第2話

 周々木早苗すすきさなえの住んでいる家から右隣の家に、夕方、警察やら刑事やらマスコミやらなんやらがたくさん押しかけている様子が二階の窓から見てとれた。

 それからすぐに刑事たちが尋ねてきて、隣の家のことばかり聞いてきた。減社げんしゃの為、休まされ一日中家でくすぶり衛星放送で映画を観ていた夫の大輔だいすけが、何かあったんですか、と逆に尋ねると刑事たちは言葉を濁した。

 一時間ほどで質問は終わった。やれやれと思い部屋の中へ戻り、何気なく衛星放送からチャンネルを地上派放送に切り替えると、見覚えのある家が映っている。隣に住む千葉葵子が、夫を殺害し自首したのだと報道番組の司会者は言った。続報が入り次第また伝えると言うと、CMが流れる。早苗はただただポカンと口を開けてテレビを見つめることしかできなかった。目だけで大輔を見ると、同じような顔をしていた。


「……隣の奥さん、人、殺したんだ」


 ふと、刑事たちに聞かれた内容を思い出す。夜中に不審な物音は聞こえなかったか、喧嘩をするような声はなかったか、争う音は無かったか、等々――。何かあったのだろうとは直感でわかったが、まさか殺人だとは思いもよらなかった。


「お隣さん、すごく仲の良い夫婦だったのに……」


 ぽつりと呟くと、大輔もコクコクと首を縦に振る。


「昨日、肉じゃが分けてくれたよな。あれ美味かった……お前のより」

「一言多いわよ」


 額を小突き、まったく、と唇をすぼめる。


「そういえばあんた、朝はよくお隣の旦那さんと駅まで一緒に行くって言ってなかった?」

「うん。俺が家を出るとき、お隣さんの旦那さんも同じタイミングで家を出てくるんだよね。まあ、半分成り行きで一緒に行くって感じだったけど」

「最近、喧嘩したーとか話してなかった?」


 大輔は少し考えてから、いや、と答える。


「あっち、ぜんぜん家の話しねーから。わからんわ」

「……役立たず」

「一言多いぞ」


 はあ、とため息ついた早苗の頬を大輔は引っ張った。


「お前こそ、お隣の奥さんと仲良かったじゃん。よくお茶会するーとか言ってたくせに」

「最近はぜんぜんしてませんー。誘ってくれなかったんだもん。前にこっちから誘ったけど、今日は用事がーとか言って逃げられちゃったし」

「あー、そういえば言ってたな」


 腕を組み、うーん、と早苗は唸る。


「……葵子さんが人を殺しただなんて、信じられないよ」


 大輔も再びこくんと頷いた。

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