第33話 プールでハプニング 2

 俺と恵さんは波のプールで遊ぶ事になった。


「黒谷~、ほ~れっ!」


 バシャッ!


「ちょ、いきなり!?」


 バシャッ! バシャッ!


「先手必勝なり~、ほれほれ!」


 恵さんはプールに入って1分と経たずに水攻撃を仕掛けてきた。俺としてはのんびり浮いていたかったけど、そんな事をしたら口に水が入ってしまう。


 なので俺は応戦することにした。


 男子の中で非力な俺だが、女子である恵さんに腕力で勝る俺は水の掛け合いなら負ける気がしなかった。


「負けてたまるかよ!!」


 ドシャァァァァッ!


「きゃあッ!」


 ザブーン!


 ちょうど波が来るタイミングと、俺の特大水飛沫が重なって恵さんがどこかに行ってしまった。


 足でもつってしまったのかと心配になった俺は恵さんのいた場所に向かう。すると、プクプクと泡が浮いてきて、罠だと気付いた時には遅かった。


 ドバーン!


 急上昇した恵さんによって俺は至近距離で水を顔面に受けてしまう。水面をよく見れば看破できたのに、ちくしょー!

 恵さんは顔の横でピースして笑っている。


「えへへ、沈んだ振り~」


「くそ、罠だとは思わなかった……」


「黒谷はあんまりこういうところ来たことないって言ってたからね。セコいイタズラかけ放題ってね!」


 恵さんはそう言って後ろ向きに泳ぎながら、ばた足で水をかけてくる。

 経験の差でどうしても負けてしまう、こうなったら……捕まえて"こしょこしょ"してやるぜ!


 俺は追いかけた。どんだけ被弾しようが構わずに追いかけた。最後にギブと言わせれば俺の勝ちだ。

 恵さんは後ろ向き、俺は前に追いかければいいからこちらが有利、たまに襲いくる波で離されることもあったけど、少しずつプールサイドへ追い詰めていった。


「さあ、追い詰めたぞ」


 プールサイドに背中があたり、恵さんを追い詰めることに成功した。


「あたし、こう見えても運動得意なの。甘くみないで」


 彼女の瞳が少しだけ左右に揺れている。右か、左か、俺に水をかけたあとどちらかに逃げる算段でもしているのだろう。


 だが甘いな、ここまでかなり顔面に水を受けてきたんだ。耐性はすでに付いている、どんなからめ手を使っても俺から逃れることはできない。


 手をワキワキさせながら徐々に距離を詰めていく。だが、恵さんが唐突に不敵な笑みを浮かべた。


「黒谷、ここがどんなところか知ってる?」


「波の出るプールだろ?」


「ええ、そうね。じゃあついでに、小5回、大1回……これがなんだかわかる?」


「いや? 検討もつかないな。それがなんだ? 状況は変わらないぞ?」


「それはね──このプールの波の周期のことよ!」


 俺は背後を見て驚く、先までの波はちょっと水面が揺れる程度のモノだったが、これはそこそこ大きな波だ。


「ほら、こっちからも水よ!」


 牽制&目眩ましの水を恵さんがかけてきた。

 こうなったら仕方ねえ。俺が気合いで追い掛けることにした。顔に水がかかるがそんなモノ、俺には通じなかった。


 うおおおおおおおっ!


 俺は恵さんを捕まえることに全能力を注いで進んだ。彼女はすでに右へ逃げ始めていて、こちらを見ていない。届かぬ夢を掴むようにして俺は手を伸ばした。


「届けえええええっ!」


「え? ちょ、黒谷っ!?」


 ドボーーーンッ!


 ………………。



 波が収まったあと、俺達は沈黙に包まれていた。


 何故かと言うと、恵さんが俺の背中に手を回して、俺も恵さんの背中に手を回していたからだ。

 体の前面がとても柔らかいものに包まれている。恵さんは俺の胸に耳を当てていて、表情はこちらからは見えない。


 ただわかることは俺も彼女も茹でダコのように赤いということだ。


 友達と言えど相手は女性、しかも押し付けられた柔らかさで俺の体が反応しそうになる。いやいや、俺は何考えてんだよ……。恵さんは俺と遊ぼうと思って誘ってくれた友達じゃないか。そんな目で見たら幻滅されちまうだろ……。


 とにかく、何か言わなくちゃ!


 俺が言葉を選んでいると、恵さんがそっと俺の胸板を押し始めた。


「黒谷、もういいから」


「あ、わりぃ……」


 2歩分ほど距離を取ると、恵さんは俺に笑顔を向けてくれた。


「ううん、いいよ。あたしを守ってくれたんでしょ?」


 実際は無我夢中で何かを掴んだので訳わかってないが、水着のブラを掴まなくて良かったと心底思っている。最近はそういう出来事が多いからな、直近だと夏凛をくすぐった時に胸を鷲掴みしてしまった事とか。


 とりあえず、俺は恵さんに合わせて返答することにした。


「え? あ、うん。大丈夫?」


「うん、大丈夫! あたし、適当に何か買ってくるからさ、戻ったら少し休憩しよ?」


「わかった! じゃあ俺はあの普通のプールで適当に浮いてるからさ、買ったら向こうに来てよ」


「了解、じゃあバイバイ!」


 恵さんは顔の横で小さく手を振ってお店の方へ向かった。俺はゆっくりする為に普通のプールでプカプカ浮くことにした。


 だが、俺は日向故に気付かなかった。右手小指がほのかに発光していることに……。

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