第78話分岐 間違った俺の間違った選択

■■■■ 注意事項 ■■■■

 このお話はアシュ君が間違った行動をとった結果終わってしまったお話です。終わってしまいますが本編ではないのでご心配なく。本編と並行に存在する、おまけ世界の話だと思ってください。

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 ふっと意識を取り戻す。

 どうやら疲れすぎて机に向かったまま落ちていたらしい。


 酷い夢を見た。

 ① 『ドクター・モロー』を訳して渡してしまって以来、テディに白い目で見られ続けている中

 ② 『果てしなき流れの果てに』をどうにかスティヴァレでもわかるように訳して燃え尽きたところで

 ③ ペリーローダンとグインサーガを全部訳せとミランダにせっつかれつつ、

 ④ 訳した『スキズマトリックス』がわけわらないと出版社担当に怒られている 

という夢だ。

 こんな夢を見るのも働き過ぎで疲れているからだろう。


 魔法武闘会でも使った10倍速モードを使って翻訳時間を時短しまくりつつ働いていたのだがそろそろ限界だ。

 何せ時短モード、1時間で10時間分働ける代わりにとんでもなく消耗するのだ。

 通常の状態で10時間ぶっ通し勤務をするよりも。

 まるで仕事用の精神と時の部屋だよな、まったく。


 人間疲れると思考がおかしくなる。

 今の俺がまさにそうだ。

 だからだろう。

 ふと思ってしまったのだ。

 俺の召喚魔法であの伝説の本も取り寄せできるのではないかなんて。

 疲れで暴走した俺の思考は理性の制御を受け付けない。

 だからつい実行してしまう。


 魔法陣を描いて魔法式を描く。

 日本語書物召喚や特殊日本語書物召喚とほぼ同じ魔法陣と魔法式だ。

 ただ今回は日本語限定はつけない。

 また今回の本は召喚出来たら大変に価値がある本の筈だ。

 だから代償となる金額も正金貨1枚100万円とはずんでやる。


「我此処に強く望む。空間系の魔素よ我が元へ集いたれ。我此処に強く望む、我が魔力と魔素によって……」

 書物召喚の魔法の構築ももう慣れたものだ。


「……以上これら我が祈願を『特定書物召喚』と命名する。特定書物召喚! 魔導書ネクロノミコン、起動!」


 ぐっと魔力を吸い取られる。

 だが手ごたえは感じた。

 失敗して魔力が吸い取られるのとは確実に違う感覚だ。

 だが魔力の消費が激しすぎる。失敗か。

 そう思った時、ふと負担が軽くなった。

 まるで誰かが手助けしてくれているかのようだ。

 テディかミランダか。

 いや違う。俺の知らない黒くて重い魔力だ。


 ふっと魔力の負荷が止まる。

 正金貨が消え、1冊の本が現れた。

 茶色の妙にひび割れた独特の革で表装された重厚な本だ。

 本そのものが巨大な黒いオーラを纏っているように感じる。

 このヤバそうな雰囲気は本物だろう。

 成功だ!

 

 召喚された本を手に取ってみる。

 おっと、表紙が右開きになっている。

 そしてこの文字は確かアラビア語だよな。

 勿論俺はアラビア語なんて読めない。

 その筈だったが……


 ふっと何かの気配を感じた。

 同時に静電気のような軽いショック。

 何だ、今のは。

 周りを見るが何もない。

 何だろうと思いつつもう一度召喚された本を見てみる。


 何だ、読める! 読めるぞ!

 アラビア語なんて知らないのに何故か読める。

 本の扉部分に記されていたタイトルは『アル・アジフ』。

 おいおいこれってネクロノミコンのアラビア語版原題じゃないか。

 狂える詩人アブドル・アルハズラットが書いたといわれている。

 まさか失われた筈の原本じゃないよな。

 ひょっとして俺が召喚してしまったから失われたのではって、そんな訳はないよな、きっと。


 どっちにしろ貴重な本だ。

 スティヴァレの魔法研究が更に進む可能性がある。

 しかし危険な本であるのは間違いない。

 それなりの準備をしてから読む方がいいのだろう。

 そう思ったのだが何故か俺の手は勝手に本をめくる。

 おいおい何故だ俺にはその気は無いのに手が止まらないぞ!

 そう思ったところで突然手の動きは止まった。


 開かれた本のある行に俺の視線が吸い付けられる。

 まて見るな読むな! 危険だ。

 そう思うのだが止まらない!


「イア、イア、クトゥルフ、フタグン! フングルイ、ムグルウナフ……」

 俺の口が勝手に開いて呪文を読み始める。

 まさか俺は邪神に介入されて手助けをさせられているのか。

 これから何が起きるというのだ。

 まさか邪神の召喚というか顕現か。


 誰か、誰か止めてくれ!

 そう思うのだが何故か誰も俺に気づかない。

 妙な呪文を唱えているのだから普通はこっちを見たりする筈なのに。


 助けを求めて辺りを見ようとするが視線が呪文部分から離れない。

 視界の隅にかろうじて事務所の窓が入っている。

 そしてそこにはいつの間にか……

 ああ! 窓に! 窓に!


 ■■■ THE END ■■■ 

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