第7話 仲間が倒れていく。

 バルックとエドガは目を血走らせながら胸ぐらを掴み合って喧嘩をしていた。


 理由は隣の部屋へ侵入する際にバルックが兵士2人に先に行くように半ば強引に急きたてた事だった。


 「だってこんな風になっているなんて誰が分かるんだ」バルックは動転した様子で怒鳴り散らした。


 「だからお前の悪い所が仲間を死なせたのだぞ」温和そうなエドガもこの時ばかりは声を張り上げる。


 「知らねえよ」バルックはそっぽを向いてエドガが掴みかかるのを振り解こうとしていた。


 「知らないとは何だ。貴様いい年をしていい加減にしろよ」


 「離せよ」


「貴様あれが見えないのか」


 崩れ落ちた部屋の床の穴から覗くのは、一面の蛆の様な幼虫が、2メートルほど下方でびっしりと蠢いている。


 2人の兵士は明らかに蛆の様なものに襲われており、さっきまで虫に埋れながら、金切り声を上げて苦しがっていた。そしてその中に飲み込まれたかと思うと、ぱったり音沙汰がなくなってしまっていた。


 一同は、足元が崩れ落ちる床の手前にいた。


 ベイクはその言い争いをただただ黙って聞いていた。もう1人の兵士が不安な表情で床の下を見ていた。ひょっとしたら自分があの中で悶え死んでいたかも知れないのだ。


 「お前名前は?」ベイクがその兵士に話しかけた。もうメットは前から外していて、少し伸びた坊主刈りの、薄い口髭を精一杯生やした青年で、黒髪に真っ黒の大きな瞳が印象的だった。


 「ザンです」青年は目を見開いて答えた。話しかけられるとは思わなかったみたいだ。


 「ザンか。いいか、ザン。この状況に心を持って行かれるなよ。でないと死ぬ事になるぞ」ベイクは額の汗を拭った。前で2人が言い争いをしている中、自分が冷静にならないとと思い、水面が静まるのを待った。


 「ザン、ここを通り抜けるにはどうすれば良いと思う?」


「そうですね。恐らく通り抜けられるとしたら、崩れない床があると思います。なのでその部分を探せばいいと考えます」ザンは意外と冷静に返答してきた。


「お前らそれまでだ」ベイクはエドガとバルックに言った。「みんなで手分けして床を叩いて崩せ。道が出来るはずだ」


バルックは自分がしでかした事で仲間を死なせてしまったせいか、謙虚に従った。4人は床を剣の鞘で叩きながら蛆のような化け物の上に石やその粒を落とし始めた。


 「なぜ盗賊達がいないのだろう」ベイクは床を崩しながら、誰に言うでもなく呟いた。


 「この神殿は何かおかしいですよ。奴らは別のルートを行っているんじゃないですかね」ザンが言った。


 「別のルート?」エドガは汗だくだった。視界に虫の群れが入るのが鬱陶しかった。


 「予想ですがね」ザンは自分の役割の床を崩していた。


 えてしてできた道は実に細く、ロープ渡りでもしようかというくらいの幅しかなかった。4人はバランスをとりながらそのクネクネした通路を歩いた。



 やっとの事で扉まで辿り着き、扉を開けた時、目に飛び込んできたのは巨大なニワトリだった。どれ程巨大かというと、高さがベイクの2倍はあろうかと言うくらい。


 次に見えたのはそのニワトリに捕食されようかと下半身をくちばしに飲み込まれた漢だった。彼は出立といいベコベコ一味に違いなかったが、その山賊は飲み込まれる間際にこちらを見つけたみたいで何かを訴えかけるような目で見て、意味のわからない声を発していた。


 その時ベイクは見た。まるでそのベコベコ団の男がこちらを、知ったかのように見て、助けを求めてきたのだ。誰かを見つけたような顔。


 しかし次の瞬間には男は丸呑みされてしまった。


 部屋がだだっ広いのはまだましだったが、ニワトリは巨大な鶏冠を前後させながらその辺をうろつき始めた。目はあまりよくないみたいで、こちらを検めるまで時間がかかった。


 軽く飛び上がって重低音の嘶きをしたかと思うと、4人目掛けて走り寄ってきた。

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