第54話 せめて卒業までは……

「つまり、拓真お兄ちゃんはルナちゃん(黒猫)を保護してくれたお礼に"縁結びの紐"を黒谷君にあげた、そう言うことかな?」


「提案したのは雪奈さんでしたが……」


「そっか、でもなぁ~。うーん、どうしようか~」


 白里先生は長く綺麗な銀髪を弄りつつ、思案に耽っている。白里先生って考え込む顔も綺麗だな~、どう見ても高3の娘がいるとは思えない程に若々しい。


 みんなから新任教師に思われがちだけど、もう15年以上も教師をしているベテランらしいのだ。


「────黒谷君?」


「あ、ごめんなさい! なんでしたっけ?」


 いつの間にか白里先生の顔を眺めながらぼーっとしていたらしい、話しかけられていたことに全く気付かなかった。


「"運命力"についての話しなんだけど、知ってる?」


「運命力……その人が持つ幸運の度合いか何かですか?」


「色々と方向性があるけど、私が話すのは主に恋愛関係についてなの」


「恋愛関係?」


「うん、誰しも運命の相手がある程度定められていてね。その度合いのことを私は"運命力"って呼んでるの」


 要するに、恋愛的な結び付きがどれほど強いかという話なのだろう。だけどそれにはおかしな部分がある、独り身だったり彼女がずっとできない人間には運命力とやらは存在しないのだろうか?


 今までモテなかった俺としては是非とも聞いておきたい話だ。


「あのー、生涯独身の人とかはその運命力とやらは無いでしょうか?」


「良い質問ね。数値化すると高くても大体の人が50%前後で、本当に結ばれるには運の要素が影響したりして上手くいかないことがあるの。でもね、中には90%を超える運命力を持つ人もいるわ」


「へぇー、そんな奴がいたら結婚には困らなそうですね……」


「黒谷君、あなたがそれに該当する人間なのよ」


 ……。え!? 俺が? ないないない! だって今まで誰にも相手にされなかったんだぜ!?

 いや、そもそも行動すらしてないから相手も何も無いんだけど、自分がモテる人間じゃないことくらいは理解してるつもりだ。


「黒谷君が驚くのも無理はないけどね。運命ってかなり気まぐれだから」


「先生! もしそれが見えるのなら、俺は誰と運命で繋がってるんですか!?」


「ごめんね、それは言えないの。先生も強さだけでどこと繋がってるかはボンヤリとしかわからないし、それにそれを言ったら色々とフェアじゃないから」


 まぁ、それがわかれば落としやすいもんな。ほぼチートに近いし、倫理的な面からもアウトなんだろな。


「実は黒谷君が寝てる間にその運命力を見たんだけど……色々と問題がある感じなの」


「問題、ですか?」


「そうなの。運命力と同じくらいの力が黒谷君の中に渦巻いていてね、それはどうやら"縁結び"が生み出してるみたいなのよ」


 俺はそれを聞いて何とも言えない気持ちになった。縁結びがあるが為に本来結ばれるべき人と結ばれなくなっている、それはわかるけど……。


「だから2人を先に返したのよ。こんな話を女の子に聞かせるわけにはいかないからね」


「でも俺は……」


「このままじゃ君は誰とも結ばれないかもしれない。先生の神社関係に解呪に強い人がいるから紹介しようか?」


「でもそれ、かもしれないって話ですよね?」


「そうだけど、君はこのままで良いと思ってるの? 相手は実の妹なのよ?」


「俺も夏凛も、兄妹としてやっていけてますし。拓真さんは気をしっかり持てばなんとかなるって言ってました」


「──わかったわ。実際、夏凛ちゃんは教室でも笑うようになったし、良い方向に向かってるのは確かだからね」


「先生、ありがとうございます!」


「お礼を言われることじゃないよ。ただ選択肢を与えただけだから、それにその選択の中には2人がそうなっても良いって先生は思ってるし、そうなった場合は応援しても良いとも思ってるわ」


 それを聞いた俺は、夏凛とそうなる未来を一瞬だけ想像して頬が熱くなった。ダメだダメだ! 今大丈夫と言ったばかりだろ!


 ──忘れろ! 俺!!


「夏凛とようやく家族になれたんです。このままずっと続けるつもりはありません。せめて今年までは縁結びの力に頼ろうかと思ってます」


「ふふ、良いと思うよ。先生はどうなっても責任は取らないつもりだけどね」


 白里先生は少しだけ微笑んだあと、保健室の扉を開けた。


「ほらほら、もう7時になるから下校しなさい。あ、君のところはご両親がいないんだったね。夏凛ちゃんも今日は料理する気力ないと思うから、これで好きな物でも食べなさい」


 渡されたのは一万円だった。高校生の身にはとてつもなく重い紙だ。


「使いきれない額なんすけど……」


「夢枕のバイト代とでも思っときなさい」


「ありがとうございます!」


 受け取り、腰を90度に曲げて礼を言った。そして何を注文しようか考えながら帰宅の途につくのだった。

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