5章 森

5章 森

 

おそらく5分も走っていないが息が切れてこれ以上走れない。

ここまでくれば大丈夫だろうと、木にもたれながらで煙草に火をつける。

落ち着け。

さっきは気が動転してどうかしてしまったのだろう。


自嘲気味に煙をくゆらせて、いつも慣れ親しんだ味を楽しむ。

……ふっとデジャヴ感に襲われる。


前にも似たような事があった気がする。

紫煙が自分の頭にも入ってきたのだろうか?

頭に霞がかかって、はっきりと記憶の映像が映し出されない。


まるで擦切れた映画を見ているようだ。

しかもこの記憶は楽しいものであるはずがない。

例えるなら重要な仕事があったはずなのに、それがどうしても思い出せない時の気分に似ている。

ただ子供の時の記憶。


それだけは間違いない、確信めいたものがあった。

その時だった。

背後に強烈な気配と視線を感じ振り返る。

朝、家で感じたものが気のせいなんかでは無かった事がはっきりと判るほどのものだった。

だが振り返った先には何もない。


自分はおかしくなってしまったのだろうか、いやそんなことはない。

なぜならさっきまで何もなかった所に小さな箱を見つけたのだから。

その箱に近寄ってみる。

さっきから酷い頭痛がして、非常に気分が悪い。

それでも箱に吸い寄せられるように、ふらふらと近づいて箱を持ち上げる。

鍵が付いている。


この箱が普通のものであるはずがない。

手に取っても現実感がまるでないのだ。

見た目の材質と雰囲気がまるで比例しない。


手触りは金属製であるかの様に固く冷たいが、発泡スチロールの様に軽いのだ。

なら、と思案し、私は先ほど思わず持ってきたお札を見た。


普段ならこんな事を試そうとも思わない。

しかし、私はお札を小さな箱に張り付けた。


その瞬間辺一面が激しい光に包まれたような気がした。

確かに光はあったが私の眼には何の異常もない事が不思議だった。


手の中をみると箱が消えていた。


突如として頭が痛みだした。


「ああああ!!!!」


あまりの頭痛と悪寒にうずくまってしまう。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

うわ言のように呟く。

開けてはならない箱だったのだ。


フラッシュバックする映像。

箱に詰め込まれていた記憶の渦に私は飲み込まれた。


男の子、社、工場、雨。

そこで、私の意識は途切れた。


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