第4話 赤い赤い神殿
ベイクを入れた8人の騎兵達は紅の神殿に向かう途中、副長のシュレンナーの合図で、小川で馬に水をやりがてらに休憩した。くせが強そうな者が多く、ベイクは自分の疑問に答えてくれそうな人間を探したがいそうになかった。
彼らはお互い仲がいいのかどうかも疑わしかったが、誰に言うでもなくベイクは喋った。
「紅の神殿はあとどれくらいで着くだろうか」
誰も返事をする者はいない。見ながらベイクに一瞥くれるとまた黙ってしまった。彼らを観察したかったので、ひつこく訊いてみた。
「無視する事ないだろう。これから行動を共にするのに」
それでも皆あさっての方を向いて無言だった。副長のシュレンナーでさえこちらを見向きもしない。
するとメットを外した、頬がこけていて眉の薄い兵士が、物言いたげな口を開きながら近づいて来た。背がベイクより少し高いのは面長のせいだろうか。
「あんた誰だよ」
「ベイクだ。メーケルの知り合いだよ」面長の男はベイクの側に立ち、彼を見定めるような様子で立ちはだかってきた。
「そんな事訊いてねえよ。どこのどういう者だって訊いてんだ」
「どこのどういうとは、どう答えたらいいのだろうか」ベイクはとぼけた。
「だから何であんたとこうしているのかって事が訊きてえんだよ」男はますます逆上していった。
シュレンナー副長は彼を止めもせずに小川を見つめていた。
「おい、バルック止めろ」黒髪で短髪の大男が止めに入る。実直そうで皆の中でも頭1つ背が高くて逞ましい体をしていた。
「何でお前に止めろと言われなきゃいけねえんだ。何かこいつを同行させるって感じ悪いぜ」バルックと呼ばれた男は舌打ちすると自分の馬の方へ歩いて行った。他の兵士は呆然とただ見ているだけだった。
「無礼を詫びる」止めに入った屈強な男はベイクに頭を垂れた。「私はエドガ。彼は頼りになる奴なんだが気分屋なところがあってな。すまない」
「いやいや。俺はベイクだ」
「ベイク。宜しくお願い致す」そう言うとエドガは辺りを見回そうと向こうへ歩いて行った。
「もう出発するぞ」シュレンナーが言った。
ベイクはため息をつく。
草原から両脇に森が迫る道を走り抜けると、幾重にも丘が連なる開けた場所に着き、やがて遙か向こうに赤い建物が見え始めた。
どれくらい昔から建っているのか分からないが、紅の神殿は周りの景色とは相入れないような鮮やかな朱色をしていて、信じられないくらいに経年劣化をしていないように感じた。近づいて見てみるとどうやら塗られてこの色になっているのではなく、積み上げられた石本来の色らしい。表面は極めて磨き上げられており、我々の教会のような建築方法ではなく、幅の広い石段を上ると太い柱が迫り出した屋根を支え、アーチ状の入り口がいくつも横に並んでいる。そして何よりとても背が高く、横に長い巨大な建物だった。
一同は突然現れる巨大な赤に畏怖し、目を奪われた。まるで人智を超えた何かを感じとり始めていたのだ。
8人は馬を側の灌木に繋ぎ、各々が歩いて神殿の石段を登り始めた。柱の裏側も、迫り出し屋根の裏も紅い。
たくさんあるアーチを抜けるとまた一間になっていた。皆はバラバラに中へ入っていく。中は薄暗いが左右にある細い窓から光が入り込んでいた。だだっ広い真っ赤な広間には何もない、ように思った。
「おい」バルックが言った。
「なんだ。どうした?」シュレンナー副長が言った。
「副長、あそこに人が死んでますぜ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます