ラウンド3 スパーリング

 放課後、俺は言われた通り屋上へ向かった。


 アオイ「あ〜来てくれたんですね! せーんぱい♡」


 桜井 「あぁ、ボコボコにしてやんよ、あ?」


 アオイ「やーん桜井先輩こわ〜い。まぁ、せいぜいやってみてくださいね」


 っち、と舌打ちをしてリュックを下ろす。


 チャックを開けると、底からグローブを、取り出した。


 桜井 「いつも通りでいいな?」


 アオイ「はい! それじゃ先輩、今日もいーっぱい(練習)しましょうね?」


 スマホのタイマーが鳴る。

 

 お互いに顎を引いて見つめ合った。



 俺とアオイ。2人は構え方が大きく違っていた。


 俺はガードは固めず、フリーな状態からパンチを打ち出すアウトファイター。


 一方、小柄なアオイはガードをしっかりと固めたインファイタースタイルだ。


 ジャブを打つとさっそく弾かれて、左フックが飛んでくる。


 顔スレスレを左拳が抜けて行く。


 桜井 「っと、そのカウンター、まじて凶器的だよな」


 アオイ「ん?当たり前じゃないですか〜。先輩を一発でイカせてあげますからっ!」


 ヒョイっとアオイが一瞬視界から消える。


 そして、視覚外からのパンチが俺の顔を捉えた。


 一瞬、視界がグニャリと歪んだ。


 ゴンっとまるでその体格差を感じさせないぐらいパンチが重い。


 桜井 「っく…」


 アオイ「あれー? もしかしてイキそうなんですか? 我慢しなくてもいいんです…んっ!」


 ジャブがヒットして、アオイのガードが下がる。


 つかさずボディーブローを、たたき込んだ。


 アオイ「んっ…うっ…」


 喘ぐようにお腹を抑えて後退するアオイ、その顔は酷く痛みで歪んでいた。


 桜井 「わりぃ、力入れすぎた…大丈夫か?」


 アオイ「まだ…行けます…」


 …嘘だ。


 辛うじて呼吸はできているが、確実に肺にまで空気が達してない。


 そしてついに、アオイはその場に蹲ってしまった。


 桜井 「って、無茶すんなって」


 慌ててアオイに駆け寄ると、背中を優しくさする。


 ブラジャーの紐らしき感覚が手に当たって、思わずドキリとしてしまった。


 アオイ「あはは…やっぱり先輩、つよいですね」


 桜井 「いいから、ほら立てるか」


 アオイ「ちょっと無理っぽいんで、先輩お願いします」


 そう言って仰向けになるアオイ。体操服の裾から覗かせていた白いお腹に、思わずハラハラする。


 まぁ、仕方ないか。


 ため息を吐いて、グローブを取るとアオイの首元と膝に手をかける。


 そのまま持ち上げて、お暇さま抱っこみたいにアオイを持ち上げた。


 アオイ「えへへ〜、先輩にお姫様抱っこされてるー」


 桜井 「いいからゆっくり呼吸しろよ、たぶん楽になるから」


 アオイ「はーい」


 そして、建物の日陰まで運ぶと、いつの間にか寝息をスースー立てていた。


 たぶん気絶に近い睡眠なのだろう。こういう時は寝かせてあげるのが1番だ。


 膝の上にアオイの頭を乗せる。


 桜井「…ほんとに、眠ってりゃ可愛いんだけどな…」

 

 無防備で、無邪気なアオイの寝顔は、本当に可愛かった。

 

 

 




 


 



 

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