第2話 エンドロールのその先へ【改稿版2】
言葉の最後が、不安と緊張でひっくり返った。それにつられて周りの人達もいっそう騒がしくなってくる。
(……落ち着かなくちゃ)
跳ねまくる心臓を押さえるために、上から胸を押さえつけて目を
(
ただ胸が痛いほど脈打っているのが、押さえた手から伝わってくる。
それがやけに生々しい。
(たとえ私が『アダンテ』って呼ばれる魔女になっているとしても。今が
(一瞬で静かになるの!?……どこの世界でも権力ってすごい)
と、口をポカンと開けてつい感心して見いってしまう。
そんな私の反応に、陛下が笑って質問を投げ掛けて来た。
むしろ何だか、面白がっているような気さえする。
「ユリエ。お前が目覚める前に何があったのか、申してみよ」
「目覚める前?? えーと……」
今思い出さなきゃ、何だかややこしくなりそうな気がする。
私は無意識に焦りはじめた。
私はみーちゃんを抱いたまま、その柔らかな毛並みに顔を埋めて、必死で直前の出来事を思い出すために頭の中をぐるぐるとさまよう。
その瞬間。
焦っていた記憶が、今の私と結び付いた。
私は息をきらしながら、風をきって走っていた。
夕方、と言っても春先はまだまだ日の入りが早く、辺りはもう薄暗くなっていた。そんな中で私は全速力で小学校へと続く葉桜並木を駆け抜けていた。
スカートがひるがえって、今にも見えそう。それすらもお構いなしで、私は半泣きで先へと急ぐ。
「
今朝出したオール就職の進路希望用紙が「大学へ行くべきだ! 」と先生の熱血スイッチを押したのだ。
(無理矢理話を切り上げたのは良いけれど、きっと明日もこのスイッチは入りっぱなしよねぇ)
と、職員室に残してきた先生の興奮する姿を思い出しては、走りながらも頭を抱えて、一人
めんどくさ……い訳じゃなくて、進学に使えるお金は残念ながら家には残って無い。
何よりも、早く自分で稼げるようにもなりたかった。
佑樹が寂しがっているのを、我慢してるのを知っていたから。
少しでも両親に楽をさせてあげたかった。
自分で選んで決めた未来だから。
後悔なんて? どこにもない。
「なぁーのぉーにぃー!!」
走りながらも確認のため学生鞄の中からスマホを取り出すと、その時計は 『17:18』を知らせていた。
私はその画面の数字に、ビックリして目を丸くする。
学童に
一人寂しく机に向かって宿題をする
弟を悲しませるのは嫌だった。
私も悲しくなってしまうし、悲しい顔を見るのは何よりもつらい。
――と、手に持つスマホが光るのに気付く。
慌てて立ち止まり、急ぎその着信に出た。
「ん!? 非通知! 誰よもうっ! もしもし? もしもーっし!!」
そこでいきなり
そうしていきなり目の前が光って……。
気づいたら、ここにいたのだ。
そこまで思い出した出来事を、身振り手振りで説明していく。
「私は
私はみーちゃんを腕に抱えて、陛下に訴えかけた。
「陛下は、夢から覚める方法とか、知らないですか?」
私の小首を
私が肩をすくめて顔をしかめていると、おじーちゃんズの一人が曲がった背中をそのままに、ゆっくりとした足取りで陛下の元に歩み寄る。
皆が、そのおじーちゃんの言葉に耳を傾けた。
「国王陛下、これは吉兆ですぞ。清らかなる魂が
にこにこと話すおじーちゃんの言葉に陛下は
「
静かに話すこの人の言葉は、まわりの人達を妙に納得させてしまう。
「……ラウール」
そんな人に話し掛けられた青い目の青年が、
「この者をお前に預けよう」
その言葉に思わず私とラウールと呼ばれた青年は振り返り一瞬、見つめ合う。
が。
「陛下、すぐに処刑すべきです。魂は違えども肉体はアダンテそのもの。国民の不安を
その言葉を筆頭に次々と反対意見を口にして、陛下に詰め寄っていく人々。その人々の慌てように、よっぽどこの人凄いことしたんだろうなぁと
「しかし、余はこのザマだ」
ある程度まわりの言葉を受け止めたあと、苦笑を浮かべて陛下が右目を指で押さえるのが見えた。
それを見た他の人々も、一様に落ち込んで元の位置に戻っていった。
陛下の右目には、
その片方だけの瞳に見つめられて私は息をのんだ。
すごく綺麗な青い目なのに。
片方隠れていることが、
より一層に、もう片方を光らせている。
静かになった頃、陛下は私を見てから周りの人々を見渡して言う。
「彼女は
ブレスレット、と言う言葉に私は自分の腕を見下ろした。石って事はこの緑の柿の種の事だろうか。
(私、というか
少し、しょんぼりとして口を
私は再び視線を陛下に戻すと、陛下も
「簡単に処刑するよりも彼女の力を有効活用した方がこの国のためにはなるだろう。現在、アダンテとの大戦により国力はずいぶん落ち込んでもいる。……ユリエ」
陛下は真剣な眼差しで私を見て問い、
私はたたずまいを直して答えた。
「余はお前を信じよう。これが夢というのなら覚めるように最善を尽くそう。そのかわり、それまではアダンテの魔力を我が国の為に使い、力を尽くすと誓ってくれまいか?」
私はその言葉に目を見開いて、答えに詰まって
どうやら……アダンテって人はゲームでいう “ ラスボス ” にあたる人らしい。
(ならばここは、エンディングの後の世界ってこと?)
――エンドロールの先の、未知の物語――
私の迷いに気がついたのか、みーちゃんが私の鼻先にスンスンと鼻をつけてきた。まるで心配するなというように。
私は目を閉じて、その温かい体を抱き締めた。
(そうだよね。
今は戻る方法もわからないんだから。
悩んでいたって仕方がない。
夢の中でも、死ぬのは、イヤだし)
「お引き受けします!! 」
私はキッと顔を上げて皆に聞こえるように、ゆっくりとその言葉を口にした。
近くでラウールさんが小さくため息をついたのが聞こえる。そのため息を聞いたとたんに、思わずムッとして唇を
何でだろ。この人のやることなすこといちいち気になる。
私の答えに陛下だけは満足そうに笑い、他の臣下達の意見に答えていた。
「ではさっそく頼むとしよう、サフィーナ。
……サフィーナ? ……みーちゃん??」
陛下の呼び掛けにみーちゃんは背伸びをしながら『にゃふー』とアクビをしたのだった。
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