第32話 プールでハプニング 1
今日は恵さんとプールに行くことになっている。偶然なことに、夏凛も友達と遊びに行くので玄関の鍵は一緒に閉めた。
「じゃあ兄さん、夕方にまた──」
「おう、夏凛の方こそ楽しんできなよ」
俺と夏凛は互いに手を振って別れる。
そして駅前で待ってると恵さんが俺の肩を背後から叩いた。
「や、結構待った?」
「いや、今きたところ」
今日の恵さんは麦わら帽子に白のワンピースという実に眩しい服装だった。それに加えて茶色の少しウェーブがかったセミロングがJDっぽさを醸し出している。
──勿論JKなのだが。
「え? 何か変?」
どうやらジッと見ていたから、変なところを見付けられたと思ってしまったようだ。
「なんつーかさ、大学デビューしたお姉さんと遊びに行く気分だ」
「うう、髪だよね? 地毛だからいつも年上に見られるんだよね……」
「いや、それもあるけど……清楚感とイケイケ感が同居してる感じがする」
それを聞いた恵さんはいきなり笑いだした。
「あはは、黒谷おもしろい! 褒められてるのに、褒められてる気がしないし」
「もう行こうぜ、時間なくなるぞ?」
「あ、待ってよー!」
照れ隠しに先を急ぐ俺の隣に、恵さんが並ぶ。
「今日はよろしくね」
「ああ、よろしくな。てかさ、2駅先から徒歩5分だよね? 向こうで恵さんが待ってた方が良かったんじゃないか?」
恵さんは目を見開き、そして
「べ、別にいいじゃない。待ちきれなくて忘れちゃってたの!」
恵さん、たまにこういうところあるから面白いんだよな~
そうして、俺達は冗談を言い合いつつも電車で目的の駅まで向かった。
☆☆☆
「わぁ~! 大きい!!」
恵さんが超巨大なレジャープールに驚いている。正直テレビで観るよりかなり大きく感じる。人もかなり多いし、ウォータースライダーとか絶対に待ち時間長いだろうな……。
「じゃ、着替えたらシャワーのところで集合ね」
彼女は手を振って去っていった。
さ、俺も着替えるとするか。更衣室に入ると予想通り人が大勢いる。実を言うと、人の多いところ苦手なんだよな~、まぁ得意な人の方が少ないだろうけど。
ロッカーで着替えてる途中、隣の男の体が目についた。茶髪に色黒でバッキバキのシックスパックが、隣で着替える俺の男を大きく下げる。
世の女は、ああいうのに惹かれるのだろうか……。
俺の体は少しだけ痩せている。ガリガリではないけど、太りすぎてもいない……髪も染めてないし顔は普通。
──そう、どこにでもいる男子高校生だ。
隣の男は去っていき、俺はようやく普通を取り戻した。
「……はぁ。卑下するのはやめよう」
大人しくトランスタイプの水着に着替えて約束の場所に向かった。
「遅いよ!」
先にシャワーを浴びた恵さんが腕を組んでこちらを睨んでいる。おかしいな、ドラマや漫画では女子の方が遅いはずなんだけどなぁ……。
「悪い悪い、てか着替えるの早くないか?」
「下に着てきたんだから、早いに決まってるじゃん。それよりも、さ。──どうかな?」
恵さんはその場でゆっくりと1回転して水着を披露した。
上下共にフリルのついた緑色の水着。同級生の普段は見ることのない太ももや
全体的に肉付きがよく、しかも割りと胸が大きい。前に不注意でブラジャー姿を見たが、あの時はパニックを起こしていたからよく覚えてなかった。
それに加えて、緑色というのが恵さんの茶髪をより一層引き立たせてると思う。
「黒谷──所々聞こえてるんだけど?」
「え! 俺、もしかして口に出てた!?」
恵さんは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
どの辺りが聞こえたのかわからないが、女子に胸が大きいとか肉付きがいいとか、面と向かって言うのはちょっと失礼だったかもしれない。
俺だって、この体について品評されたらいい気分しないもんな。
「恵さん、その……色々言ってごめん」
俺が素直に謝ると、恵さんは慌てながら言った。
「あ、ごめん。怒ったとかじゃないの。あまり褒められるのに慣れてなかったからちょっと困っただけなの! 黒谷にそう言ってもらえて、嬉しいよ。逆に水着姿に何も思われない方が悲しいもん、あたしだって女だし……」
恵さんの言葉に少しだけ救われた。だけどその結果、かなり気まずい空気に包まれてしまった。
取り敢えず泳げば流れを変えることはできる、そう思って提案してみる。
「恵さん、"波のプール"に行ってみない?」
「うん、そうだね! 折角来たんだし、行こっか!」
恵さんは頷き、俺達はプールの方へ向かった。
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