第一章 第九話 伊達メガネ
約束の時間の30分前。
僕は最寄り駅に着いてしまっていた。
「早すぎるよなぁ。」
あれから。
魔女を名乗るレディと出会ってから。
僕の世界は大きく変わった。
普段の見慣れた街の景色の中に、カオルさんが『魔』と呼んだ黒い影のようなものがちらついている。
反射的に追いかけてしまいそうな視線をおさえることはとても疲れるものだと、昨日から今日にかけて身に染みて実感している。
これから調査だっていうのに、果たしてこんなのでやっていけるのか。
僕の心は不安で膨らんでいる。
ぶらぶらと歩けば、視界に映った影を追いかけてしまうから、壁に寄りかかってシショーから借りた本をパラパラとめくって時間をつぶすことにした。
約束の時間ピッタリに、カオルさんは現れた。
「待たせてしまったかしら。」
声の方へ顔をあげると、黒いキャップ帽を深くかぶったカオルさんがいた。
カオルさんは昨日と色違いの長袖パーカーに、黒いズボンを履いている。
パーカーが好きなのだろうか。
セミの鳴き声が耳につく。
「暑く、ないのですか?」
ポロッと僕の口からこぼれていった。
「あ、あの、その。」
しまった。
女の人の服装については、褒める以外のこと言っちゃいけないってねーちゃんに言われてたのに。
「日焼け止め、塗らないから。日傘も苦手で。」
カオルさんは気にした風もなく、袖を伸ばす仕草をする。
「だからこれで、日よけのつもり。」
あはっと、カオルさんは乾いた笑い声をあげた。
「それから、これ。」
渡されたのは、眼鏡だった。
「これは……?」
「レディが昨日、術を解いて。ヒロは突然視えるようになったのでしょう?慣れないうちは大変だから、それ、使うといいよ。」
促されてかけてみると、先ほどまで視界に映っていた影が消える。
「すごいっ!でも、どうしてそれを。その時カオルさんいなかったのに。」
昨日の記憶を思い出しながら尋ねると、
「レディに事前に聞いていたのよ。視えないモノを視えるようにしておくと。あとは私に全部丸投げするから、よろしくって。だから私は、あなたが何も知らないと思って話をするわ。昨日もそう思って話したわ。知ってるものがあったら、ごめんなさいね。」
レディ、丸投げしたんだ……。
「いえ。何もわからないので、助かります。」
本をカバンにしまった僕を確認して、カオルさんは歩き出す。
「こっちよ。今日は電車、使わないの。」
「近いのですか?」
「近くはないけど、印をつけたから。」
「印?」
カオルさんは振り返って、ほほ笑んだ。
「私は魔女の弟子だから。」
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