第74話 試着イベント!

 翌日、俺と恵さんは夏凛の教室に来ていた。


 夏凛のクラスの【コスプレ写真店】を手伝うためだ。夏凛のクラスはすでに廊下側も飾り付けが終わっていて、うちのクラスとは大違いだ。


 生徒にも責任はあるけど、担任の差もあるかもしれない。剛田先生に比べて、白里先生は見た目新任教師だけど、実は剛田先生よりもベテランと聞いたことがある。


 年齢から色々と逆算しても、見た目があまりにもかけ離れている。拓真さんの話によると、あの不思議なアイテムの数々は白里先生が作ってるそうだから、不老の薬があってもおかしくない。


 我が校の都市伝説について考察してても時間の無駄なので、さっさと教室に入ることにした。


「あっ、兄さん!」


 こちらに気付いた夏凛がパタパタと駆けてくる。


「恵先輩も来てくれてありがとうございます」


「ん、気にしないで。あたしも楽しみにしてたから」


 と、挨拶をしていると、夏凛の後ろから進藤さんが現れた。


「黒谷先輩、お久し振りです」


「おう、久し振り。で、あれから料理の腕は上がったか?」


 黒斗の言葉を受けて、進藤さんは苦笑い。なるほど、あまり進展は無いわけか。


 すかさず夏凛がフォローを入れた。


「兄さん、家庭科部は料理だけじゃないんですよ。ほら、見てください! この衣装の数々を」


 言われて見渡すと、まるでお店のような数の衣装が掛けられている。


「まさかこれって……」


「そうです。進藤さんが中心となって、たった1週間で作ったんですよ!」


 夏凛の隣に立つ進藤さんは「もう、黒谷さん大袈裟だってぇ!」と、言いながら照れていた。


「コスプレなのにコスプレ感がない……黒谷、これ、上手いよ」


 恵さんも衣装の1着を手に取って感心していた。


「えーっと、城ヶ崎先輩ですよね? 早速着てみますか?」


「え、良いの!?」


「はい! 是非とも!」


 恵さんはアニメに出てきそうな感じのドレスを手に取って、奥に案内されていった。


「さて、私とのもう1つの約束を果たしましょうか」


 俺は夏凛に手を引かれて、恵さんとは逆の仕切りに連れていかれた。


「良いと言うまで背後を向いていてくださいね」


「わかった」


 夏凛は試着室に入っていく。カーテンのような仕切りがあるから反対を向いてる必要は無いと思うのだが、夏凛なりの演出らしいから素直に従っておく。


 と、反対を向いたは良いものの、小さなが鏡が置いてあって、実は後ろが見えてしまっている。

 もちろん、仕切りがあるから何が見えるというわけでもないのだが。


「えーっと、ここはこうして……」


 夏凛が独り言を呟きながら着替えている。


「──あっ!」


 不意に夏凛が驚いたかのような声を出す。


 すると、パサッと音がしてピンクのブラが夏凛の足元に落ちるのが見えてしまった。そう、一般的な試着室を再現してるから、足首くらいまでは見えてしまう。


 見てはいけないものを見た気がした俺は、すぐに目を逸らした。


 そして数分後、仕切りが開けられる音がしたあと、夏凛が言った。


「兄さん、お待たせしました。どうぞ、ご覧下さい──ご主人様」


 振り返ると、メイドさんが立っていた。俺達のクラスがレンタルするタイプとは違う……いわゆる"クラシカルタイプ"のメイド服だった。


 時代の流れであるピンクを一切廃しており、白と黒で統一されている。スカート丈は膝下以上、長袖でホワイトブリムが長い黒髪を映えさせていた。


 露出度を抑え、清楚の極致に達しておきながら、その下にある大きな胸、細い腰から大きなお尻が大人の色香を彷彿とさせる。


「あの……どう、ですか?」


「──ハッ! ごめん、見とれてた」


「み、見とれて? あ、あぅぅぅぅぅ……」


 背後を向いた夏凛は、頬を両手で押さえてフリフリし始めた。その仕草がもう……今すぐお持ち帰りしたいくらいだ。(帰ればいるわけだが)


 と、気恥ずかしい空気が蔓延するなか、恵さんがこちらに試着ブースに入ってきた。


「え、夏凛もメイド着たの? てか、あたしが想像してたメイド服、それなんだけど!」


「え、どういうことですか?」


 冷静に戻った夏凛が聞くと、恵さんは昨日の出来事を説明した。


「概要は兄さんから聞いてましたが、そんなに違うものなんですね。兄さん、そこに私も行きましょうか?」


「ちょっと夏凛、あんたが着たら黒谷が失神するから止めなさい」


「むぅ~、私は兄さんに聞いてるんですがぁ~」


 夏凛がむくれ始めたので俺も答えた。


「さすがに何度も行くのはアレだからさ。いつか、な」


「そうですか……でも、兄さんが望むならいつでも行きますからね?」


「お、おう……」


 その後も色んな服を試着したあと、和気藹々わきあいあいと談笑をしていたら、カメラを持った男子が入ってきた。


「お三方、写真撮ってみませんか?」


「黒谷、撮ろ!」

「兄さん、撮りましょう!」


 夏凛と恵さんが左右から腕を取りながら、ねだってくる。


「この服装で撮るのはちょっと……」


 何度かの衣装チェンジの際、俺も男用の服を着ていた。今俺が着ている服というのが【タキシード】ってやつで、しかも彼女達もそれに合わせた衣装になっている。


 そう、左右にいる女子は──ウェディングドレスを着ているのだ。


 進藤さん……あんたどんだけ裁縫に極振りしてるんだよ。ステータス尖りすぎ!


「ほら、逃げない」

「そうですよ。諦めて下さい!」


「わかったから、そんなに引っ付かないでくれ。俺、一応男なんだけど!?」


 テンションの上がった黒髪と茶髪が同時に抱き付いた時──パシャッ!


 写真を撮られてしまった。


 後でデータを見てみると。写真の中の俺は何だかんだで笑っていた。

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