ラウンド5 寝技

 その日は、屋上ではなく、旧武道場だった。


 アオイ「あ、せーんぱい、来てくれたんですね」


 桜井 「まぁ、毎日教室に来て、誤解させるようなことばかり言ってたらな…」


 アオイ「えー、私は事実を言ってるだけなんですけどねー」


 クスクスと笑うアオイに思わずため息が出た。


 桜井 「そんで、なんで今日はここなんだよ」


 アオイ「お、いい質問です! …それはですね…んしょっ…」


 ボタンを外し、ワイシャツを脱ぎ始める。


 その下が体操服と分かっていても、思わず目を逸らしてしまった。


 桜井 「お前…少しは考えろって」


 アオイ「ん? なんですか?」


 にこりと笑う。


 完璧に分かってやってるなこいつ…。


 アオイ「それでですね、今日は寝技の練習に付き合ってもらいます!」


 …。


 は?


 桜井 「ちょっと待て、今、寝技っつたかお前」


 アオイ「はい! 寝技の練習です!」


 アオイと寝技の練習…


 女の子と寝技…


 ……。


 …いや、ダメだろ。


 桜井 「却下」


 アオイ「えー!なんでですか?」


 桜井 「いや落ち着け、冷静になれ? 男と女だぜ? 」


 アオイ「はい、でも格闘技ですよね?」


 桜井 「…確かに、そうなんだけど…」


 あぁー!もう!


 たぶんアオイと組み合って、その体を意識せずにはいられれない。

 

 てか、無理だ。意識しないなんて無理!


 すると、アオイはニヤリと嫌な笑い方をして挑発してきた。


 アオイ「あ、もしかして、なんかそう言うイケナイことしてる感じしてますか?」


 桜井 「ち、違う!」


 ふふっと笑いアオイはこちらに歩み寄る。


 そして目の前まで来ると小声でこう言った。


 アオイ「女の子の体に触れていいのは、こう言う時だけですからね?」


 その瞬間、素早く足元を腕で固めて、そのまま床に倒す。


 完璧なタイミングだった。


 アオイ「にひひー、せーんぱい♡ わたし上得意なんですよ」

 

 お腹の上に乗って怪しく笑うアオイ。

 

 それを振り落とすために俺は、腰を思いっきり突き上げる。


 ぼんとお腹の上でアオイが跳ねた。


 アオイ「や、ん…せ、先輩激しい…」


 桜井 「うるせぇー!変な声出すなあ!」


 あぁ…やばい…何がとは言わないけど、たってきた…。


 そしてアオイも振り落とされないように、俺の首元は腕を回し、ガッチリと体を密着させる。


 だけど、その時気づいてしまった。


 こいつ、着けてない!


 アオイ「…先輩、動き止めちゃってどうしたんですか? あと、顔真っ赤ですよ。」


 アオイの顔が目の前にある。


 あと少しすれば、キスできてしまうぐらい近くに。


 桜井 「…あ、」


 アオイ「あ?」


 桜井 「あぁぁぁー!」


 声を荒げる。


 そして力の限りアオイの体を押し上げると、突き飛ばすように離れる。


 桜井 「お前、ブラぐらい着けろ!」


 アオイ「えー、だって邪魔なんですよ、あれ…それに」


 アオイはクスりと笑う。


 そして、人差し指を口元に持ってくると小さな声で言った。


 アオイ「先輩なら、いいかなって」


 そのいたずらな笑みに、思わず見惚れる。


 もう、その日は殆ど頭が動かなかった。


 


 

 


 

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