第126話 気まずい遭遇
25日の朝、夏凛が部活に行ったので昼御飯を買いに近くのコンビニへと向かった。
恋人になった次の日でさえ、夏凛は律儀に学校に向かう。真面目ってやつなんだよなぁ……くそ、誰だよクリスマスに部活やってるとこ!
少し愚痴りながらコンビニに入り雑誌コーナーを通っていると、雑誌の反対側にある品物が目に入った。
"超快感、驚異の0.01mm! 安心と快楽をあなたにお届けします"
……いつかはそうなるかもしれない。だけど今じゃない。そう思ってるんだけど、いざ目の当たりにすると、かなり欲しくなってくる。
夏凛は白里先生のレクチャーにより、清楚と艶やかさを獲得した。でもそれは所詮は付け焼き刃であり、こちらから少し攻めたらすぐに動揺してノックダウンしてしまう。
次の日いきなり求めたら引かれるのは明白だ。こういうのはちゃんとした手順を踏まないといけない。
情欲だけで恋愛は出来ないのだ。
「ふっ」と格好つけてその場を去ろうと踵を返した次の瞬間──。
「何やってるのよ、こんなところで」
恵さんに声をかけられた。いつも通りのゆるふわ茶髪ロングだけど、目元は赤くなっていて、それがなんであるかを理解した俺は目線を逸らしてしまった。
非常に気まずい中、なんとか平静を装っていつものノリで返すことにした。
「めっちゃビビった……。いきなり声をかけるなよ」
「そう? 驚いてるようには見えなかったけど」
「本当に驚いた時は声もあげられないんだよ。そんな事より、恵さんはこっちの出身じゃないよね? 学校も休みなのにどうしてこっちに?」
恵さんの生活圏は隣街をメインとしてるから、駅に乗ってわざわざこのコンビニに来るのは非常におかしい。
本人も自覚しているのか、顔を赤くしてボソボソと口ごもっている。少しすると、キッと顔を上げて俺に向かって大きな声で言った。
「き、気まずくなるのが嫌だったの! 分かってよ、察してよ!」
ああ、だからここにいるのか。にしても、俺がここに来るとは限らないのによくコンビニにいるってわかったなぁ。
ただ、周囲のお客さんがこっちを見てるから大声をあげるのは良くない、それもゴムが陳列された棚の前で。
客観的に見たら「何でゴム使ってくれないのよ!」とも「何でゴム使うのよ!」とも取れる言葉だ。
とにかくこの棚の前から移動したかった俺は、腕を掴んでコンビニの外に連れ出した。
「あたし、身体を洗ってケーキを用意して待ってたのに、黒斗が来てくれないから、しょっぱいケーキを食べるハメになっちゃった」
「……」
何も言えない。多分ここでごめんって言葉は御法度だと思うから。
恵さんは今も俯いたままで、拳を握り締めている。
そして、唐突に顔を上げた恵さんは、人差し指を俺に向けて言い放った。
「諦めないから! 少しでも夏凛が隙を見せたら、あんたを奪うから!」
前を向いて歩く、そういう展開になると思っていた俺はかなり驚いた。
気圧された俺は「お、おぅ……」としか言えなかった。
「てか、それを俺に言うかね……」
「良いじゃない、油断しないでねって意味でもあるし」
「そうだな、俺達は特に壁が多いしな」
「そうよ、壁くらいでくよくよするなら奪っちゃうからね」
「あ、そうだ。俺、昼御飯を買いに来たんだった。恵さん、折角だし俺が何か奢ろうか?」
「ホントに!? じゃあコンビニスイーツ買いたいな。あたし、スフレプリン大好きだから♪」
昼御飯を買うついでにスフレプリンを5個ほど買ってあげた。そこそこの出費になったけど、気まずい気持ちが吹き飛んだから別に良いか。
その場で恵さんと別れて帰宅の途についた。
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