7章 噂の廃工場
7章 噂の廃工場
背中の気配はより強くなっていた。
息遣いが耳元で聞こえるほどだ。
私は廃工場に足を踏み入れる。
おそらくここが噂の廃工場なのだ。
あたりがさらにうす暗くなった。
悪寒が走り、肌が泡立つ。
ただならぬ気配を感じる。
気配だけでこの世のものではないことが本能で分かってしまう。
特にうす暗い雰囲気を感じる何かに 体が引き寄せられるように歩く。
自分では思うようにならず、体の中に入ったものに操られるようだ。
そのまま、一番奥の部屋の中へと足を踏み入れてしまった。
刹那、暗闇から地から這い出るような人外の声が聞こえた!
幽霊?
幽霊なのか。
とても生者のものとは思えぬ異形の影が闇より湧き出し、あたりを囲まれてしまった。
異形のものたちが歩みを止め眼前で立ち尽くしている。
その時ポケットの中のお守りが輝きを放った。
ゆっくりと公園で男の子からもらったお守りを取り出す。
体が動く!
思わず、近くの薄汚れた部屋に逃げ込んだ。
ここはどこだ?工場の一室か?
自問自答する。
どうやら、体に異常はないようだ。
「あれは一体何なのだ!」
思わず独り言が零れる。
薄暗い中やっと目が慣れてくると目の前に扉がある。
すがるように扉に手をかける。
「開かない!」
唯一見つけた希望が絶望に変わっていきそうになる時、脳裏にあることがひらめいた。
「たしか鍵を持っていたな……」
あのタイムカプセルに入っていたお社さまを開けた鍵。
開くはずもない鍵だが確かめずにはいられなかった。
「開いた……」
想定外のことだが、予想内だった。
お札の光が工場内を照らす。
その光に照らされた霊たちは一斉に、そこに無かった事が当たり前だったかのように消滅していく。
『来てくれたんだね』
突然、声がきこえてきた。
その声には聞き覚えがあった。
子供の頃のかすかな記憶。
ずっと私が迎えに来るのを待っていたのか?
お札も神々しい光が嘘だったかのように、ただの紙切れに戻っている。
「夢……じゃないよな?」
今までは恐怖で気が付かなかったが、
もう夜明け間近で工場内に薄っすらと陽が差している。
屋上に上がると褪せたプランターに朝顔が咲いていた。
その朝顔に強く目が惹きつけられた。
子供の頃、夏休みで育てた、朝顔。
宿題が面倒くさくて、年下の男の子とこっそり、ここに捨てた朝顔。
昔、逃げた自分の顔は浅ましく歪んでみえるだろうか。
今、大人になれなかった君に誇れる生き方をしてきた顔をしているだろうか。
「ああ、やっぱり君だったのか」
朽ち果ててはいたが人が育てた名残を残したモノが風に揺れていた。
淺顔 kirinboshi @kirinboshi
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