49

 イエレミアーシュからの遣いだと門番に告げて門をくぐるツィリルに続いて、エリシュカは教主の宮へと足を踏み入れた。また、ここへ来る機会を与えていただけるとは思いもしなかった、と彼女は思う。

 エリシュカがヴァレリーに従って東国へ行くことを決め、そうなればもうすぐにでも、と王太子は出立を急ぎたがった。せっかちな男である。

 それを引き留めたのはシュテファーニアだった。護衛につく案内人がまだ決まっていませんわ、と彼女は至極もっともなことを云って、ヴァレリーの焦りを打ち砕いた。それに、エリシュカに故郷を捨てさせようというのです。家族や思い出ときちんと別れるための時間をあげようとは思わないのですか。この人でなし。

 だが、神殿付下女を偽るエリシュカが、教主の宮に出入りするための云い訳はそう多くはない。姫さまはあのようにおっしゃっていたけれど、家族と会う機会を作るのはむずかしいだろう、となかば諦めかけていたのも事実だった。

 だから、務めを終えた昨日の夕刻、明日の朝、ツィリルが迎えに来ますから、彼と一緒に宮へ行ってきなさい、とツェツィーリアに告げられたときは、いったいなんのご用事で、と思わず問い返してしまい、王太子殿下とともにありたいのなら、もう少し察しがよくならなければ、と呆れられてしまったのも、仕方のないことだったかも知れない。

 家族と話をしてくるように、と穏やかに云われたものの、エリシュカにはいまひとつ実感が湧いてこない。激しい流れに身を任せているうちに、思いがけず静かな湖にでも流れ着いてしまったような、おかしな心地がした。

 それでも、家族と会えるのもこれが最後だと思えば、気持ちが昂ぶりもする。どうにもこうにも落ち着かず、心と身体を交わしあった夜以来はじめてヴァレリーの寝室を訪れ、朝までその腕に抱き締められて過ごした。

 そなたがそのように急ぐ必要はないのだぞ、とヴァレリーは云った。おれも少しは辛抱を覚えた。そなたを待つくらいのことはできる。

 エリシュカはヴァレリーの胸に顔を埋めながら、いいえ、と答えた。わたしがアランさまとともに東国へ参りたいのです。そのためには、家族に別れを告げなくてはなりません。これが最後となるとしても、いいえ、最後となるからこそ、ちゃんと伝えておきたいのです。

 伝えたい。でも、――いったいなにを。

 エリシュカは家族に会いに行くことが決まった昨夜からずっと、自分の中に言葉を探し続けている。

 家族に伝えたい想いはある。最後に伝えたい想いも。

 けれど、それを言葉に換えようとすると、なにかが違うような気がして仕方がない。ああでもない、こうでもないと迷い、考えるうちに、だんだん混乱は深まっていき、最後にはなにも考えられなくなってしまうのだ。

 ヴァレリーには強い言葉で覚悟を伝えたくせに、エリシュカの心は乱れたままだった。

 いったいなにを伝えればいいのだろう、とエリシュカは思う。たくさんありすぎて、よくわからない。

「エリシュカ」

 少し離れたところに立ったツィリルが遠慮がちに呼びかけてくる。

「僕は用事を済ませたらここへ戻ってくる。待ってるから、ゆっくり話をしてくるといいよ」

 わかった、とエリシュカはひとつ頷いた。緊張のあまりに声がうまく出せない。

 ツィリルは、気の毒に、とでも云いたげな笑みを口許に刷いて、しかしそれ以上の言葉を口にすることなく、すぐにそばを離れていった。賤民である彼が、神殿付下女の仕着せを身に着けた女と親しげに話をしていれば、余計な人目を惹いてしまうからだろう。

 エリシュカは前回ここを訪れたときと同じ道を辿り、厩舎を目指して歩き出す。あのときは感じなかった緊張が、いまは重く圧し掛かってくるような気がした。

 懐に抱いた螺鈿の小箱を抱え直し、指先に力をこめた。家族と離れていた二年と少しのあいだ、エリシュカを支え続けてくれた絆だ。

 これももう手離さなくてはならないのかもしれない、とエリシュカは思った。本当は、帰国してすぐ父に返すつもりだった。前回ここへ来たときも持ってきてはいたのだが、とてもこの箱の話ができるような雰囲気ではなく、返しそびれたままだったのだ。

 もともと祖父がなにかの褒美に先の教主から拝領した螺鈿の小箱は、賤民にとっては不相応に贅沢な品で、家族みなにとって大切なものだった。祖父を想う縁として、あるいは家族の絆を確かめる象徴として。

 シュテファーニアの輿入れに同行することを命じられたエリシュカに、父がこれを託したのは、家族の想いを持って行ってもらいたかったからなのだということと同時に、これが父にできる最大級の餞別であったからなのだと、いまならばわかる。

 いつかここへ帰ってこられると、以前と同じように暮らしていけると、故郷を出るとき、そんなふうに暢気なことを考えていたのは、わたしだけだったのかもしれない、とエリシュカは思った。

 シュテファーニアが白い婚姻を望んでいることは、教主の宮に暮らす者ならば、その身分を問わず皆が知っていることだった。彼女の婚姻は一時のものだと誰もが心得て、そのように準備していたように思う。エリシュカだってそうだった。

 だからあのときわたしはこう云ったのだ。――行ってくるね、と。

 いつか必ず帰ってくると信じていたからこそ、家族の宝を預かることもできた。まだ見ぬ新しい土地へのかすかな期待を抱くこともできた。

 だけど。

 今度の旅立ちは前回とは違う。わたしもう、この国には帰らない。帰ることができない。

 父と母、兄と妹には、生涯二度と会うことはないだろう。

 それでも行くのか、とそれはもう己の中で擦り切れるほどに繰り返した問いだ。

 本当に行くのか。

 それほどにヴァレリーが大切か。

 家族を捨ててまで想いを遂げたいと願うのか。

 そうだ、とは問いかけ以上に何度も繰り返した答えだ。

 わたしはアランさまのことが大切だ。ほかにはなにもいらないと思うほどに。

 だから行く。家族を捨てて。

 こんなわたしを、父はどう思うだろう。母はどう思うだろう。兄は、妹は――。

 きっともう、絆を望むことはできないだろう、とエリシュカは思う。わたしがどれほど望んでも、みなもそう望んでくれない限り、絆など結べるはずもない。

 オルジシュカが云っていたではないか。――片方の努力だけで作られる絆なんかないよ。エリシュカの家族の絆は、エリシュカたちみんなで作ったものだ。

 結局わたしは、彼女の期待も裏切ることになってしまった。この国で幸せになってほしいと、そう云われていたのに。

 エリシュカはゆっくりと歩を進めた。早く会わなくては、早く話をしなくては、と思うのに、会いたくない、話をしたくないと身体が拒む。きっと本当はわかっているからだ、と彼女は思う。

 会ってしまえば、話をしてしまえば、――それでもう本当に終わりなのだと、わかっているからだ。

 広い敷地を誇る教主の宮とて、なにも無限に続く園にあるわけではない。エリシュカはまもなく、見慣れた厩舎に行き着いた。

 馬の嘶き、男たちの怒声、箒で汚れを掃きだし、水を撒く音。

 土の匂い、干草の香り、襤褸の臭気。

 なにもかもが懐かしく、なにもかもが愛おしかった。

 わたしはたしかにここにいた、ここで育ったのだとエリシュカは思った。

「エリシュカ」

 不意に厳しい声に名を呼ばれた。

「父さん」

「あれほど云ったのに、またここへ来たのか」

 大股で歩み寄って来た父は眉間に深い皺を刻み、大股で歩み寄ってくる。紫色の瞳にははっきりとした怒気があった。

「帰りなさい、いますぐに」

 ここはおまえの来るところじゃない、と父は言葉を重ねる。

「父さん、お願い。話があるの、話を……」

 聞いて、と云ったエリシュカは父に両の二の腕を掴まれ、厩舎の影、人目を避けるような場所へと引きずって行かれた。

「何度云えばわかるんだ。父さんたちにはおまえのような自由は与えられていないんだ。話をするためだけに務めを疎かにすることはできない。帰りなさい」

 父さん、とエリシュカは引きずられそうになる身体を必死に突っ張る。

「父さん! お願い、聞いて!」

「エリシュカ!」

「これで最後なの。もう最後なの。お願い……」

 最後、と父の手が緩んだ隙を突いてエリシュカは身体の自由を取り戻し、今度は自分が縋るようにして懇願した。

「わたし、アランさまについて行くことに決めたの。東国へ行くことに決めたの。もうここへは帰らない。父さんたちにも会えない。今日が最後、これで最後。だからお願い、話をさせて」

 父は黙ったまま食い入るようにエリシュカの顔を見つめてくる。エリシュカは父の腕に縋るようにしてその瞳を見つめ返した。

 ふと、父の思慮深い瞳に深く暗い影が差した。その闇を娘の目から隠すように、父はそっと目蓋を伏せる。エリシュカ、と父は云った。

「手を離しなさい」

「父さん」

「話は聞くから、手を離しなさい」

 エリシュカは慌てて父から離れ、それでも眼差しだけは逸らさない。必死の形相を崩さぬ娘に淡く微笑みかけた父は、この前話した厩舎を覚えているね、とやさしく問いかけた。

「あの場所で待っていなさい。少ししたら必ず行くから」

「あの、みんなは……」

 わかっているよ、と父は頷いた。

「わかっているから、先に行っていなさい。いい子だから」


 喧騒から離れた下の厩は、このあいだと同じように今日も静かだった。

 エリシュカは仕着せの裾を汚さぬように気をつけながら、壁際に積まれている藁の束の上に腰を下ろした。懐から取り出した螺鈿の小箱の蓋をそっと開けると、そこには家族の髪がひと房ずつ納められている。

 力強い父の髪、やわらかな母の髪、しなやかな兄の髪、艶やかな妹の髪。指先でそっと撫でれば、目裏に浮かんだみなの顔が涙にけぶる。

 どうしてわたしはここにいられないんだろう、とエリシュカは思った。なんで家族を選べないんだろう。

 後悔にも似たその思いは胸を満たすのに、それでももし同じ問い――ヴァレリーを選ぶか、家族を選ぶか――を突きつけられれば、何度でも同じ答えを選ぶだろうということもわかっている。

 あんなに厭で、あんなに苦しくて、あんなにつらくて、――それで、逃げ出したのに。

 城を飛び出して、追手を躱して、おそろしい山まで越えて、――そうまでして、帰ってきたのに。

 なんで、どうして、――わたしが選ぶのはアランさまなのだろう。

 家族を選べたらよかった。この絆を唯一と思うことができたらよかった。そうしたらこんなふうに胸が軋むこともなかったはずなのに。

「エリシュカ」

 逆光を背負った父に名を呼ばれ、エリシュカは弾かれたように涙に濡れた顔を上げた。

 泣いていることがわかっていたのだろう。父は洗濯を繰り返してすっかり硬くなってしまった手巾を差し出し、顔を拭きなさい、と云った。

「母さんとダヌシュカはどうしても務めを抜けられないそうだ。アルトゥルは放牧地に出かけてしまっている。呼び戻すことはできない」

 そんな、とエリシュカは思わず呟いた。これが最後なのに。

「エリシュカ」

 父は娘と同じように干草の上に腰を下ろしながら、静かな声で云う。

「困らせないでおくれ」

 目許や頬が赤く擦れるのも厭わずに、エリシュカは父の手巾で乱暴に涙を拭った。細かい傷でもついたのか、擦られた肌がぴりぴりと痛んだ。

「ごめんなさい」

 父は大きなため息をついて肩を落とす。わかればいい、と云った声にはまるで力がこもっていなかった。自身の無力を――永遠の別れを前に家族と話がしたい、と云う娘、彼女のたったそれだけの我儘すら聞き入れてやれぬ己の不甲斐なさを――もっとも嘆いているのは、ほかならぬ父だということに、エリシュカはいまさらながらに気づかされる。

「父さん……」

 困らせるつもりはなかったの、ごめんなさい、とエリシュカはもう一度云った。

「だけど、最後だから。そう思ったら居ても立ってもいられなくなった。ごめんなさい」

「もういい」

「でも……」

 もういい、と父はもう一度云った。

「謝るために来たわけじゃないんだろう、エリシュカ。話がしたいと云っていたね」

 うん、とエリシュカはどうにか気持ちを奮い起こす。そう、父さんにだってそうそう自由が許されているわけじゃない。こうしているあいだにも、大切な時間はどんどん過ぎていってしまうのだ。

「最後だと云っていた。ここを出て行くと。アランさま、というのが東国の王太子殿下なのだね」

 うん、とエリシュカはもう一度頷いた。さっきからまともな言葉が出てこない。伝えたいことがありすぎて、わかってもらいたいことが多すぎて、どれから言葉にすればいいのか、すっかりわからなくなってしまった。

「それで、別れの挨拶に来たのか」

「うん。そう……」

 そうか、と父は云ってやや遠い目つきをした。

「それなら話はもうわかった。父さんは仕事に戻るから、おまえはもう帰りなさい。身体には気をつけて、元気で」

「父さんっ!」

 違うの、そうじゃないの、それだけじゃないの、とエリシュカは云い募った。

「なんでわたしがアランさまと一緒に東国へ行きたいと思ったのか、なんでここにはいられないと思ったのか、それを聞いてもらいたくて」

「おまえの気持ちはわかっているつもりだよ、エリシュカ」

 わかってなんかない、とエリシュカは腰を浮かせて叫ぶ。

「わたしがどんな気持ちで決心したか、どんな気持ちでここまで来たか、父さんには全然わかってない!」

 激昂するエリシュカを前にしても、父は静かな表情を崩さなかった。その様子に悲しみさえ覚えて、エリシュカはなおも言葉を重ねる。

「もうここには帰って来れなくなっちゃうの! もう二度と会うことはなくなっちゃうの! 顔も見られない、話もできない、そうなる前に……、最後に……」

 両手で顔を覆って肩を震わせ出した娘に、父は、エリシュカ、とやはり落ち着いた声で呼びかける。エリシュカの激しい呼吸が治まるまで、彼は根気強く待ち続けた。

 やがてエリシュカがのろのろと顔を上げると、それを認めた父はゆっくりと口を開いた。父さんはね、というどこか寂しそうな声がエリシュカの耳を打つ。

「おまえが姫さまのお輿入れに従って東国へ赴くことになったときに、おまえのことはもう大人になったのだと思うことにした。帰ってくるとは云っていたけれど、もしそうならなくても、それはそれで仕方がないのだと。おまえの決めたことならばなんであれ、それがおまえにとっての一番に違いないと、そう思うことにしたんだ」

 おまえが行くと決めたのならば行くといい、と父は淡々と云う。エリシュカは地団太を踏みたいような気持ちになって、違うの、と云った。

「なにが違うんだ、エリシュカ」

「もう会えなくなっちゃうんだよ、こんなふうに、母さんとも兄さんたちとも会えないままお別れなんて……!」

 エリシュカ、と父はため息とともに云った。

「おまえは俺たちにいったいなにを求めているんだ」

「な、なにって……?」

 まさかそんなことを尋ねられるとは思っていなかったエリシュカは、困惑して首を横に振った。

「引き止めてもらいたいのか、それとも祝福してもらいたいのか。よかったね、おめでとうと、幸せになってねと、みなに云ってもらいたいのか」

 横っ面を殴りつけられたような顔をしてエリシュカは父を凝視した。なんで、と彼女は思った。なんで――、なんで、父さんはこんなひどいことを云うんだろう。

「引き止めることはしないよ。おまえはもう決めたんだから、止めたって聞くはずもないね」

 けれど、背中を押すこともできないんだよ、エリシュカ、と父はまるで教え諭すような口調で云った。

「おまえの家族が父さんと母さんだけだったなら、俺たちはおまえの門出を心から喜んだかもしれない。本当によかった、おめでとう、ここを忘れて幸せにおなり、といくらでも云ってやることもできたかもしれないね。だけどエリシュカ、父さんと母さんの子はおまえだけではないんだよ」

 いつのまにか絡みついていた冷たい蔦が、エリシュカの喉首をきつく締め上げる。思わずそんな幻を見るほどに呼吸が苦しくなった。

 浅い呼吸の狭間で兄と妹を想う。

 ――兄さん。

 ――ダヌシュカ。

「父さんと母さんはいい。わが身の境遇をそれなりに受け入れている。受け入れなくてはいままでやってくることはできなかったからね。だけど、アルトゥルとダヌシュカは違う。あの子たちはまだ、ここではないどこかを諦めてはいない」

 父は、エリシュカたち兄妹に、自分ができうる限りの教育を施した。家族がともに暮らせるという幸いに恵まれた一家だったからこそ可能だったことだ。ほかの賤民には望むべくもない。

 父はこの国で生き抜くすべを教えるとともに、自分たちが虐げられているという現実も隠すことなくこどもたちに伝えた。俺たち賤民はみな主を戴き、主に仕えなくてはならない。主の命に背くことはすなわち死を意味し、金銭を対価に売り払われることもある。誰に殴られても蹴られても、どんなにひどい言葉を投げつけられても、決してやり返してはいけないよ。そうでないと、家族から引き離されてどこかへやられてしまうかもしれないから。

 そして父は、自分たちが理不尽に虐げられているのは、この国にいるからだということも教えた。よその国ではね、こんなことは決して起こらない。人はみな等しく、平らかであるんだ。この国だけが俺たちを苛むと決めたんだよ。

 いつ、誰が、どうして――。

 その答えはもらえたためしがない。きっと父も知らないのだろう、いまのエリシュカには正しく理解できる。幼いころは絶対であった父だが、実際のところは家族を守るのが精一杯の無力な賤民にすぎなかったのだ。

 それでも、文字すら知らなかった父さんが、拙いながらもわたしたちに自由と平等を教えようとしてくれたのは、いつかそういう世の中がやって来ると信じていたからなのだろう。そして、わたしたち兄妹も――否、兄さんとダヌシュカも、父さんの言葉を信じていた。

 ふたりの兄妹は父の薫陶をしっかりと受け止め、早いうちから自我を確立させていた。だが、エリシュカについてはそううまくはいかなかった。もの云わぬ馬にばかり心を開き、人にはあまり懐かなかったことが災いしたのか、血の滲むような父の努力は、こと真ん中の娘に対してだけは、ほとんど実りがなかったと云える。

 エリシュカは、ごく幼いころから云われる言葉にとても従順だった。云われたことには従え、口答えをするな、と云われればそのとおりにしたし、余計なことを考えるな、多くを望むな、と云われれば多少の不満があってもそのとおりにした。

 兄さんもダヌシュカも、なんだってあんなふうに誰にでも逆らおうとするのかしら、とあのころのエリシュカはそんなふうにさえ思っていた。少しくらい理不尽だと思っても、黙って従っておけばいい。そうすれば、少なくともここから追い出されることはないのだから。

 そうして云われるままに東国へ赴き、云われるままにヴァレリーに身を捧げた。

 わたしが強い言葉で主張するなんて、馬にかかわることだけだったのに、と父さんは思っているのに違いない、とエリシュカは俯いた。

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