ラウンド9  電話

 その日の夜は全然眠れなかった。


 明日の試合のことを考えると、体が震える。

 

 自分で出場しといて、ホントはすごく怖かった。


 リングの上では先輩は助けてくれない。


 全部、私がなんとかしなくちゃいけない。


 そう、分かっていてもやっぱり怖くて、夜の11時、私は先輩に電話してしまった。


 先輩「…どうした、こんな時間に」


 私 「あ、すみません先輩…その…眠れなくて…」


 先輩 「なんだそりゃ」


 電話越しに先輩が笑う。


 だけど、なんだかそれだけで、少しだけ気持ちが楽になったような気がした。


 私も、小さく笑う。


 そして、無意識に私の口は動いていた。


 私 「先輩、今から会えますか?」


 先輩「え?」


 私 「あ…」


 思わず、ハッとする。


 どう考えてもこんな時間に先輩を、呼び出すのは迷惑だ。


 慌てて、言葉を返した。


 私「あ、いえ、その無理はしなくていいんです! てか、無理ですよね? あははー…それじゃ明日3時なんて、来てくださいねー!」


 と、無理やり電話を切ろうとした瞬間。


 先輩「仕方ねーな。ま、俺も眠れないし会おうぜ」


 私 「そうですよね…って、え?」


 先輩「えってなんだよ…お前から言っといて。 とりあえずお前の家の前の公園でいいか?」


 私 「あ、はい…お願いします…」


 先輩「おう、そんじゃすぐ行くから」


 プツリと切れる。


 そうして私は、慌てて外に飛び出したのでした。


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る