お題で小説書きました

卯鮫正信

あなたの病室で泣きながらひたすら後悔した

(https://slot-maker.com/slot/5294/ より)


 白くてかたい床を踏みしめ私は病室に向かう。

 時には忙しそうに、あるいはリハビリのために、いろんな人と廊下ですれ違う。

 すれ違う人があの人ではないかと、目を見張らせながら私は歩き続ける。

もしかしたらあの人は元気に歩いているんじゃないか、そういった期待を抱いているのだ。


 そして自分を見つけて「あら、久しぶりじゃない。元気にしてたの?」と笑いながら面会室でジュースを買って笑いながら近況報告をする。

 話によると脳腫瘍の手術は成功していて、もう何ともなくてそれを聞いて自分はホッとするそうであってほしいのだ。


 そう信じながらナースセンターの面会票に名前を書き病室に向かう。

 四人部屋なのでノックをせずに入る。

 ベッドのカーテンは閉まってなかったので折り畳みの椅子を持ち出しベットの横に座る。

 

「こんにちは」


 おずおずと声をかける。


「あら、こんにちは。誰だか知らないけれど今日はいい天気ね。」


 声の主は朗らかに笑って答えてくれた。

 その一言が心に深々と刺さり、そのままうつむいてしまった。


もっと帰ってあげればよかった、手術が成功すると思わないで寄り添ってあげればよかった、遠くに行かなければよかった、もっと親孝行してあげなければいけなかったのに……後悔があとからあとから寄せてくる。


「母さん、母さん、ごめん。」


涙と共に懺悔の言葉が漏れるだけだった。

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お題で小説書きました 卯鮫正信 @usame_masanobu

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