第12話 男の責任(R15+)

 テオドーラさんは巨大ベッドに座る。

 起き上がって座った俺のちょうど真横。

 腕が触れるくらいの近さだ。 

「家から独立した事ですし、これからはもうそれぞれ、何をしても自由ですわ。それで早速ですけれど夜這いに参りましたの」

 どうも俺の聞き違いじゃなかったようだ。


「しかし何で夜這いなんて」

 無粋な台詞と言われるかもしれない。

 でも俺自身色々な気持ちが合わさってちょいまともな状態では無かったりする。

 頭の回転もかなりおかしくなっている訳だ。


「大貴族の娘なんてのは基本的に政略結婚の道具なのですわ。ですからある程度の年齢からどういう事をするかは知識として教えられています。勿論実際に、というのはありませんけれど」

 そうなのか。

 エロい事実を知ってしまった。

 ちょっと俺の身体の一部がいうことを聞かなくなりそうだ。

 既にとんでもなく元気になりつつあるし。


「それともアシュノールさんは私の事を嫌いですか」

「それは無いです」

 むしろ嫌いでは無いから困っている。


「なら良かったですわ。私はアシュノールさんの事が好きですから。私に読んで感動できるような本を与えてくれたばかりか、家からも自由にしていただいて。それに夕食のチーズケーキでしたっけ、あれも大変美味しかったです。こんな生活を始められるなんて夢にも思っていませんでしたわ」

 まあその辺は彼女の価値観だから否定する必要は無い。

 普通は侯爵令嬢なのに勘当されるなんて望まないと思うけれど。


「色々な物語で最後、愛する人と結ばれましたなんて終わり方があるじゃないですか。私はそんなお話に憧れる反面、諦めていたんです。私にはそんな未来どうせあり得ないと。好き嫌いは関係なく親の決めた人の元に嫁いで、私の思いに関係なく子供を産まされる。そんな風にずっと思っていたのです。

 でも私は自由になれました。そして今、大好きだと思える人の傍にいます。だから今、ここにいて本当に嬉しいのですわ」


「でも相手が俺でいいんですか」

 卑屈かもしれないがこれだけは一応聞いておかなければいけない。

 でも彼女は大きく頷く。

「アシュノールさんがいいんです。というか私がこうしたいと意識したのはアシュノールさんが初めてなのですわ。今まで教えられた事もアシュノールさんとすると思うと嬉しいし胸がどきどきするのです。ですからお願いします。私を……」

 ここまで言われれば断るなんて出来ない。

 俺も男だ。

 それにそろそろ我慢が辛い。

 だからテオドーラさんの方を向いて、両手で抱き寄せようとしたところで。


「ちょっと待った!」

 最悪なタイミングで扉が開いた。

 開いた扉の向こうに見えるのはミランダさんとフィオナさん。

 あ、やばい。

 られるかも。

 そう思っても身体がとっさの事で動かない。

 しかも一部がギンギンに反応したままだ。


「テディ、フライングするなよ」

「だってどうしても一緒になりたかったのですわ」

 えっ!? どういう事だ? 混乱する俺。

 ミランダさんが苦笑いを浮かべつつ口を開く。

「いやな、今晩、3人で夜這いしようという話だったんだ。ただテディの部屋へお誘いに行ったら既にいなかったからさ。慌てて2人でやってきた訳だ」

 おいおい何だよそれは。

 夜這いってそんなカジュアルなものなのか。

 俺、ひょっとしてモテ期? なんて有頂天になるような余裕は俺には無い。

 何せ前世からの魔法使いどうていだから。


「さて、ここで私達3人からアシュノール君に質問だ。誰を選ぶ?」

 おいちょっと待った。

 いきなり言われて選べる訳無いだろう。

 何せ3人が3人とも魅力的だ。

 少なくとも見た目で優劣はつけられない。

 見た目以外でも優劣はつけられない。

 3人が3人とも俺には勿体ない位の女性。

 それに今後を考えるとここで1人を選ぶのは問題を起こしそうだ。


 数秒の間にぼんくら頭がフル回転。

 そして俺は俺らしいけれどつまらない結論と台詞を選び取る。

「ごめん。3人とも魅力的過ぎて選べない」


 ここで予想外の反応。

 ミランダさん、肉食獣系統の笑みをうかべやがった。

 フィオナさんもだ。

 こいつら何を考えている!

 今の回答、何処かで間違えただろうか。


「うむ、選ばないか。つまり3人全員とはなかなか豪胆な決断だな」

 おい待ったミランダさんそれ1文字違う。

 確かに非常に嬉しいがそうじゃない!

 でもそんな事を俺が言える雰囲気にはない。

 さながら肉食獣に囲まれた草食獣の気分だ。

 これはつまりハメられた訳か。

 いやハメる方だけれどって洒落じゃない!


「なら誰から行く?」

「最初にここに来たのは私ですわ。それにアシュノールさんを最初に見つけたのも」

 テオドーラさんの主張に残り2人は顔を見合わせ、頷きあった。

「仕方ないかな」

「だな、最初はテディに譲ろう」

 そして2人ともベッドサイドに座る。

 部屋から出る気配はまるでない。

 これはつまり、2人がいる中でヤレという事か。

 しかもヤった後続きがあるよと。

 待っても事態は良くなる気配は無い。

 俺の分身も限界が近い。

 

 覚悟を決めよう。

 前世は魔法を使えない魔法使いだった。

 でも今世は魔法を使えるけれど18歳で卒業だ。

 一気に3人とという強烈な形で。

 さて、やるときはヤらないとな。

 まずはさっきのやり直しから。


「それじゃテオドーラさん」

「テディと呼んで欲しいですわ」

 両手をテオドーラさん、もといテディに回して引き寄せ、キスをする。

 ついでにちょい舌を入れてご挨拶と。

「ん、んん……」

 思わず喉の奥から声をだすテディを一度ぎゅっと抱きしめる。

 思った以上に柔らかくて熱い感触とちょっと乳酸系の匂い。

 そのまま横抱きに抱きかかえて、身体を回してベッドに横たえる。

 両手で服を下からゆっくりまくり上げながら脱がし、途中はだけた色んな場所にキスをしてなめて吸って……


 ◇◇◇


 全員と一晩中愛し合った翌朝。

 俺は色々自省しながら朝食のパスタを茹でている。

 非常に疲れたし眠いが取り敢えず回復魔法3発かけて何とか起きた。

 ちなみに下半身と脳内は未だに賢者モードだ。


 とりあえずやってしまった事は仕方ない。

 これから俺は3人の人生にも責任を持たないといけない訳だ。

 ため息を何度ついてもやってしまった以上仕方ない。

 今日からバリバリ翻訳をやって稼ぐしかないな。

 稼いで3人を幸せにしないと。

 でも3人だけじゃなく子供もできる可能性がある訳か。

 3人の子供だと何人になるのだろう。

 そんなに甲斐性がある方だとは俺自身思えないのだけれども。

 感じるのは責任の重圧か、気軽で良かった前世の魔法使いどうてい時代への郷愁か。


 それにしても本当にこれでいいのだろうか。

 窓から見える空は青すぎて何も答えてくれない。

 まあ空が答える訳はないけれどな。

 単に文学的修辞という奴だ。

 取り敢えず今は3人を物理的に食わせないといけない。

 朝だからニンニク無しチーズたっぷりのパスタでも作って。

 俺はお疲れだから本当はニンニクを入れたいが、事務所が臭くなっても困るしな。

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