第77話その1 お仕事モードだったのに

■■■■ 注意事項 ■■■■

 本日掲載分はその1,その2の2部構成です。

 その1が本筋のお話、その2が個人趣味的なお話となっています。

 その1だけで話は次話に続きますので、時間がない場合はその2は読み飛ばしても問題ありません。

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「うーん」

 俺の斜め前の席でミランダが考え込んでいる。

「どうかしたのか?」

「いや、アシュの選択さ。確かにテディ達の言う通り少し年齢層が上がる。けれどこれはこれで悪くないと感じるんだ。だから出来れば訳して出したい。

 どうせテディのスケジュールが半月くらい空くんだ。それにどうせ訳すんだろ、テディが頼んでいたし」

 なるほど、確かに。


「あと児童書のシリーズ物を出すというのも確かにいいかもしれない。ただ以前と同じ路線というのも捨てがたい。だからテディが選んだのとアシュが今持ってきた奴全部、これを順番にやっていこう。午後3時頃まで待てばサラも帰ってくるからその場で会議を開いて私が提案する」

 なるほど、それも正しいよな。

 そう考えてふと気づく。


「それって俺が地獄のスケジュールになるって事だよな」

「バレたか」

 ミランダがにやりと悪そうに笑った。


「一気に全部訳す必要はないさ。とりあえずテディご推薦の奴と後でアシュが持ってきたもののシリーズでない1冊を先にやって、あとはフィリカリスなんかと同じで1~2ヶ月おきに訳していけばいい」

 それなら何とかなるか。


「それに向こうの言葉をスティヴァレ語に訳す作業は結局アシュしか出来ないからさ。ここのお仕事は構造的にアシュを酷使するようになっているんだ。それはまあ諦めよう」

 はあ。

 言われてみるとその通りだけになんとも言えない気持ちになる。


「あと、次に訳す児童書ではない方の小説だけれどさ。今度はアシュ自身が面白いと思う本を出して欲しいんだ。テディの好みにあわせるんじゃなくてさ」

 おっと。

 思っていなかった方向性だ。


「でも今までと同じ方向性の方が売りやすくないか?」

花の名前ノメンフロッスシリーズのヒットで今後同じような路線の本が他からも色々出ると思うんだ。だから同じ路線では埋もれてしまう恐れがある。それなら新しい路線を開拓した方がいい」

 なるほど。


「まあ今すぐに好きだった本を出せとは言わないさ。その辺1月くらいゆっくり検討してみてくれ」

「ゆっくりと言っても仕事量はそのままだろ」

「当然だ。アシュが働かないと全員飢え死に一直線だからな」

 はいはい。

 仕方ないな。


「なら特に俺の方は今あらすじを書く必要もないな」

 北極のムーシカミーシカとたんたのたんけんについては以前あらすじを作った覚えがある。

 過去のノートを漁れば出てくる筈だ。

 一息ついたところでふと思い出した。

 幸いな事にここにはミランダと俺しかいない。

 聞いてみるチャンスだ。


「ところでミランダ、朝何があったんだ? いつもと違う感じだったけどさ」

 ミランダが一瞬びくっとして、苦笑いを浮かべる。

「いやさ。こう見えても女の子相手のベッド上のプロレス、今までは負けた事は無かったんだ。無論アシュを襲う時ほど本気で最後まではやらないけれどさ。起こしに来た誰かを脱力させるのは得意なんだ。まあその辺は学校の寮で鍛えたんだけれどさ」


 おいおいおい。何という話題なのだ。

 でもフィオナもそんな感じの事を言っていたよな。

 振ってしまったのは俺自身だから仕方なく聞いている。

 でも待てよ。


「それが今朝とどう関係あるんだ?」

「例によって寝ぼけていたからさ。どうせテディかフィオナだろうと思っていつも通りベッド内に引き入れて襲おうとしたんだ」

 おい!

 でもあえて突っ込まずにそのまま聞く。


「そうしたらさ。中でさっと位置を反転されて反撃されたよ。いや流石元騎士団、体術もテクニックも私の比じゃない。ヤバい場所を的確に攻められて悶絶寸前でさ。下着まで濡らしてしまったから仕方なく全部着替えた訳だ。かなわないなあれは」

 待ってくれ!

 それって百合百合な事案なのか!

 それならナディアさんは……


「あとアシュの為に言っておくと、ナディアさんは女性専科じゃないな雰囲気的に。あれは多分両刀遣いと見た。オトコの経験があるかどうかはわからないけれど志向的にはな。今度アシュの寝床に2人で押し入って色々ご教授願おうかと思っているんだ。あ、これは秘密だったか」

 おい待てミランダ。


「頼むからやめてくれ」

「押し入るんじゃなく私の番の日なら問題ないよな」

 なんでそうなるんだ。

 そもそもこんな明るい時間に事務所で何という話題になるんだ。

 確かに最初に話を振ったのは俺だけれどさ。

 でもこんな結末になると思わなかったんだ。

 勘弁してくれ、本当に。

 怪しい気分になってしまうだろう!

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