第6話 焼けつくような罠
扉の向こうは廊下だった。6人はやっとこさ身を起き上がらせると、そこから見えないほど長く続く廊下や、壁や天井に目を奪われた。
一面に文字がびっしりと書かれている。四方赤い廊下に黒い文字で書かれていて、よく目を凝らしてみると、明らかに規則性があり誰かが読める文字ではあるらしい。
「いやはや」エドガはその光景に圧倒されている。
「クレイジーだな」バルックは一同から1人前にへ出て行って文字を眺めている。
「何があるか分からんから待て」ベイクが言った。
「は?何でお前に指図されなきゃなんねーんだよ」バルックはそう言うと、皆を置いて廊下を歩き出した。そして他の5人は何も起きない事を確認して恐る恐る足を踏み出した。
「ああだから疲れるんだ。腕は確かなのに」エドガはベイクの耳元で呟いた。
ベイクが文字を近くで見ていた。彼には黒いインクで書かれていると思われた文字が何だか焼けているように感じた。墨か何かで書かれているのだろうか。
「おい」バルックが背中を向けて呟いた。「なんだか暑くねえか?」
「確かに。なんだが暑いな」兵士の誰かが呟く。
「なぜだろう」また誰かが言った。
「急いだ方がいいかも知れんな」エドガが皆を促しながら小走りになった。自然と6人は足が早くなる。
「文字が消えていってる」ベイクは全速力で走り出した。廊下の向こうは見えない。男達は汗だくで、熱気で息もできない。
「文字が焼けて赤い壁と同化している」エドガが壁を見て言った。段々温度が上がっていて、ブーツが焼けるような臭いがする。
向こうに扉が見えた。
最初に辿り着いたバルックが木の扉を勢いに任せて蹴破り、ドアの向こうに飛び込んだ。
次の部屋はまた広々とした部屋で、天井の窓から淡い太陽の光が垂れ込め、それが部屋の真ん中にある何かを照らしていた。その周りは薄暗く、まるでそれのために作られた窓のようであり、そのための部屋であるように感じた。
それは墓だった。しかし我々が入るような墓ではなく、人の上半身くらいの楕円形の石を、削りもしないでそのまま台座に積み上げたような墓。
「何なんだこの神殿は。何のために作られたんだ」バルックはまた歩き出し、墓石に近づいて、撫で始めた。
「神殿の奥へは入れるようになっているらしいな」ベイクも部屋をうろうろしながら言った。
一同はベイクの話に耳を傾けているようだった。
「必ずしも完全に侵入者を抹殺したがっているのではないみたいだ。仕掛けを知っていれば潜り抜けていける罠ばかりだ。今のところはな」ベイクは墓に近づいてみた。
「この部屋も不気味だ。早く行こう」エドガが言った。
ベイクは何故この神殿が作られたかを考えていた。まるで人を試すような罠を張り巡らせて、嘲笑っているかのようだ。それにしても盗賊達はどこへ行ったのだろうか。
墓石の間を抜けると、そこはまた廊下になっていたが、幅が広く向こうの扉が見えるくらいに短かった。
しかし左右を対にして、5体ずつ10体の、フードを被った女と思しき石像が通路の両脇に立ち並び、ローブから伸びた手を胸の前で合わせていた。その手のひらには炎が水をすくうように揺らめいている。
6人が無言になったのはその廊下の中ほど、女の像の前に3人ほどの焼死体が横たわっていたからであり、全身が焼けて衣服や皮膚が焦げ付いていたが、どうやらベコベコ一味の者であるらしかった。
「あれはやはりあの像に焼かれたと解釈して良いのだろうか」エドガは相談するように皆に呟いた。
ベイクが荷物の中から干し肉を取り出して廊下に投げた。
次の瞬間、空中の干し肉へ、まるで獲物を与えられたかのように石像達は手の平の炎を放射し始め、それを丸こげにした。6人は目は激しい炎に目が眩んだ。
「どうすれば」兵士が狼狽した。皆少しづつ精神を蝕まれているらしかった。
「見てみろ。今炎が消えている。放射した直後はなくなるのかも知れない。少しここで休んで様子を見てみよう」
一同は何度か石像に獲物を与えながら、しばらくその場に座りこんで、進めるかどうかを確認した。
そして像が次の炎を放つまで時間がかかる事を確認して、焼死体を跨いで、また先へ進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます