第20話 少女時代の終わり【改稿版2】
言葉通りに、愛された。
部屋に響くのは私の声だけ。
甘い声と、甘いため息。
体は痛くは無かったけれど。
心がすごく痛かった。
「人の魂に一番通じる欲はなんだと思うか?」
捕まれた両腕はびくともしなくて。
「これだ。愛し、愛されたいと思う心だ」
無数に散らばる紅い花。
「お前の魂をこちら側に繋ぎ止める為には、この体にその感覚を与えればいい」
確かに残る、熱の跡。
「……なん、で……何で……」
優しく撫でる陛下の手。
「お前を失いたくないからだ」
ラウールさんと同じ青い瞳。
幸せだけを感じていられた少女時代は、
あっけなく終わってしまった。
ふと、夜中に目が覚めて。
隣に陛下がいないことにほっとする。
自分の中に、強いなにかが在るのを知る。
それは確かに私を縛り付ける鎖だった。
窓から入る日の光が、目に刺さって痛かった。でもじっとしてるのもしょうに合わない。私は今日も窓枠に頬杖をついてガラスにおでこをくっつけると、じっと外の景色を見ていた。
『ユリエ、気を確かにね。もう次はないから。
『助けられなくてごめんなさい。わたし達精霊は “ 人の営み ” の瞬間だけは手が出せないの。ヒトにとっての聖域だから』
窓辺にだらんと寄りかかる私を二人の
その心使いが嬉しくて、私は精一杯の笑顔を返した。
「ありがとう。以外と平気だよ」
『『……ユリエ』』
二人が心配そうに私の顔を
(無理してはいない。ホントなんだよ)
「確かに寝不足なんだけどね」
その言葉に、アマラとイシュルゥナは私をたくさん抱き締めてくれた。
私も二人を抱きしめて、彼女達の優しさに顔を
(正直言って “ こんなもんか ” だったのよね。夢見ていた部分もあったけれども……何とまぁ、現実は
今、思い出しても体の芯が熱くなる。
それだけ、陛下は私を大切に思ってくれていたからだ。
(感覚的には初体験だったけれど。確かに悲しいことは、悲しいけれど。……でも……)
傷付いていると言うよりかは、びっくりの方が大きいのが現実だった。
何よりも陛下にそういう風に見られていたのかと知って、赤面している自分がいる。
私は頭を抱えて
自分の気持ちが迷子になっているのが、はっきりとわかってしまったからだ。
(どうしてだろう? 私はラウールさんの事が好きなのに?)
ラウールさんを思い出すだけで、嬉しくてドキドキするのに。
昨日の陛下の一つ残されたあの寂しそうな瞳を見たとたんに、締め付けられるような愛おしさを感じてしまった。
どうして? どうしてなんだろう?
ラウールさんが好きなのに
陛下のことも、好きなのかもしれない。
私は頭を振って答えのない、ループしている気持ちを追い出した。
今は、それよりも先に考えなければいけないことがある。
私は再度、窓枠に額をつけて目を
(昨日、陛下は確かに言ってた)
『不安定なお前』
『ラウールもまだ甘い』
『こちらに縛り付ける』
(今思えば、時々二人で何かよそよそしかった気さえする)
私は2人の精霊を
その2人も私の気持ちを受け取って、私の顔を見ては
(……何か、隠してるよね。それも二人で)
私は短い息を吐き、座っていたイスから立ち上がった。
(思い立ったら即行動! うじうじ悩み続ける位なら怒られても良い、気にしない!)
例えそれが許されない行為だとしても。
ラウールさんに会えば何かがわかる気がしたから。
それに今、
自分に寄り添う二人を交互に見て思っていることが全部筒抜けの、私の気持ちを改めて伝える。
「二人とも、手伝って」
(窓辺に立って、あの歌を)
そして、私は彼を呼ぶ。
水色の髪の精霊を。
「シェリダン。私をラウールさんの所に連れてって!」
私は外に浮かんで笑う彼に、そう告げた。
今度は彼の前の方で、つかまりながら安定飛行をしてもらった。
相変わらず風の勢いは殺しきれないけれどまだ呼吸が
シェリダンは不思議そうに私を目だけで見下ろして話し掛けてくる。
「その者に、何を聞く?」
私は答えることに構っていられなくて、もっと早くと急き立てる。
「私の何が不安定で、この鎖は何なのか! 私はホントの事を知りたい!」
私は彼の首にしがみついてシェリダンの耳元へ顔を近付けると精一杯の声で怒鳴る。風を切る音が物凄くて、耳が痛くてしょうがなかった。
(叫ばないと聞こえなさそう。自分の声さえわからないわ!)
涼しい顔をして飛ぶ彼は私の訴えを聞いた途端に見下ろして、何だそんな事かと答えた。
「お前の魂が不安定で、その鎖は今の器に魂を固定するためだ」
「………へ?」
驚いて目を丸くする私に、驚いて無言で私を見つめるシェリダン。
「お前は今、ひとつの魂でふたつの肉体を持っている」
何を言ってるのか理解できない私がシェリダンをじっと見続ける。すると戸惑った様な彼の顔が眉毛をたらして見下ろしてきた。
「お前が別の世界に置いてきた体が、活動を継続していることが原因だが……?」
――暗闇、暗闇、暗闇。――
呆れたような声が響く。
「
どこかで聞いたことがあるような、懐かしい声。
(やっぱりそうだったのね。陛下の魔術を破るなんて、並大抵の人じゃ出来ないもんね)
「そうでしょうね。それに王陛下の命令じゃあ、幻獣の私は従うしかないねぇ」
その言葉に少しだけ期待して私は一面の闇に問いかけた。
相変わらず、手足の感覚は全くない。
体もどこにあるのかわからないけれども。
けれど今は、声の主を感じられる。
(元の世界に帰れるの!?)
私の期待を含んだ声を聞いて、その声の主は
「見るだけと、
その言葉に胸の中を突かれたような感覚を感じて、私は無い声をふり絞るように自分の奥底にしまい込んだ思いを告げた。
(でも、……私は帰りたい)
「ダメ。今までの苦労を台無しになんてしたくない」
(……どういうコト?)
「全部、私が仕組んだ事だから。
神様の間違いでも悪戯でもない。
運命でも偶然でも必然ですらない
最初から、私が
――――言葉が聞こえる方が明るくなる。
そこに見えたのは………――――
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