ラウンド4 焼肉

 ?「せーんぱい、お腹すきましたね」


 汗をタオルで拭きながらそう言ったのは、高校の後輩にして格闘家、アオイだ。


 スポーツドリンクを飲み干すと、俺も口を開いた。


 桜井 「あぁ、確かに腹減ったな」


 アオイ「先輩もですか? …なら」


 桜井 「ん? どうした?」


 アオイ「今日一緒にご飯行きませんか?」


 アオイは面白そうに微笑んだ。



 

 桜井 「へぇー、こんな店知ってたんだな」


 そこは学校から程よく近い個人経営の焼肉店だった。


 店には常連と見られる客が数人いて、店主さんと楽しそうに話している。


 アオイ「はい、私よくここにくるんですよ、おすすめはホルモンですね」


 桜井 「へぇー、そんじゃ、注文お願いしまーす」


 店主 「はいよー!ってアオちゃんじゃないの!? 今日は彼氏さんと来たのかい?」


 その質問に一瞬ビクリとすると一瞬俺の方を見て、あはは。と笑った。


 アオイ「違いますよーおとーさん。この人、私の学校の先輩で…」


 店主 「あぁ、そうかい、こりゃ悪いことしちゃったね」


 アオイ「気にしてないですよー、あ、ホルモン2人前とカルビ2人前お願いします」


 店主 「はいよー!ちょっと待っててねアオちゃん」


 そう言って気前よくカウンターの方へ消えて行く店主。


 一方アオイは、表情を少し曇らせた。


 桜井 「今日はってことはいつもは違う人と来てんの?」


 アオイ「あー…そうじゃなくて…」


 あはは…と申し訳なさそうに笑うと、顔を下へ向ける。


 ボソリと呟いた。


 アオイ「…いつもは…1人なんですよ」


 桜井 「…へー、」


 アオイ「だって、女子が焼肉好きっておっさん臭くないですか…それに格闘技やってることも周りには言ってないんですよ…なんて言うかズレてるって思われたくなくて…」


 いつも無邪気に笑うアオイの意外な一面だった。


 アオイ「だから、先輩しかいなくって…」


 桜井 「お前さ、気にしすぎなんだよ」


 アオイ「え?」


 驚いたような表情で顔を上げるアオイに俺は続けた。


 桜井 「だから気にしすぎたって言ってんの、案外焼肉好きな女の子だって意外といるぞ? それに、疲れるだろ、そう言うの」


 アオイ「…うん」


 コクリとうなずくアオイ。俺はアオイの頭に手を置いた。


 桜井 「あと、お前はかわいいんだからもっと自信持ってけって。」


 その言葉を聞くとアオイは恥ずかしそうに顔を伏せる。


 ほんのりと頬を赤く染めながら。


 桜井 「ギャップ萌えって知ってるか? ちっちゃくて可愛いお前が焼肉好きとか、実は格闘技やってますとか、男ならイチコロだな」


 アオイ「…先輩も…ですか?」


 桜井 「…え?」


 アオイ「だから、先輩も…その…萌えますか?」


 思わぬ角度からのカウンターだった。


 だけど、恥ずかしそうに上目遣いで、伺うような視線を向けるアオイのその様子は、まるで乙女のようで…なんて言うか可愛かった。


 桜井 「…えっとー…」


 店主 「はーいお待ちどー様!ホルモンとカルビ2人前ね!」


 そのタイミングで肉が届いて、正直に救われたと思った。

 


 




 

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