺に聞こえるという事は伝達魔法の相手を絞っていないという事だ。
つまり第二騎士団員のほとんどにも、街の人にも聞こえている事になる。
『第二騎士団バジリカタ派遣隊隊長、ギュンター百卒長だ。第一騎士団ナグコス副千卒長よ、当方へ来られた目的を明示されたい』
こちらも対象を絞っていないので周囲全員に聞こえている。
『副千卒長ナグコス・ヴァーミュライト伯爵である。我に従え』
『貴官の命令に従うべき根拠を提示いただきたい』
『我は副千卒長ナグコス・ヴァーミュライト伯爵である。上官であり伯爵である我に従うのは当然である』
『騎士団の命令秩序として貴官に従うべき理由は存在しない。もう一度問う、貴官の命令に従うべき根拠、及び貴部隊の目的を提示いただきたい』
ギュンター隊長は上手くやっているなと思う。
これで相手がゴリゴリの貴族主義者だという事が誰の目にも明白になった。
なお俺は騎士団の他の動きも観察している。
前方の部隊は俺の魔法障壁で食い止められている。
彼らが撤退する時の為に後ろはあけておこう。
『ナディアさん、敵騎士団の前方を空間操作魔法で閉鎖しました。横の畑方向までは俺の魔力では長さ的に無理です。その辺は随時頼みます』
『わかりました。第二騎士団にこの件を伝達します』
これは相手を指定した伝達魔法だからナディアさんにしか伝わらない。
だからナディアさんが向こうで皆に伝える必要がある。
元々現況報告もその形式としているから問題無い。
さて奴らはどう出るだろうか。
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