第11話 爆風吹き荒ぶ
「写本を渡せば見逃してやろう」と、近づいてきたエドガが言った。隣には首領ベコベコが並走して、背後には3人の配下が付いてきていた。
「写本を使って悪事の限りを尽くすのに助けてくれるのか」ベイクは鼻で笑って答えた。
「そうだ」ベコベコは鼻を鳴らしながら喋る。「そいつを放り投げろ。もうお前らを追いはしないし、メーケルの前に姿を現さない」
「勘違いするな。それでは俺の腹の虫が治らん。お前らがどうすれば困るかを考えている所だ」ベイクは懐に入れた写本を撫でて見せた。それがエドガの尺に触ったらしい。
猛烈な勢いでエドガが馬を突進させてきて、手に持つ刀剣を振りかざした。
「もう少しあんたは話がわかる奴だと思ったがな」エドガは真上からベイクを切りつけた。しかしベイクはその刀剣に一瞬で3発当てたため、エドガが手に持つ刀剣は瞬く間にへし折れてしまった。
エドガは衝撃で体勢を崩し、そのままベイクに首を掻き切られて落馬してしまった。エドガを乗せていた馬は背後のベコベコ団員1人を巻き込んで停止した。
「貴様よくも」団長ベコベコは上目遣いに睨めつけてきた。ベコベコはそれ以上に近寄ってきたりはせず、距離をとって追いかけて来ていた。
しばらくして、ベイクは察知した。周囲の空気の密度が変わり、何やらパチパチと目に見えない何かが弾けている音を。
「ザン、横にそれて全速力で走れ」ベイクはいきなりそう叫ぶと、かなりの速さで走る馬から飛び降り、脇の灌木に転がり落ちると、藪の中を写本を抱えて走り始めた。
背後で爆裂音が轟き、ベイクは爆風で飛ばされて、木にぶつかった。それから耳に痛みを覚え、しばらく鼓膜をやられたが、気にも止めずに走り始めた。
ベコベコの爆風は道から木々を巻き込んで円形の砂地を作った。彼は1人道から外れ、巻き添えにした背後の配下には目もくれず、馬でベイクを追いかけた。乗る馬は灌木や枝木などもろともせず、ただ純真に主人の指示に従う。
木々の間に人影を認めると、もう一度爆風を放った。火は起きないので火災はなかったが、おびただしい木の葉が舞い、砂埃を纏った空気が舞った。
そしてベコベコはベイクを見失う。
「どこだ」ベコベコは馬を止め、出っぱった腹に力を込めて叫んだ。先ほどまでのような逃げる気配が無く、その辺に潜んでいると思われた。
「写本を渡せば殺しはしない」我ながら笑える冗談だ、と思った。
よく周りを観察していた時、目と鼻の先に灌木の端に魔神の写本が落ちていて、半分見切れている事に気付いた。
罠だ。馬から降りれば奇襲される。
「それをこちらに持って来てはくれんか」ベコベコはどうするのがベストなのか分からなかった。音沙汰はない。ベコベコは途方に暮れて、立ち往生した。
「出てこい。写本を拾い上げて渡すんだ」ベコベコが辺りを伺いながら言った。確かにその辺にいるような気配はする。しかしどこにいるか分からない。
それ以上に長く感じられるしばらくの間が流れた。無音だった。
緑が揺らぐ。本の位置とは反対方向だ。ベコベコはまた爆風を放つが力を押さえた。それでも森に鳴り響く。また静まりかえった。
また向こうで、木の葉が揺らぐ。
もう一度爆風を放った時、ベコベコはその音で聞こえなかった。写本が見え隠れしている灌木の中からベイクが現れ、ベコベコの肩甲骨の間から尻にかけて切り裂かれ、馬の後ろに乗られて首筋を切り下ろされた。
まさに一瞬で団長は絶命してしまった。
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