第18章 思わぬ敵

第140話 今後の動向

 翌朝、いつもの別荘の食堂。

 朝食は同時に情報交換や連絡の時間でもある。


 さて、確かに近衛騎士団はラツィオに戻った。

 しかしだ。

「これで事態が収まるとは思えませんわ」

 テディの台詞に皆頷く。


「物価高は相変わらずだからな。庶民、特に都市住民の不満はそのままだ。これをそのままにしていると第二、第三の暴動が起きるな、間違いなく」

 ミランダが言うとおりだろう。


「他の騎士団の動きはどうだろう」


「第一騎士団はラツィオが本拠地ですし構成も近衛騎士団と似たようなものです。おそらく近衛騎士団と連携して動くでしょう。

 ネイプルの第二騎士団は今回の件で近衛騎士団と対立しました。元々あそこの騎士団長はオイグル伯でかなり庶民寄りの方です。また部下もほとんどが庶民出身となります。よほどの事が無い限り今のスタンスを堅持するでしょう。


 第三、第四、第五はそれぞれ本拠地がフロレント、ウェネティ、トランと王都ラツィオから離れています。ですからまだ反応はありません。

 ただ第三はこの中では一番ラツィオに近く、また騎士団長も権力寄りの方です。またフロレント領主であるヴァジーナ公爵も貴族的な考えをする方です。立場としては近衛騎士団側につきやすいと思われます。

 第四、第五は国境警備も兼ねていますので動く事は無いでしょう。おそらく現状では中立を装うと思います」


 ナディアさんは騎士団の監視をしてくれている。

 元々近衛騎士団員だっただけにその辺は的確に見てくれているようだ。


「徴用が行われているのは現在のところオッタービオさんの処だけかな」

「他にもゴーレム製造に必要な資材等は各商会から徴用しているようだね。オッタービオさん関係でその辺聞いているよ」

「そのせいでラツィオに拠点を置いている商人はともかく、それ以外はラツィオへの物資搬入を避けようとするだろうな。徴用を避けるためにさ」

 ちょっと待ってくれミランダ。


「非常事態法による徴用ってゴーレム関係だけじゃないのか?」

「今のところはそうだね。戦闘用ゴーレムを量産するために材料を確保しようとしただけだと思うよ。あとは戦闘用ゴーレム技術が他に渡るのを防ぐために関連する物を押さえた形かな」

 フィオナがそうこたえてくれる。


「なら何故他の商人も避けようとするんだ?」

「近衛騎士団の目的が戦闘用ゴーレムにあると知らないからさ。自分の商品も徴発される可能性があるとなればやっぱり避けたくなるよな。徴用されたという事実は号外で流れているしさ」

 そうなるという事はだ。


「ならそのうちラツィオで食糧不足とかにならないか」

「なるだろうね。そうでなくとも値段が上がっているのに、余計に値段が上がる事になるよ」

 フィオナが頷いて、そして続ける。


「だから更に徴用する事になるんだろうね。次は食糧関係だよ。幸いラツィオには大貴族御用達の大商家もいくつかあるからね。そこから徴用しまくればある程度は困らない。でもそのままではじり貧だね」


「泥沼だな」

 俺の感想にテディが頷く。


「そうですね。近衛騎士団は失敗したのですわ。

 バジリカタで第二騎士団を抑えて暴動に参加した民衆を無理矢理拿捕し鎮圧する。それに失敗した事から全てが駄目になってしまったのです。

 本当はゼノアでチャールズのアジトを発見し、またバジリカタの暴動を完全解決する。この2つの功績を提示する事で、この先の政策に対するアドバンテージを取ろうとしたのでしょう」


 それにしてもだ。 

「何故そんな馬鹿げた失敗をしたのだろう」


「戦闘用ゴーレムの威力を過信したのでしょう」

 今度はナディアさんがこたえてくれる。

「戦闘用ゴーレムは魔法が効きにくい上、人の数倍の腕力を持っています。ですので前面に出せば数倍の兵を相手にしても負けないでしょう。その威力を過信するあまり、他の要因を無視してしまったのだと思います」


「それに偽チャールズ・フォート・ジョウント事案や今回の暴動事案で貴族の足もとには火がついた状態ですわ。偽チャールズはともかく暴動発生を抑えるには力による鎮圧を行う事が一番と判断したのでしょう。

 また偽チャールズ事件で領地内の不正を暴かれて処罰された貴族もいます。出来ればその辺の取り締まりも今後はしないような方針に持って行きたい。その為に今回の功績を元に政策を自分達寄りに変えよう。そういった意図もあったかと思いますわ」


 そうやって強欲をかいて失敗した訳か。


「でもそれならば、今後はどうするつもりだろう」

「このままでは自分達が勝手に非常事態法を使ったとばれて処分されるだけだね」

「だな。だから自分の身可愛さにとんでもない事をする可能性もある訳だ」

 フィオナの台詞にミランダが頷く。


「あの号外は明日の昼には出る。出てしまえば陛下がこれらの事態について知るのも時間の問題だ」

「なら早急に何か起こす事になるでしょうね」


 なるほど。

 なら面倒だが仕方ない。

 未来視を使って次にどう動くべきか考えるとしよう。


 まずはいつ状況が動くかの確認だ。

 今日今時点から探って……

 明日の午前十一時だな。


 動き方は……殿下だ。

 殿下が動く訳では無い。

 殿下が狙われるという意味だ。


 見たからには皆に教えておこう。

「今、未来視で確認した。明日の朝11時、ロッサーナ殿下が襲われる。理由はチャールズ・フォート・ジョウント事案に関わったという事でだ」


「確認しますわ。殿下を襲うのはどちらの方で何処で襲われるのでしょうか」

 テディに言われて気づく。

 そういえばその辺を説明していないよな。


「場所は王宮の国王補佐官室だ。つまりロッサーナ殿下の執務室だな。襲うのは貴族らしい男3名に連れられたおそらく騎士団員十数名だ。

 殿下をチャールズ・フォート・ジョウント事案に関わっている容疑で身柄拘束するという内容の台詞があった。だがその後の詳細はいきなりぼんやりしてよく見えない状態だ。だから結末はよくわからない」


「わかりましたわ」

 テディは頷いた。


「でもそれってどういう理由で貴族が殿下を襲うのかな?」

 フィオナが疑問を口にする。


「おそらくは人質ですわ、陛下に対しての。おそらくですが陛下が思い通りに動いてくれない貴族の一部が、陛下を思い通りに動かす為に殿下を人質に取ろうと画策したのでしょう。今までのスティヴァレ王宮にはよくあった事案ですわ」

 これはテディの予想だ。


「犯行をチャールズ・フォート・ジョウントのせいにするなんてのもありでしょう。そうする事によって偽チャールズ事案への強硬措置を正当化する事も出来ますから」

 これはナディアさんの予想。 


「ただ実際に襲撃しても目的を達成する事は不可能でしょう。レジーナさんとソニアさんが常時つめていらっしゃるのですよね。でしたら誰を何人連れてこようとも勝負にならないでしょう。陛下ご自身かアシュが敵であればまた別ですけれども」


 確かに。

 騎士団最強と言われたソニアさんでさえレジーナさんにかなわなかったのだ。

 騎士団員を何人連れて行こうがレジーナさんと闇魔法をおぼえたソニアさん、そして殿下自身に勝てるとは思えない。


「いずれにせよ殿下には連絡しておくべきでしょう。後ほど私が話をしに行って参りますわ」

 テディが連絡に行ってくれるようだ。

 この程度動く事ならお腹の子にも問題は無いだろうしお願いしてもいいだろう。

 殿下とも仲が良さそうだし。

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