第3話

 テレビのニュース番組に、柊芳枝ひいらぎよしえは釘付けになった。スナック勤めは夜が遅く、つい寝坊をしてしまい、ママに謝罪の電話を入れ、普段よりも二時間近く遅刻で出勤をしようとした時だった。何気なくつけたテレビの液晶画面に、見覚えのある家に白文字で表示されている名前。「被害者 千葉夏彦(38)」――芳枝はその場に立ちすくむ。

 テーブルの上に置いてあったリモコンに手を伸ばし、何度か番組のチャンネルを変えてみるが、同じ内容の放送ばかりだった。買ってもらったばかりのブランド物のショルダーバッグからピンク色のスマートフォンを取り出す。ロックを解除し、震える指先でメッセージアプリを開き、〝夏彦さん〟の名前をタップする。一番新しいメッセージは、こちらから送ったものが最後になっているが、既読にはなっていた。

 あの人が死んだなんて嘘だ、と思っても、次にテレビに映し出されたのは最愛の人の顔写真で、芳枝は愕然がくぜんとした。何故、どうして、と脳裏で問えば、テレビが代わりに答えてくれる。


『千葉葵子容疑者の話によると、〝夫は浮気をしていた、私だけを見ていてほしかった〟とのことです。続報が入り次第、お伝えします』


 わたしの所為せいで夏彦さんは死んだ――? 芳枝は自身に問いかける。違うわたしの所為じゃない、と慌てて首を振った。確かに夏彦とは親しい間柄だった。何度も体を重ねた。


「わたしの所為じゃない……わたしは、悪くないもの……」


 何度も何度も芳枝は呟く。耳を塞ぎ目を閉じると、真っ暗になりテレビの音も聞こえなくなった。心の中で何度も、わたしの所為じゃない、と繰り返した。

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