第ニ話 終わりのプロローグ

深い森の入り口、そこに佇む古びた建物を眺め女性は瞳を閉じた。


「「お待ちしておりました。聖女様」」


 若い女性の声がして瞳を開くと白を基調とした修道服を着たシスターが礼をしていた。


「ごめんなさい。鳥の声が心地良くて、ついうっとりとしてしまいましたわ。……もうすぐ夏なのね」

「聖女様。勇者召喚の儀式は整っております」


 問いかけても返答はなく事務的な会話しかしない。それを見てか女性は小さく溜息をつくと神殿の奥へと歩いて行くシスターの後ろをついていった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 男は冒険者ギルドの前で髪形を無造作に整え扉を開けた。ギルドの中は朝だからなのか人でにぎわいを見せている。


「おい聞いたかよ~。またマグノリア教国で勇者が召喚されたらしいぜ」

「ああ、一月前だろ」

「まったく懲りてねえな、ヒック」

「二か月前の事件で学ばなかったのか」


 依頼を受けるため朝っぱらから酒を酌み交わす冒険者の間を縫いカウンターへ向かった。


「よっ、エマちゃん。何かいい依頼ある」

「おはようございますリベルタスさん。……そうですねー護衛の依頼なんてどうでしょう」


 カウンターにもたれかかり受付嬢のもつ依頼書を見る。


 内容は高級娼婦の王都までの護衛、報酬は金貨一枚。内容にしては旨い依頼だがこの町周辺で済ませれる依頼が良いんだよな。


「他の依頼はないか」

「エッリベルタスさんが好きな依頼なのに」


 依頼を断ると瞳孔を開き驚かれた。普段からどう思われてるんだよ俺。


「まぁ高級娼婦みたいな儚く美しい女性もありだけど、強かで清らかな女性の方が好みだからな。どう俺を夜の護衛に依頼してみないかな」

「生理的に無理。あとカウンターごしじゃお尻は触れませんよ」

「あっバレちゃってた」


 エマちゃん出るとこは出て締まってるとこは締まってるから抱き心地よさそうなんだけどな。無駄にガードが固い、押しても引いてもダメとなるとどうしたもんか。


「それならゴブリンの調査なんてどうですか。ここ最近ゴブリンをよく見かけると住民の方々から情報を――――」

「それは却下」


 調査依頼は二,三日町に戻れなくなるし風呂にも入ず眠らずに行動しなきゃいけない時がある、絶対受けたくない依頼ナンバーワンだ。


「てかエマちゃん俺を町から追い出そうとしてない」


 そう尋ねると俺から目を反らした。こそっと舌打ちもしたしビンゴだな⋯⋯悲しい。


「おっさん早くしろよ」


 後ろから声がして振り向くと長い列ができていた。声を掛けてきたのは茶髪の小僧か、見てくれは十五,六新い……いやGランクか。


「悪いな小僧もう少し待ってくれ。あと俺はおじさんじゃなくてお兄さんな」


 言い終わるとカウンターへ向きなおり良い依頼がないか聞き返した。どうでもよくねと後ろから声がしたが三十も過ぎれば結構大事なんだよこれ。


「もうこれで良いじゃないですか」


 無造作に投げ渡された依頼書にはレッドブルの討伐と書いてあった。場所は開拓地の村、走っていけば二時間で着く。


「これなら丁度いいな」

「ご依頼の受諾ありがとうございます。次にお待ちの方どうぞ此方へ」


 あれ? 勝手に依頼受けることになってない。


「突っ立てられると他の方の邪魔になりますので、あちらの席へ行かれては」


 マジかよ。あぁもういいや何とでもなれ。


 俺は頭を掻きながら冒険者ギルドを出て行った。

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