第139話 俺は納得出来ない

「ただいま。ああ疲れた」

 近衛騎士団部隊が完全にバジリカタから撤退した事を確認して撤収。

 帰りしなにバジリカタと近衛騎士団のあるラツィオにそれぞれ2人を置いて帰ってきた。

 双方とも熟睡した状態で宿屋に置いてきたから、起きるのは近衛騎士団がラツィオの本拠地に到着した頃になるだろう。

 なお宿屋にはちゃんと1泊分の支払いをしてきた。

 宿に罪は無いからな。


「アシュ、ずいぶん悪役が板についていたよね。案外あのチャールズ・フォート・ジョウントの方が本性なんじゃない?」

 フィオナにそうからかわれる。

 おい待ってくれ。


「まさかとは思うけれど見ていたのか」

「ええ。移動ゴーレムがあれば見ることが出来ますから」

 思い切りテディに肯定された。

 勘弁してくれ。


「あれはあくまであの場にあわせた役という事でさ」

「なかなか格好良かった」

 そう言ってジュリアはテーブルの上を指さす。

 何枚もの絵が置かれていた。

 わざとらしく一礼したり、ふんぞり返った様子で部隊長2人と応対したり、副官達に指示したりしている黒子衣装姿を描いたものだ。


「勘弁してくれよ。完全にこれじゃ俺が悪役だ」

「それも必要。わかっている」

 けれどどうにも恥ずかしい。


「そう言えばミランダは?」

 この場にいないのは彼女だけだ。

「あちこち動き回っているみたいです。何か起こった際には情報網が必要だと言っていましたから」

「この絵もミランダさんに頼まれた。出来のいいもの3枚を持って出ていった」


 おい待てミランダ。

 いったい何をしているんだ。

 そう思った時だ。


 空間が揺れる。

「ただいま。ああ疲れた」

 当人のお帰りだ。


「お疲れ。どうだった?」

「とりあえずはこんな感じだ」

 ミランダは号外紙を3部、テーブルの上に置く。


『非常徴収か! ゴーレム工房に近衛騎士団が押し入る!』

『チャールズ・フォート・ジョウントまたまた出現』

『近衛騎士団バジリカタに侵攻するも撤退!』

 おいおい。


「どこから仕入れたんだよ、こんな情報」

「チャールズ・フォート・ジョウントの動向をテディ達に聞いてさ。良さそうな場面をジュリアに描いて貰った。あとは各社の記者諸君が集めた状況だな」

 なるほど。


「これから先、革命をうまく進めるためには必要な事がある。情報だ。民衆に今何が起きているかをうまく伝える必要がある。お上に都合いい情報ばかり流されたら起きる革命も起きなくなるからさ。そんな訳でまずは今の状況がどうなっているのか、全国に流させて貰った」

 ちょっと待て。


「ミランダはどうやってその辺コントロールしているんだ?」

「コントロールなんてしていないさ。真実を伝えようとしている記者や号外発行会社に協力しているだけの事だ。あとは各社が勝手に動いているだけだな。今後予想される事態に対処する為にさ」


「今後予想される事態って何かな?」

「号外の検閲や発行停止だな」

 おっと、そういう可能性もある訳か。


「あの辺が好き勝手やる為には情報を封鎖した方が楽だ。だから非常事態法に基づいた事実行為として号外の規制をやる可能性がある。

 号外を止めれば今何が起きているか民衆が知る手段が無くなる。遠方の事案だけじゃ無い。目の前で起きている事だって何がどうなってどういう背景で起きているか知る事が出来ない訳だ。


 勿論号外を出している出版社ならその危険性に気づかない訳はない。あとはその出版社がどういう態度をとるかだ。中立を守るか体制側に迎合するかあえて反体制側に回るか。


 態度によって印刷手段や配布手段も変わるだろう。今まで通り図書館や号外売店で売れなくなる事も考えられる。その辺を考えて配布に商業ギルドや冒険者ギルドに協力要請をしたりなんて必要もある訳だ。他にも秘密裏に印刷する場所を確保したり、記者の避難先や非常時の情報源確保だのも必要だ。


 その辺をいざという際には利用できるよう、まずは情報を提供しつつ各社を調べてみたりした訳だ」


 なるほど。

 流石というか、俺達の間ではミランダしか出来ない情報戦だ。


「助かる」

「でもこれから大変なのは多分チャールズ・フォート・ジョウント本人じゃないのか。近衛騎士団相手に宣戦布告したようなものだろ」

 確かにそうだ。

 自分がさっきやった行動をもう一度思い返してみる。


「俺らしくない行動だよな」

「いや、多分これもアシュらしいんだと思うよ」

 えっフィオナ?

 どういう意味だ?

 テディとミランダも頷いているし。


「俺は基本的に目立つ事は苦手なんだけれどな」

「苦手って訳じゃないと思うぞ。単に必要じゃないと判断しているからやらないだけだろう、普段はさ」

 どういう意味だミランダ?


「アシュは目立つことも華やかな事も苦手なのではなく興味がないだけなのですわ。名誉やお金等に対する欲もほとんど無いですし」

 テディの台詞はその通りだとおもう。

 微妙な余韻が怪しいけれど。


「でも本当はそういった事が苦手なんじゃない。必要性を感じないからやらないだけだ。本当は目立つとか目立たないとか、そんな人目を全く気にしていない。今までは単に結果として目立たなかっただけでさ」

 ミランダ、どう続ける気だ一体。


「だから必要があると判断した場合は人目を気にしない分、自分の意思の通り大胆に動くだろうと思うんだ。人目を気にせず欲も無い分、自分の意思に忠実に。

 そういう意味でチャールズ・フォート・ジョウントという役は間違いなくアシュらしい役なんだと思うな。今までに色々な物語を読みためた分、役作りもなかなか出来ているしね」

 フィオナなんだよその結論。


「俺はあくまで静かな生活を好む一般人だぞ」

 ここはきちんと主張をしておこう。

 しかしだ。


「流石学校から知っているだけあってよく見ていますね」

「納得出来ます」

「同意」

 何だこの反応は。


 何か皆、俺の事を間違って認識していないだろうか。

 俺としてはどうにも納得いかない。 

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