# 私は恐れました

 空腹、喉の渇き、寒さで凍える。

三鷹に雪が降り積もる。

 春一番、逆戻る、逆行の寒波!!


「だ、太宰先生が、いらっしゃった三鷹の街、

ううっ、寒っ!!死ぬ、寒い、冷たいよ、寒いよおおおっ!!」


 私は幼稚園の頃に、親指姫の役をしました。

理由は女顔だからだった、女の子みたい、女の子みたいともてはやされて、ついに、女の子の役を奪ってしまったが……、それは、かえって良かったのです。

 前半のカエルの旦那に求婚されてえんえんと泣いたり、そこから逃げて寒い逃げ道を彷徨う過程までのいわば、嫌がる役のみをしたきりで、私は、そこからささっと撤退して、朗読役にまわることになっていたのです。


 便利なやつ、というのが、私でした。

 滑稽なやつだと笑われてみたかったが……

 私には、道化のサイノウはないと知ったのです。

 

 私はあの日の親指姫のように、寒いよお、寒いよおとTwitterに指先を這わせた、助けてください。

ある歴史小説家の武将が、気づいてくださった。

「カフェーに逃げ込むのだ、はやく!!」

私はスタコラサッサと、スッチャカピンチャンの如くに走り出した、とりあえず、カフェ、カフェ!!あった!!

「あらら、大変ね」

 近くのマダムがお情けをくださった、同情するなら愛をください……、そのマダムはハンカチくださった、ハンカチはごめんなさい、タイプじゃないのという合図だ。

私は苦笑いして、受け取ると彼女は微笑んでいた。

おお、恐ろしい、美しすぎて絵画のようだ。

 店員が、ココアを指差す私ににこりと微笑んでくださった、そして「ごゆっくり」と添えた。


「私はまったくもって、何をしているんだ?」


恐怖が全身を包み込んだ、グレーのコートを羽織っていた、重たくて袖を通していると、冷えてしまうからであった。


「寒いから……痛い」


 悲しくて、痛くって、辛いのに涙が出ない。

笑ってしまった、なんだい、こんなことになるなんてさ、小学校でも中学校でも習わなかったぞ?


「雪が綺麗と……」


 口に出して、よした。

私の好きな人は、必ず、私以外を選ぶ。

あったまってくると、ふとマッチ箱が袖から落ちた。


 そうだと思い、原稿用紙一枚を取り出して、書き出した、先生に大笑いされる立派なおバカさんになりたい。


 そんな想いを書き殴ってみた。

バカである、その時点でバカである。

一枚だけにしたのは即興だったのと、マッチ箱に隠せる枚数の限界だと思った。


 ああ、どうせ、カタオモイばっかりしてるんだ、これからもずーーーっとカタオモイ、肩重い?

同音異義である言葉にダジャレ的な言葉遊び。


(だめだよお、こんな子供騙しじゃあだめだよお、

もういいや、そのまま書いちゃえ、えいえいおー)


ここまで、独り言(心の中で)である。


 不安と孤独に支えられながら店内を出る。

白い湯気がわたしからふわふわーとする。


「真っ白、どこもかしこも、真っ白だわ」

 

 私は、歩いていた、歩いて、歩いて、歩く。

まっすぐの路、先が細くなる、女の子や男の子の歌声が耳に響く。


「とおーーりゃんせ、とおりゃんせ、こぉこはどぉーーこのほそみちじゃあ?ーー様の細道か?ちょぉーーっととおしてくだしゃんせ、ご用のないもの通しゃせぬ」


声がどんどん、大人びてきて、金属の耳鳴りまで聞こえてきた、きーーーん。


「とおりゃんせ、とおりゃんせ、ここは俺の路」


「なあ、おまえさん。僕に一体、なんの用事だ?

くだらないことだと僕とて、怒るぞ?」


「ほほお、手の指先のインク染み、僕のことが好きなんだなあ、ふふん、へえーー面倒な奴があるてきているなあーー」


「ここまできたんだ、滑らないように、こつこつ歩けよ、走ったらだめだ、怒るぞ?」


「その角を曲がる、それからまっすぐ、そして曲がる、大きい門が見える、羅生門ではないぞ?森先生も目の前にいる、まあ、よくたどりついたもんだな。それは、褒めよう……だがな、……」


 長ったらしい幻聴だなあと思いつつ、門に向かって、雪を踏みしめる。

僕の前に雪があって、真っ白。そこに僕の足跡がついて、消せない過去へと流れてゆく。


「間違えたかな……戻ろうかな」


 ふと、呟いたが、戻っておいでなんて声はない。


「ここは、どこなの」


 ストレイトシープは、僕だったのでしょうか?

生まれたての羊は、後ろに本足を震わせました。

めそめそと泣きたいが、泣くことはできません。

なぜなら、わたしは紙を食べる羊だからです。

めーえぇーとため息をついた、白くなる吐息は、マシュマロみたいにふわんふわんに漂いました。


「ここお、どぉこ、ねえ、おねちゃ……だめだわ、しっかりしなさい」


弱音を零しかけて、口を一文字にしました。


青紫に冷めてるであろう唇に触れると、切れていて、紅い絵具が溢れていた。たらっと流れたのを拭う、ハンカチ、紅、慰める奴はもう……。


「痛い……痛いのやだ」


そう溢れた言葉の先に、案内板を見つけました!


「わあ、ここが、やっぱり森先生と太宰先生の眠る地なんだわ、わあーー、あ、ああ、うわあーー」


 語彙力はなくなってゆく、事実が目の前にはばんと並べられているのです。


 彼らは大昔に、この世を去っているということ。


 墓前は雪のお帽子をかぶった景色でした。

わたしは周りをみまわした、怖いと思ったのです。

このひとつひとつに眠ってる人がいるかしら?


 曽祖母を思い出しました。

たぶん、これからどんどん、思い出が増えるんでしょうね、まあ、知らないことですが……。


 みんな、雪の下で眠っているのかしら?


 ぶるりと、身体が震えます。

そして、墓前につくと、なんだか、あっさりした感情が込みあげた、人間……いつかは、死ぬんだなあと、やっぱり、そう思ったのです。


 死ぬまでのプロセス?というのかしら?間、なにができて、どんな人生で、どう思われて、なにを感じ、なにに怒り、どうやったのか、木の枝がぐわんぐわんと雪で踊ってるように見えました。


 自分の体力のなさが、口惜しい。

立ってるの限界になってきて、タバコもまだタバコだけ添えて、両手なしわたしわあわせて、お祈りしました。


 奇妙なもんだなあ、なんて思ったのです。

教科書に載ってる先生は、ここに眠ってるのか、なんて、眠って……いるのかしら?

 ごほんごほんと咳が聞こえる、自分のだったので、恥ずかしく思い、えへへとはにかんでみました。


 枝が揺れ、雪を投げつけられました。

 かなり冷いです。ひどいです。


 それから、森先生の墓前にゆき、気づきます。

も、森先生になにも書いてなかったわ!!と、わ、

わたしは大慌てしました、出身の言葉で言うならば……「ほんま、どないしよう」です。


 珈琲缶、大阪で買ってカバンのポケットにしまっていたやつがあった。

「お、大阪の缶珈琲です、お口に合うかどうかわかりませんが、おっ、お納めくださいい!!」

私はそっと置いて、丹念に詫びと祈りをこめて祈った。


 それから、帰ろうとした時に、すってんころりんした。


 ころんだから、痛かったです。

でも、泣かない、強い子になると決めました。


 (でも、ほんの少しだけ涙出ました、唇に染みて痛みました)


 私はわたわたと門を出ると、ある綺麗な方に呼び止められて。


「イヤアホンが、とれておりますわよ」


そう助言されました。


「あっ、その、いやあ、すいません!!

 ありがとうございます!!」


 私はそう言って、耳に収めた。

幻聴を帰りには書きたくないからつけてみた。

が、再生リストには太宰治作品集 朗読のおすすめがずらーーーっと並んでいた、仕方ないので、それを聴きながら駅に向かう。


 私は恐れていました、死について。

でも、死というのは必ずくるものであり、生きることにつながることでもあるんだと、教わったのです。


 私はまたひとつ、賢くなれた気がしました。

恐怖を恐怖のままでしておくよりも、足を使い、目を使い、手を使い知ろうとしてみる。


 そして、恐怖について知ってしまえば、あとは、それと戦うのみであります。


 私は、生きるために戦う。

 愛を知るためにたくさん学ぶ。


 それから、私の恐れを少しでも減らす。

それでも、どうしようもないときがある、恐怖もある、そういう時は大きい掌が目蓋を隠してくれる。


 ソーシャルディスタンス

適度な距離感で現実にも、死や生や、魂に、愛に向き合ってみる、そのスタンスが大切みたいです。


 私は、恐れていました。

 これからも、私は恐れますが、それでも……。

 あの頃と違い、沢山の仲間がいます。

 夢の世界にも、絵空事の世界にもお友達がたくさんできたのです。


 概念という存在がファボしてくださることも増えて、私は私という人生についてぼんやりと考えてみることにします。


 不安と孤独とそれから、恐れ。

人間だれしも、もっているものなのです。

持ってないのは、おそらく某テニスコートで踊る、熱血ファイヤーさんだけなのです。


 それぞれの悩み、恐れ、それらから守られる事、癒されることをただ祈るだけです。

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