第31話 帰宅後
「ただいま~」
俺は帰るなり最近の日課である"挨拶"と言うものを実践している。
Rineにてつい先日、夏凛から追加の家族ルールが提案されたからだ。
「お帰りなさい」
「今日は俺より早く帰ってたんだな」
「ええ、サッカー部も休み、水泳部に行ってもすぐに終わりましたので今日は私の方が早かったんです」
夏凛が「えっへん!」と言わんばかりに胸を張る。薄着ゆえなのか、ブラが仕事してないのか知らないが、俺的にはソレを揺らされると非常に目のやり場に困る。
兄とは言え、仕方のないことだ……。
ブーッ、ブーッ……
ポケットに入れてたスマホが震えだした。
「何かの着信ですか?」
「ああ、後で見るよ。それよりも今日はどうする?」
「えへへ、実はシチューがすでに出来上がってるんですよ。な・の・で、ご飯にしますか? それともお風呂? それとも──私かな?」
夏凛が上目遣いにこちらを見つめる。まぁ明らかに冗談だろうが……少しイジメてやるか。
「夏凛、その言葉……俺以外には絶対に、使うなよぉ~」
ジリジリと夏凛に近付くと彼女も後退りし始めた。
「に、兄さん? 手をワキワキさせるの止めましょう?」
「お前を笑い死にさせてやる!」
「キャーーーー!」
逃げる夏凛をリビングのソファまで追い詰め、くすぐり始めた。
「キャハハハハハハハハ! く、苦しいですぅ、兄さんっ、あははははは!」
「この! このこの!」
漫画で読んだ兄妹ってこんな感じだったな~、と俺は満足げに手を動かす。ソファでは夏凛が下で俺が覆い被さる態勢だった。
「あははははは──あ、ちょ、兄さん……ン……あ、あぁッ!」
夏凛の声色が変わった。ソファでうつ伏せの夏凛、脇に手を入れてくすぐる俺。
だが、回想に浸りすぎて手が奥に進んでることに気が付かなかった。
完全に掴んでしまっていたのだ。
夏故に薄着、ダイレクトに伝わる柔らかさ、にもかかわらず骨に全く届かない厚さ。
じゃない! いかんいかん、とんでもない脳内実況をしていたな。俺は兄なんだぞ? 折角最近仲良くなったんだ……この間の事といい、俺はどうかしてるぞ!
ガバッ! と離れた俺は取り敢えず謝る。
「ごめん、夢中で気付かなかった……」
「ううん、楽しかったですし、全然OKです。でも……その、どうでした?」
「え?」
空気が固まる。思考も固まる、夏凛も少し固まって次第に顔が赤くなる。
「あ、あれ? 私、最近変だ。え、えーっと……ご飯の用意してきますね。……そ、その間にお風呂でもどうぞ……」
夏凛はいそいそと台所に向かった。
"どうでした?"ってどういう意味だよ。まぁ感触を聞いたわけじゃないだろうが、兄としてはじゃれ合えて良かったなって思うよ。──うん。
☆☆☆
風呂に入り、テーブルで夏凛と夕食を取る。
「兄さん、明後日友達と出掛けようと思ってますが、不都合があったりしますか?」
明後日? あ、そう言えば恵さんから同じく明後日プールってRineが入ってたな。
最近ずっと夏凛とゲームしたりして遊んでたし、別にいいか。
「俺も友達と遊びに行く予定があるからさ。ちょうどいいんじゃね?」
「明後日だけ、ルール破っちゃいますね……」
真面目な夏凛は家族ルールを破ることに罪悪感を感じてるのだろう。俺はテーブルの上で夏凛の手を握って言った。
「これからは何度でも一緒に食べれるじゃないか、今はその友達と遊んできなよ」
「えへへ、そうですね。じゃあ、お言葉に甘えます。でも! 可能な限りは守りますからね! 兄さんもそのつもりでお願いします!」
「ああ、わかったよ、夏凛。まぁ俺は友達少ないから、そんなに遊びに行くことはないけどな」
「ふふ、なんですかそれ。自慢になりませんよ? それに私だって似たようなものですよ」
そういえば、夏凛も友達がそれほど多くはいないって白里先生が言ってたな。ならなおのこと、今回は遊びに行くべきだろう。
夏凛と黒斗は夕食を食べ終えたあと、自室でそれぞれ明後日へ向けて準備を始めた。
──だが、この時、夏凛は失念していた。城ヶ崎 恵が黒斗の友達枠であることを。
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