第10話 ホースチェイス
追手はまだ見えなかった。まだ太陽が煌々と照り返す中、緩急がある丘をいくつも超えて、森に差し掛かり始めた。
すると全速力で走って来たにもかかわらず副長のシュレンナーが視界に入って来た。彼は華麗な手綱捌きで馬の力をどれほど引き出すのかというくらいに距離を縮めて来ている。
「まずいな」ザンが後ろを振り向きながら呟いた。「どうしますか」
「応戦するしかないだろう」ベイクは言った。
「彼はかなりの使い手ですよ」
「2人で挟み込めばどうにかなるだろう」
ベイク達はあまり馬に無理させるのを控えた。するとぐんぐんシュレンナーが距離を縮め始め、やがては目と鼻の先にやって来た。彼は剣を抜いて、まるで悪鬼のような顔をして襲いかかって来た。
ベイクは彼の左側に回り込み、彼が繰り出す斬撃を受け止める。そしてつばぜり合いをしながら少しずつ後ろに後退し、シュレンナーの死角に入ろうとした。
「写本をよこせ」またもシュレンナーが叫び、闇雲に剣を振り回す。するとシュレンナーは背後を見て、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、ベイクに対する攻撃の手を強めた。
ベイクにはあまり見えなかったが、どうやら他の追手が複数来ているらしかった。
ベコベコやエドガ達だろうか。だとするとシュレンナー副長は彼らとは味方同士ではないのだろうか。
シュレンナーは必死に焦り始め、遂にはベイクに馬体ごと近づけて、勝負を決めに入ってきた。ベイクに飛びついて馬ごと奪い取ろうとしたのか、手綱を離し、身を乗り出し始める。目をひん剥き、それはそれは恐ろしい形相だった。
その時、シュレンナーの胸から剣の刃が飛び出したかと思うと、彼は動かなくなり、力なく落馬していった。後ろを振り向くと馬の脇を転がり込み、あっという間に小さくなっていった。
「ザン」ベイクはシュレンナーを挟んで向こうにザンがいるのを見た。
「エドガ達だ」ザンは後ろを見ながら言った。「まさかあんな奴だとは、メーケル様も思いもよらないでしょうね」
ベイクにとっては全員信用ならない者ばかりだった。なので彼に意外性はなかった。
「どこへ向かいましょうか」ザンが訊いた。
「俺に考えがある。街に向かおう」
「どんな考えですか」
「行ってみればわかるよ」
ザンはそれを聞いて何も答えなかった。
しばらく走ると左右の藪から何やら音がするような気がした。葉が擦れるような、木が折れるような音。
「追手か」ザンが言った。
「どうやらベコベコ団員が合流してきたみたいだな」そう言うとベイクは馬をけしかけてまたスピードを上げ始めた。
「ベイクさん、どうしよう」ザンは不安そうに呟く。
「本当は馬車でもあれば良いのだが」そう言うとベイクはザンに馬を近寄らせて、身軽に飛び移り、彼の後ろに背を向き合わせて跨いだ。
「な」ザンは慌てて馬のコントロールを誤りそうになった。
「これで戦える」ベイクは絶妙なバランスで馬のお尻辺りに座り、両足で腿を挟み込んで剣を宙に掲げていた。
すると藪の中からベコベコ団員が2体、道へと飛び出してくる。1体が近づいてきて、ベイクに一太刀浴びせんと突進してきた。
ベイクはつばぜり合いも許さず、一撃で相手の曲刀を叩き割り、馬からはたき落とした。
「3回斬りですか」ザンが前を向いたまま言った。
「よく見えるな」
「音が3回しましたから」
続いて襲いかかるベコベコ団員も馬から脱落させた。エドガや団長ベコベコも距離を詰め始めていた。
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