第8話 未開発魔法班(デキソコナイ)?【改稿版2】
「凄い人混み! 一体どうして?」
あまりの賑わいに私は顔を上げて、前を行く人に問いかけた。
私がこの世界に来て約1ヶ月。
水の大国・レアルータ王国の首都タルシャワは、春が過ぎ
私達を乗せた馬車は、王宮の真正面にすべりこむ。それを降りると
私はあまりの
(初めて外に出た時はすぐにラウールさんのお城に行ったから、こんなにも人がいる所だとは思いもしなかったわ)
そんな私を鼻で笑ったラウールさんは馬車を降りる。後ろにこそこそ隠れてついていく私に振り向きもせずに、王宮前の長い階段を上がって行った。
心なしか、道行く人々がラウールさんの進む方向をあけている気がする。そんな気配に私は顔を隠しながらも、きょろきょろと辺りを盗み見た。
(さっきから、なんだか見られている気がするのだけど……)
ラウールさんはそんなまわりからの視線は気にせずに、前を向いたまま淡々と最初の質問に答えていた。
「この国は二つの川を中心に繁栄した。川にのって人も物も集まってくるから管理しやすい場所に
その短い説明の最中にも、いろんな人がすれ違い……あわよくば私の顔をのぞこうとしてる。
私は焦って、もっと深く顔を隠した。
まわりの人に私が
(ここまで来たんだから! 自分で決めたんでしょ!)
不安に押し潰されそうになりながらも私は見えない程度に顔をあげた。
目に飛び込んできたこの世界は、とてもキレイだった。
王宮は首都の中心に建てられていた。
市役所みたいな機能を持っているようで、様々な格好のたくさんの人が出入りしていた。
私は横目で彼らを見ながらもラウールさんの靴の後ろを追いかけて、下を向いて小さくなって後に続く。
「納得。じゃあこれからも隠れながらの出勤になるんだね? ……私、裏口から入ろうかなぁ」
私は深いため息をついた。
(私見た目が
と、心の中だけで抗議をする。
(そもそも
その思いにハッと気づき、ケープを握る手に力が入る。
(私って、アダンテのこと、ほとんど知らないんだ)
そんな私の心境をよそに意外そうな顔を浮かべて初めてラウールさんが振り返った。
「何でお前の為に遠回りしなければならない?」
……聞いた私がバカでした。
あの日以来の王宮の大広間に私は足を踏み入れた。
今日は窓が開け放たれていて、風も鳥も入ってくる。そのお陰でとても広いこの部屋も一定の涼しさを保っていた。
(もしかしたらこの涼しさも魔法なのかしら?)
と辺りを見渡すけど、やっぱり何も見えなかった。
その人は最初に見た時と全く変わらない笑顔で私達を待っていた。
「陛下~。お久しぶりです!」
私の軽いあいさつでカリカリしてるラウールさんを尻目に、私は寄ってきたみーちゃんを抱っこする。
私とラウールさんの態度の違いを、その人は頬杖をついて笑って見ていた。
「元気そうで何よりだ、ユリエ。どうだ、使い物になりそうか?」
イライラしているラウールさんを手で制しながら、明るく優しい声で私に話しかけてきた。どうやら陛下はスゴくおおらかな人らしく、私の態度を気にしていない様子だった。
というか、なんだか嬉しそうに笑ってさえいる。
私は
「はい、何とか! ラウールさんの所の女官長さんにご指導していただき、お陰様でちょっとずつ
私は笑ってみーちゃんを撫でる。
陛下は満足そうに
器用だわ。
「……まだその
陛下が非難めいた視線をラウールさんに送る。
それが、私の首もとを飾っているのだ。
私はここぞとばかりに陛下に告げ口をすることにした。
「だってラウールさんは全然私を信用してないですもん。まぁ、トーゼンでしょうけど。それか、この人のシュミかのどっちかだわ」
ラウールさんの殺気が強くなったけど、陛下が吹き出した事で私は救われる。
私はみーちゃんを下ろしたあと、ふん! とそっぽを向いた。
魔法庁の職員は王宮の直属、つまり公務員? になるらしい。
だから陛下の承認も必要になるんだって。
その儀式のために王宮の中の魔法庁に向かう前に陛下にこうして会いに来たの。
私は元の世界での念願だった超安定の就職を果たすのだ!
ただし、監視というオマケ付きだけどね。
「ではユリエ、こちらに来なさい」
ひとしきり笑った陛下は立ち上がり、手招きをして私を呼ぶ。
それに答えて、私は素直に陛下の近くに歩みよった。
陛下は私よりも頭二つぶん高く、体もがっちりとしていた。
シルバーグレーの髪の毛は、後ろに軽く流してある。
着ているものも、髪色に合わせた落ち着いた
(陛下とお父さんは似てないけれど。……お父さん、どうしてるかな?)
私はお父さんに会いたくなってしまった自分の気持ちを飲み込んで、女官長さんに習った通りに目を閉じて陛下の前に両膝をついて座り、両手を胸の前で組む。
それは神に祈りを捧げる姿。
「ユリエ、汝を今ここで魔法庁の一員に命ずる。そなたの魂、そなたの魔力、そなたの肉体、国の為に命をとして捧げるがよい」
陛下の声が、頭のなかに響いてくる。
不思議な感じ、額が熱い。
体の芯が熱を帯びて何かが駆け巡る。
「……ん? これでいいの?」
あまりにも呆気ないおしまいに、おでこをさすりながらその場に立ち上がり私はきょとんと陛下を見上げる。
私は特に何にも変わった感じもしない。
魔法とかある世界なら、何か派手な事がおこりそうな気がしたのも事実。
(なんだか、あっけないおしまいだわ)
そんな私の気持ちが伝わったのか、手を取り立つのを手伝ってくれた陛下は答えた。
「これでユリエも我が国の一員だな。
あまりにもさらっと言いながしているものだから、私はポカンと口を開けてかたまる。そして私は目を丸くして、
「!! 何それっ! サギじゃんっ! 派手すぎじゃん!!」
私は陛下を見上げながらも文句を垂れる。陛下も片眉を上げて苦笑しながら、私の両手をそっと外した。
「だから心配はしてはおらぬ。ただの形式的なものよ」
くしゃくしゃと頭を撫でられて、ますます私は膨れてしまう。
(だってそんなの聞いてないし! 聞いていたら全力でお断りをしたのに)
陛下と私で続く言い争いをしている中、唯一真面目なラウールさんは溜め息をはき二人に告げた。
「そろそろ就業時間がせまっています」
魔法庁に案内されてすぐに、私は副官さんに押し付けられてしまっていた。
これは私の一連の答えに、ラウールさんが激怒したからだ。
―――――――――――
陛「所でユリエ、
百「へ? いーですよ別に、サイラル城で。せっかく仲良くなれたから、私皆と離れたくないなぁ」
ラ「陛下、是非部屋をご用意下さい」
百「何よ、ラウールさん。なんでそんな意地悪すんのよ」
ラ「意地悪ではない。本心だ」
陛「お前達仲が良いのだな」
百・ラ
「「良くないです!」」
陛「ははは。まあ良いではないか、ラウール。ユリエもそう言っている事だし、引き続きそなたにユリエを預けよう」
百「わーい! ありがとう、陛下っ!」
ラ「…………」
―――――――――――
と、こんな感じだったような気がする。
副官さんはそんなことは気にする様子も無く、部署を案内するために私と一緒に魔法庁を歩いた。
「まぁアンタが見られるのは仕方がないんじゃない? 高官ってさ『誰の意見にも染まらないわ』っていう意味合いを込めてだいたい黒服なんだよね。その後ろを白服の新人がついて歩いてんだもん。フツーに気になるじゃん?」
「なるほど! だから見られていたのね。私がアダンテってばれた訳じゃ無かったんだ。よかったぁ」
私はその事実に、ほっと胸を撫で下ろした。
アダンテってばれていたんじゃないかと、ヒヤヒヤしていたから。
「……え? アダンテの顔? 知ってるやつは
そう言って、副官さんはケタケタと笑いはじめた。
歩くのも早いけど
私の質問に的確に答えてくれつつもしっかり案内も行う副官さんの後ろを、遅れないように私も必死で付いていく。
長い廊下をスタスタ歩きながら扉に向かって、指差しながら部屋の名前をあげていく。
(この人は陽気な
と顔を見上げながら感心していた。
通常、男性が裾の長いローブ。
女性が小回りのきく短めのケープだけど、上に申請すれば好きな方を選べること。
休みはてんでバラバラで、これも申請さえすれば決まった日数まである程度好きに取れること、お給料とかその他
色んな事を教えてくれた。
「んで、魔法生物課の水生班・陸生班・空生班。目印は紺色のローブね。その隣は、魔法植物課の樹木班・
じゃーん!! と、副官さんは笑いながら扉を開けた。
その
開かれた両手と扉の先は、カオス!
ローブの色も赤、青、黄色、紫と混ざりあって目がチカチカする。
本やら杖やら何やらが、ごちゃごちゃのごっちゃごちゃ!
その中央のかろうじて通れるところを副官さんの後に付いていく。そっと歩かないと、そこかしこで雪崩が起きそうだった。
皆、
恐怖の目、怒りの目、無関心と興味の目。
私も負けるもんかと胸を張った。
……あんまり張りすぎると白いケープの留め具が外れそうになる。
歩きながらも副官さんは指差しつつ、抜かり無く説明を挟む。
「
扉を開けられるのと同時に背中を押され、私はぽいっと放り込まれた。
そこは半分が書庫の薄暗い部屋だった。
しかも
「あ~。君がアダンテの肉体に転生した人ですか~?」
「ぅわっ!」
本の山がしゃべったと思ってびっくりしてたら、そこから人がひょっこり出てきた。目尻の下がった、優しそうなおじさんだ。
白、じゃなく、クリーム色? のローブについたホコリをパタパタ落として歩いてくる。
優しい、流れるようなテノールの持ち主。
「僕は未開発魔法班の班長のダグラスです。嬉しいよ、優秀な君がうちに来てくれるなんて~」
エヘヘ、と笑いながら握手を求めてくる。
「ユリエです。よろしくお願いします。あの……他の人は?」
私はホッと胸を撫で下ろして、自分の上司になる人に聞く。
握手しながらダグラス班長がちらりと別の本の山を見ている。そこには2人の少女の山……じゃなくて顔。
しっかりと怖がってくれている。
「お下げ髪の子がパパルナ君、土と水が特級だ。隣の子がミャーシェン君、全てが上級クラスの特殊な子でね。僕は一応賢者だよ。風と火のダブルマスターでね。まぁ長官には劣るけどもねぇ」
握手してない反対側の方で、笑いながら薄くなった髪の毛をかく。
そこへ扉を開けて賑やかな声が飛び込んで来た。
「んもー! 信じらんないっ! 何で雑用なんか引き受けんのよっ!」
胸の谷間がみえみえのキレイなおねーさんが、隣の人を叩きながら足早に歩いてくる。
「いや、引き受けっつーか、押し付けられたっつーか……」
体も声も大きい荷物を抱えたおにーさんは、叩かれても微動だにせずのそのそ歩く。
そして私を見たとたんに固まる二人を見て、私も笑顔が固まった。
(……アダンテ恐るべし)
コホン、と班長が軽く咳払いをした。
「彼女が副班のシェーリーン君。土のマスタークラスだよ。で、隣の彼はランドウェイ君、火と風と水が特級クラス。以上の五名だよ」
気を取り直して、私は彼らを前にペコリと頭を下げた。
「私はユリエです。今日付けで未開発魔法班に配属されました。よろしくお願いします!!」
そんな私を見て、班長以外がじりじりと
「……で? そのアダンテの
シェーリーンが口元をひくひくさせながら、隣のおにーさんにしがみつきながら聞いてくる。
その言葉を聞いた私は、腕を組んで斜め上を向いて考えた。
私は家では超多忙の両親に代わり、好きだったこともあって家事全般を担当していました。
「まず、やらなければいけないことは――」
私は人差し指を、自分の顔の前に立てた。
その答えに全員が、絶句する。
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