第五話 出会いと目的

助けて、助けて、誰かゴブリンが――


「はぁ……はぁ……」

「起きたか……うなされてたが大丈夫か」


 男が心配そうな顔で俺を覗いてる。

 ここは部屋? ベッドっで寝てたのか。この人は。


「あの……貴方は」

「……あー、俺の名前はリベルタスだ。フォボスの町で冒険者をしているんだが。ゴブリンに襲われているところを助けたんだよ」


  リベルタス、栗毛で少しくせ毛のついた髪にゲームにありそうな茶色の鎧を着ている。年齢は多分俺より年上だと思う、身長は俺より高い180以上あるな。


「……で、君は」

「えっと俺は勇樹 玲夜ゆうき れいやです。漢字は勇ましい樹に玲瓏の玲に夜です。……あの、ありがとうございます」

「礼はいいよ。勇樹玲夜か、気軽にレイヤって呼んでいいか」

「えっと、いいですけどあの、服は……」


 自分の姿を見ながらたずねる。素っ裸で寝ていたせいかくしゃみが出てしまった。


「あー服は今洗ってるからないな俺の着ててくれ。持ち物は机の上に置いてある。あのスマホと紐のついた指輪しか持ってなかったが」

「指輪ッ――」


 俺は机の上に置いてっあった指輪を取り、欠けてないか確かめ首にかけた。姉貴にしては珍しく花柄のはいった指輪で大層気に入ってた物だああ。どんな時でも首に掛けておけときつく言われてる。指輪を壊したと知られたらどうなるか分かったものじゃない。


 安堵の息を漏らしながらその隣を見るとスマホが置いてあった。こっちは画面がヒビだらけで電源を入れても入らない。


「で、なぜあの森林に居たんだ。武器も持たず人里から離れたら危険だということくらい知ってるだろ」


 急に声のトーンが変わった。顔も険しくなった怒ってる。本当の事話して信じてをもらえるといいんだけど。


「……すみません、気づいたらあそこにいて……あの僕、この世界の人じゃなくて地球の日本という場所からここに連れてこられたんです」

「……この世界じゃない……穴落ちか」

「穴落ち?」

「穴落ちってのは空に黒い穴ができて物なんかが落ちてくるんだが。時々人が落ちてくると聞いたことが有る」


 なんだそのファンタジー感溢れる絵面は、想像しただけで吹きそうになった。アイツがこの世界に来てしまったのは穴落ちってやつなのか。


「いや、多分違うと思います、白い化け物に連れてこられたので」

「じゃあ、召喚か? でも……」

「どうしたんですか?」

「あー、大した事じゃないんだ、異界から召喚なんて勇者の伝説みたいだなと思って」

「勇者の伝説って前にも召喚された人がいたんですか!」


 思わず身を乗り出してしまった。


「落ち着け、勇者の伝説ってのは昔話みたいなものだ。その話の初代勇者も白い仮面の物に呼ばれてこの世界に来たという話だ」

「そ、そうですか……」

「その……なんかすまんな」

「いやこちらこそ迷惑を掛けてしまって」

「いやいいって。腹減ってるだろメシ貰ってくるから……食べるだろ?」

「あっ、はい」


 出てきたご飯はパンとスープだった。パンは固く食べにくかったがスープを付けて食べた。スープは野菜スープ的なものだが味はほとんどしなかった。だが疲れた体を底から暖めてくれる味かした。

 その後は寒くて布団にくるまってたらいつの間にか寝てしまった。




 朝起きて目を開けると、リベルタスさんが椅子に座っていた。


「えっと……おはようございます」

「おはよう、レイヤ」

「俺は仕事の依頼に出るから、ここら辺なら散歩していてもいいけど余り遠くに行くなよ」


 依頼? そう言えば冒険者って言ってたけ。なんの依頼なんだろうか、気になるし後で聞いてみるか。


『……おはようございます』

「お前ずっと黙ってたけどどうしたんだ?」

『寝ていました。闘気感知と魔力感知というスキルを使って、急に眠気が襲ってきたので』


 スキル? 闘気? 魔力? 漫画なんかであるエネルギー的なものであってるのか。いつそんなの使ったんだ?。


「スキルってのは何だ」

『スキルは自分自身が持っている力を分かりやすいかたちに表したものですよ』

「へー。闘気や魔力は?」

『闘気は生命が元々持っているエネルギーのことで、魔力も似たようなものだが与えられたエネルギーって感じですね。魔力は大気中の魔素を体内で変換してるので。隠れてる魔物がゴブリンだと分かったはこの二つのスキルのおかげです』

『良かったら教えますが……必要なスキルなると思いますし』


 必要なスキル? 教えてくれるならいいけど。でもスキルか……ファンタジー感がしていいな。


「いったい使えるようになるまで何週間かかるんだ?」

『スキルを収得するのは早いですよ、使えるようになるには時間が掛かりますが』

『まぁ、さっそく魔力を流します』

「えっ今すぐするのか」

『習うより慣れろです……今から貴方の体内の魔力を動かすから感じて下さい』


 うっ、静電気が起きた感じがした。身体中がビリビリと電気が走ってる感じだ。でも与えられた力ってのが何となくだが分かる気がする。体外から何か流れ込んでくる。これが魔力なのか?!


 《スキル『魔力感知』を収得しました》


 脳内に女性とも男性とも似つかない声が響いた。この声……あの時の意味の分からない言葉を言ってた奴と同じ声だ。

 魔力感知って言ってたし、なんかゲームみたいだ。


「スキル取れたよ」

『そのようですね。じゃぁ次は闘気です。魔力同じようにするので⋯⋯』


 ぐぅっ、こっちは熱い。あの時と似た感じ。なんか……頭がボーッとしてきた意識が……


 《スキル『闘気感知』を取得しました》



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



『……て…………』

『早く、起きてください』


 また同じだ。この声……アイツか。こう何度も同じ事が起きると何だかあれだな。てかここは? 周囲を見渡しても濁った虹色の空間……なんか汚い。真上に何か淡い緑っぽいものが浮かんでる。


『こんな所まで来てしまったのですか』

「……この声、お前はアイツか!」

『そう俺はアイツです』


 なんかムカつく。声が笑ってる、目の前にアイツの笑った顔が見えそうなくらいだ。絶対馬鹿にしている。


『……済みません、そんなにムスッとしないでください。あと俺のことは歩世と呼んで下さい、お前とかアイツじゃ親しみが湧きませんから』

「……分かった、これから歩世って呼ぶよ」

『はい、俺も玲夜って呼ぶことにします』

「いいけど。聞きたいことがあるんだ」

『はい? 聞きたいことですか。答えられる範囲なら何でも聞いてください』

「遠慮なく質問するよ……ずっと気になってたんだ。俺の体に取り憑くのってスキルだろ、何で俺の体に取り憑いたんだ、俺の体に取り憑いてまでなにかしたいことでもあるのか」


 ずっと気になっていた。アイツは一度死んでる、そしてスキルを使ってこの世界にいる。スキルを使ってまでこの世界にいようとした? いや地球に行こうとしたのか。アイツには地球になにか未練があるんじゃないか。この世界に未練ががあるならこの世界の人に取り付けばいいんだし、態々地球へ来る必要がない。


『うん質問に答えましょう。まず貴方に取り憑いたのは穴落ちは知ってますよね。穴落ちの逆バージョンです。最初はこの世界の人に取り憑こうとしたけど黒穴のせいで地球に跳ばされて……憑依体質とでも言うのかな、君は取り憑きやすかったので』


 穴落ち……逆もあるのか。やっぱりなにか未練がある地球じゃなくてこの世界に。


『未練と言うか成し遂げなければならない事があります、大切な人との約束なんで。その為にも玲夜、貴方の体から放れなけばなりません』

「放れる……そんな事出来るのか?」

『取り憑くのはスキルですから取り放す事も可能です。まぁ憑霊石ってのが必要なんですが……』

「憑霊石ってのがあれば取り放す事が出来るんだな」

『出来ます……時間のようです。じゃぁ……今度会う時はもっと楽しい話をしましょう』


 そうだな、せっかく顔を合わせれるんだから。……顔? でいいのか。憑霊石については……後で聞けばいいか。少しづつ意識が薄らいできた。








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