第73話 放課後メイド喫茶!
──キーンコーンカーンコーン!
放課後になり、委員長がみんなを集めた。先日決まったメイド喫茶での出し物について、詳細を詰めていくためだ。ちなみに、剛田先生は生徒に丸投げして職員室に戻っている。
先生はこう言っていた『俺は生徒の自主性を重んじる男。故にあとはよろしく』っと。まぁ、そうなるだろうとは予想していたことだから、特に驚くことではない。
いつもクラスの中心にいる女子が手を上げて発言した。
「決めるの遅かったし、今から色々やっても中途半端なのができるじゃん? ならさ、いっそのことレンタルにした方がいいと思うの」
言ってることは正しく、そして昨日恵さんの言っていた通りの展開になっていた。
委員長も異論は無いようで、後でまとめて報告する為に手帳に意見を書き込んでいる。
「他にありませんか?」
と、委員長が聞くと、教室でよく騒いでる運動部の男子が手を上げた。
「料理とかもさ、レンジとか電気ポットですぐにできるやつのが良くね?」
これに対して委員長が意見を言った。
「ですが、それだと私達は何の準備をするのですか? あまりに時間が空きすぎて、みんなで努力するっていう文化祭の本来の意義に反しませんか?」
もっともな意見に他の男の子が手を上げた。
「飾り付けに注力すればよくないか? 紙で作った花とかを付けるだけじゃなくて、少し凝った感じにすれば良いと思う。そうだな……女子は家庭科の授業で好きな物を作る予定だったろ? 先生に言ってカーテンなりテーブルクロスなりを作れば良いんじゃないか?」
それに便乗して女子が手を上げた。
「じゃあ男子は技術の授業でテーブルとか椅子を作ってよ。多分両方とも授業の時間じゃ足りないはずだから、その分を各自放課後で作れば委員長の言う【努力】と【時間】も解消するでしょ?」
「良いでしょう」と、委員長は承諾してメモを取り始める。
家庭科でメイド服作れば良いんじゃね? とかこの場で俺が発言したら、女子に怒られるので止めておいた。
明日から本気を出すということになり、放課後の話し合いは解散となった。
「じゃ、駅前に集合ね」と言って、恵さんが大急ぎで帰っていく。
今日は駅前のメイド喫茶に行く約束をしていた。制服で遊び回ると怒られちゃうので、俺も1度帰ることにした。
☆☆☆
家に帰ると夏凛に少し絡まれつつも、手早く着替えて駅前へと向かった。
スマホをポチポチといじってると、恵さんが駅から手を振ってきた。
「黒谷、待った?」
「いや、今来たところ」
定番の台詞を言うと、恵さんは少しモジモジし始めた。
「なんかさ、こういうのって……デートみたいだよね?」
何度も遊びに来てるのに、唐突にそう言われると意識しそうになる。
「ただの下見だろ。ほら、行こう」
「え、ちょっと待ってよ、黒谷~~!」
先に歩き始めると恵さんが小走りで追い付いて来て、俺の手を取った。
「ねえ、ドキッとした?」
「し、してない!」
「ホントかなぁ~」
どちらかというと手を取られた事にドキッとしたのだが、俺はそれを誤魔化すようにして歩く速度を速めた。
☆☆☆
カランカラン。
ちょっとメルヘン気味なお店のメイド喫茶に入ると、やはりメイド服を着た女性達に出迎えられた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
動画やドラマである程度は知っていた。それでも実際に体験すると、なんとも気恥ずかしい気分にさせられる。
「あの~、こちらで制服を着させて──」
と、言いかけて恵さんに遮られてしまった。
「2人だけです。案内お願いします!」
「はい、かしこまりました!」
席に案内されたあと、恵さんに聞いてみた。
「メイド服着て写真撮るんじゃなかったの?」
「だって! あの太もも見た? ギリギリじゃない! それにご主人様とかお嬢様とか……」
いわゆる、絶対領域ってやつだ。見えそうで見えない、それを着ることに土壇場で躊躇してしまったか。
「取り敢えずさ、カフェラテを頼むけど……恵さんはどうする?」
「じゃあ、あたしも同じのをお願い」
メイドさんを呼び出してカフェラテを注文した。
──コトン。
カフェラテが2つ置かれて、謎の儀式が始まった。
「美味しくな~れ、美味しくな~れ♡ 萌え萌えキュン♡」
メイドさんはそう言ってラテにハートを描いていく。確か、こういうのってラテアートと言ってた気がする。
俺も恵さんも、目を皿のようにしてその光景を見ていた。
「──ハッ! なんか不思議な夢を見ていた気がする」
「夢のような出来事だったけど、夢じゃないわ。このラテアート、ハートとかその周りの葉っぱとか、もう芸術じゃん、これ!」
ラテを飲み終わったあと、会計に行こうとしたら恵さんが左手を掴んだ。
「黒谷は見たいって、言ってたよね?」
「……なにを?」
「だから、あの服を着たあたしを、よ!」
「まぁ、似合ってるかも……とは言ったけどな」
「そろそろ慣れてきたし、着てみようかなって。思ったのよ」
「本当に大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫だから、しっかり見届けて!」
「お、おう。わかった」
メイドさんを呼んで先に【
ちょっと後ろから覗き込むと、バッと紙を隠されて睨まれてしまった。
ちらっとだけサイズのところが見えた。ふむ、Bは82くらいか……そこそこ大きいな。
必要事項を書き終えた恵さんは、アパレルショップにあるような、小さな試着室へと案内された。
「ではお嬢様、こちらの更衣室をお使いください」
そう言って店員の人が戻っていく。メイド服を手に持った恵さんが、振り返って言った。
「じゃあ、行ってくるから。待っててよね」
返答の意味を込めて手を振ると、恵さんは中へ入っていった。
──5分後。
恵さんはドアを少しだけ開けて顔を出してきた。そして俺に向けて手招きした。
「ちょっと手伝ってくれない」
「え、俺? いや、店員さん呼んだ方が──」
「いいから来て!」
俺は強引に試着室に連れ込まれてしまった。アパレルの試着室と違って、内装がピンクやらレースやらで彩られてるから少し驚いた。
恵さんはメイド服を着ている。スカート丈はホールにいるメイドさんと同じもので、見えそうで見えない太ももが魅力的だ。
素人目に見ても着こなせている、なのに何で手伝いなんか……?
「あたしの背中にあるファスナーを上げてくれない? ちょっと上がらなくて……」
言われて気付いた。ファスナーが半分までしか上がっていない。なるほど、
「よし、任せろ。今上げてやるからな」
ファスナーを指で摘まみ、少しずつ上へと上げていく。道中、水色のブラが見えて動揺してしまった。
「そ、そのくらい気にしないから。早く上げて……」
「ご、ごめん」
気を取り直して上げようと試みるが、中々上がらなかった。
──グググッ!
「む、胸が苦しいよ。……黒谷」
「待ってくれ、あと少しなんだ」
そろから何度試みても上がるどころか恵さんが苦しくなるだけだった。
「なぁ、本当に82なのか? もうちょい上だろ?」
恵さんは俺に向き直ると指で頬をつねってきた。
「あんた見たのね~~ッ!」
「ご、ごめんなひゃい!」
バタバタとじゃれあっていると、いつの間にか落ちていた恵さんの私服に足を取られて転倒してしまった。
──バタンッ!
俺の右脚は肉付きの良い恵さんの両足に割って入ってしまい、膝が水色の下着に密着していた。生暖かな感触に驚いた俺は抜こうとして前後に動かしてみた。
「黒谷……足、動かさな、い……で……んっ!」
動かす度に甘い声が聞こえてくるので、一旦冷静になって足元を確認する。すると、地面に落ちたスカートが俺と恵さんの足に絡まっていた。
「あと数回動かすから我慢してくれよな」
「……ンふっ……わ、わかったから、は、早く……」
慎重に足を抜くと、俺と恵さんは深い溜め息を吐いた。
「本当はさ、85なの。ちょっとムチっとした方が良いかな~って思ったのよ」
「なんでそんなことを……」
「その方が大きく見えると思ったの!」
「いや、充分大きいから。なんでそんなに気にするんだ?」
「……だって、あの子はあたしよりも大きいから……」
「と、とにかく。店員さん呼んでくるから、待っててくれ」
恵さんの言う"あの子"って恐らくは夏凛のことだ。そこまで気にする程の差でもないのに、そう思いながら店員さんを呼びに行った。
新しく持ってきた服は俺の手伝いなんていらないほどにピッタリで、そしてキッチリ着こなした恵さんが試着室から出てきた。
「ど、どうかな?」
「うん、予想通り。めっちゃ似合ってるよ!」
「ありがとう、黒谷」
何故か駅前での気恥ずかしさが戻ってきた感じがした。背後から店員さんが声をかけてくる。
「お似合いですよ、お嬢様。では、ご主人様もご一緒にこちらの部屋で【チェキ】でもしましょうか!」
チェキとは、メイドさんとツーショットで写真を取ることのできるサービスらしい。この場合は恵さんとツーショットを撮ることになる。
パシャパシャと写真を撮られて1番いい写真を選んだ。写真の中の俺達は、全部苦笑いばかりだったけど、これも良い思い出になるのかなって俺は思った。
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