6章 罪の記憶

6章 罪の記憶


どうやら意識を失っていたらしく、辺りは既に暗闇に覆われていた。

頭痛はおさまっていた。

遠い日の罪の記憶。

なぜ今まで忘れていたのかと思うほど、はっきりと思い出せた。

「工場に行かないと……」

私はふらふらと歩き出した。


公園から続く社の反対側の道なき森を抜けると廃工場がある。

私が子供の頃にはとっくに潰れて誰もいない場所。

立入禁止の札は掛かっているが、あって無いも同然。

山を越えて反対側にあるために工場自体は隣町に位置しており、

通常の道を使うなら私が住んでいる街に移動するには大きく迂回する必要がある。


子供が歩いていける距離ではない。

その場所に私たち二人は迷い込んでしまった。

まだ小学生になったばかりの私と、さらに年下の男の子。


公園で遊んでいた私達は親に禁止されていたにも関わらず、社に続く道に好奇心を抑えられず登ってしまった。

はじめて見た社を見とれていると恐ろしい声が聞こえて来た。


その瞬間、無我夢中で駆け出し、森を走り廃工場に辿りついた。

私たちはそこで身を潜め、恐怖に耐えようとしていた。

私を見つめる不安そうな瞳をはっきりと覚えている。


あたりもすっかり暗くなり雨も降りだしてきた。

廃工場の暗闇に恐怖を覚えた私は森へ向かって走り出した。

後ろで何か助けを求める声が聞こえたような気がしたが、私は振り返ることなく走り続けた。


必死で森を抜け、社を抜け、公園を抜け、家に辿りついた時には深夜だった。

両親の姿を見た時には安堵のため、ずぶ濡れのまま泣きじゃくった。

両親は私を探していたらしく怒るように何かを言っていたが、次第に声は優しくなった。


そして布団に寝かされると、すぐに眠りに落ちた。

次の日、一緒にいた子が家に帰っていないことを知った。

私も事情を聴かれたが怒られることを恐れて嘘をついてしまった。


「知らない……」


私の罪の記憶。

結局あの子は二度と戻らなかった。

私は人にこの事を話してしまう事を恐れ、誰とも話すことも付き合う事も無くなっていった。

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