第8話
インターホンが連続して鳴り響く。はいはい、と返事をしながら、周々木早苗は急いで玄関へ向かい扉を開けた。案の定そこに立って居たのは夫の大輔で、ただいま~、とへべれけな姿で言う。
夕方、ご飯の支度をしようと台所に立った矢先、大輔から上司と飲んでくるという連絡があった。誘いを断れない大輔だから、酔っ払って帰ってくるだろうと予想していたが、果たしてその通りだった。中へ入るとすぐに鍵をかけ、肩を貸し、リビングに移動する。ソファのところまで行くと、大輔はボスンと座り込んだ。スーツは乱れ、顔を赤くしてへらへらと笑っている。それにしても、よくあの報道陣の中を抜けてきたものだと感心した。
「さなえ~、みず~」
「はいはい」
キッチンに行き、洗ったばかりのコップを水きりラックから手に取り水道水を注ぐ。大輔のもとへ戻り手渡すと、一気に飲み干し、空になったコップをテーブルの上に置いた。
「もうちょっと制御してお酒飲みなさいよねー」
「おれぁな、いやでも上司に付き合わされて、がんばっちぇんだよっ!」
「呂律回ってないよー」
「うるへー」
腕を組み、もう、とこぼす。そうだ、と大輔は何かを思い出したかのように話し始めた。
「今日な、すごいこと聞いたぁ」
「へー、何?」
「お隣の奥さんことー」
早苗の顔色は変わり、大輔の隣に腰を下ろす。詳しく聞かせて、と言うと、大輔は子どものように笑い、わかったぁ、と答えた。
「スナックに行ったら、そこのママが教えてくれたんだよぉ」
「何を教えてくれたの?」
「お店の子がお隣の奥さんにぃ、ストーカーされてたんだってさぁ!」
大輔の言葉に口を閉じた。葵子がスナックで働く女の子をストーカーしていた。更に大輔は続ける。殺された千葉夏彦は、葵子がストーカーしていたという店の女の子と不倫関係にあったらしい、と。口元に手を当てて考える。
『ねえ早苗さん、もし旦那様が浮気をしたらあなたはどうする?
』
お茶会での会話を思い出し、自分なりに推理をしてみた。葵子は夫に尽くす献身的な妻だった。お茶会で結婚して何年目かを聞いてみると、確か今年で十年だと照れながら答えてくれた。葵子は一人ですべてを解決しようと、だから夫と不倫関係にある女性をストーカーし、色々と探っていた。しかし解決することができず、あの時、浮気をしたらという質問をし、悩んだ結果の末に今回の事件を起こしたのなら――。
「ねえ、大輔。あたしの考え聞いてくれる?」
隣に視線を向けると、大輔は大口を開けて眠っていた。もうっ! と、早苗は大輔の膝を叩いた。
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