裏・本編1「色々と言い訳の多い異世界ファンタジー」




「あっ、あっ……あ?」


 グレーの髪色をした青年が、広いベッドの上で悶えついでに目を覚ました。

 その瞳は蒼く、ツンとした鼻筋とシャープな顎先が精悍な顔立ちを作り上げている。年の頃は、十八、九ぐらいだろう。尖った耳は随分と特徴的な形をしていた。 


「あれ?」


 青年は横たわったまま、寝ぼけ眼で周囲を確かめるように首を振った。


「おはよっ」


 その声と同時、青年の身体に載っている白色の毛布が内側から盛り上がる。姿を現したのは、見事なまでに豊満な体つきをしている金髪の女性だった。

 胸元の開いた赤色のセーターがその身体に張り付き、大きな胸の形をくっきりと浮かび上がらせている。

 また衣服の隙間から覗く色白の肌には、微かに汗が滲んでいた。

 その頬は赤く、僅かに息が乱れている。半裸の青年を見下ろす瞳は、蒼色に濡れていた。


「気持ちよかった?」

 

 毛布の内側でなにをしていたのか、金髪の女性は青年の膝下あたりに跨がっている。

 黒の下着しか身につけていないその下半身は、大人の魅力を見せつけるかのように弾けんばかりの肉付きをしていた。

 女はニコニコと笑みを浮かべながら青年を見下ろす。厚い唇はシットリと濡れていた。不意にその喉元がゴクリと音を鳴らす。

 おそらく毛布の内側で青年の足をマッサージしていて喉が乾いてしまったに違いない。そうだ。きっとそうだ。


「変な夢を見たと思ったら、母さんか。力が抜けちゃったよ」


 外見では同年の様にも見えるその女性を、青年は母と呼んだ。


「どんな夢?」


 女はそういって、濡れた唇を指先で艶めかしく拭う。


「母さんが、出てきたよ」


 青年は爽やかな笑みを浮かべた。


「正夢かな?」

「だいたい合ってる。もっと激しかったけど」


 ベッドの上で蒼い目を見合わせて、二人は笑った。母と子。なんとも爽やかな光景である。


「でも俺、変な事しなかった?」


 横たわったまま、青年が訊いた。


「なにをされても、あなたが気持ち良かったなら、嬉しい」

「でも、母さんが嫌がる事はしたくないんだ」

「あなたが言ったのよ。こうやって起こされたいって。今まで何度もやってるでしょ?」

「いや、夢の中でさ、ちょっと母さんに酷いことしちゃったから」

「そう……じゃあ今度、試してみる?」


 金髪の女は、可愛げに首を傾げて訊いた。

 青年は嬉しそうに蒼色の目を瞬かせる。


「いいの?」

「何度も言ってるけど、あなたが喜んでくれるなら、なにをされても嬉しいの。今更遠慮なんてしないで。少し寂しい」

「じゃ、じゃあ、今度お願いするよ。二人の時に」

「うん、いつでもいいよ。さて、じゃあ、そろそろ起きなさい。今日は王都に向けて出発する日なんだから」


 女は急に母親らしいことを口走った。

 その言葉に青年は、少し困ったような目線を左右に走らせて口を開いた。


「じゃあ母さん、この二人どうにかしてよ」


 ベッドの上には、青年と母親のほかに二人の少女が眠っていた。

 どちらも透けたキャミソールを身につけている二人の少女は、青年の逞しい腕に両手両足をギュッと巻き付けている。

 シットリと濡れた様な黒髪。瞑る目に揃う睫毛は随分と長い。小柄で華奢な体格。二人の少女は共に全く同じ外見をしていた。

 透けたキャミソールから覗く桜色の下着も、小柄で華奢な体格にしては若干大きめに張り膨らんだ胸の形も、全て同じである。

 今はその二つの、いや四つの胸が、青年の腕にギュッと押し当てられていた。


「それはお兄ちゃんの役目でしょ。よろしくね」


 金髪の女性はそう言い残し、ベッドから降りて部屋を出ていってしまった。

 青年は吐息を一つ吐き出して、二人の少女がギュッと巻き付いている逞しい腕をグリグリと動かし、その小柄で華奢な身体に押しつけた。


「んっ」

「やっ」


 二人の少女は同時に、小柄な身体をビクビクと震わせた。それでも目を開ける気配は無い。青年はさらにグリグリを続ける。


「やあっや」

「んんっ、あっ」


 二人の少女はそれでも目を開けない。徐々に頬や耳が赤みを帯びていく。

 不意に青年はグリグリを止めて、呆れた様な吐息を吐き出した。


「いい加減に起きなって」


 その声に、二人の少女はパチリと目を開いた。


「やだ、もっと」

「お願い、お兄ちゃん」


 瞳を潤ませた上目遣いを駆使して、懇願する二人の少女。


「やっぱり起きてたか。ほら、離して」

「だって、私たち低血圧の病気だから、お兄ちゃんに身体グリグリして貰わないと朝は動けないんだもん」

「そうだよ、お兄ちゃんが元気になるツボを押してくれないと動けないの」

「今日は調子良さそうだけど?」

「ううん、良くないよ。だからお兄ちゃん、もう少しだけ」

「お願い、お兄ちゃん」


 会話から察するに、どうやら二人の少女は病気らしかった。

 つまり青年が少女の身体をグリグリとするのは、治療らしい。

 ならば、疚やましいことは何一つ無い。


「少しだけだからな」

「うんっ」

「やった」


 二人の少女は再び目を瞑り、青年の逞しい腕に両手両足をギュギュッと絡ませた。

 青年はその逞しい腕を、小柄で華奢な身体にグリグリと押し当てる。

 もちろん、ただの治療なので疚しいことは何一つ無い。触診みたいなモノだ。


「んっ……んっんっ」

「やあぁあっ、やっ」 


 すぐさまに、二人の少女は息を荒くしていく。どこかが痛むのだろうか。嫌な病気である。

 その顔はどんどん赤みを増していき、全身から吹き出す汗で透けたキャミソールが身体に張り付いていく。


「………っ、あっ、もうっ」

「やだっ……やっ」


 二人の少女がさらに強く、その逞しい腕に爪を立てるほどに強く巻き付いた瞬間、青年は不意にグリグリを止めた。

 二人の少女は驚いた様子で、そして少し寂しげな様子で、パチリと目を開いた。

 その隙を付いて、青年は逞しい腕を二人の少女から振り解く。


「なんでっ、お兄ちゃんっ」


 一人の少女は、頬を膨らませてまで怒っている。


「もう少しだったのに」


 もう一人の少女は全身の力が抜けたように肩を落とした。

 その小柄で華奢な身体はどちら共に、全身顔まで、汗でグッショリと濡れていた。


「最後までやったら二人とも動けなくなるだろ。今日は忙しいんだから、早く起きて支度しなさい……ああ、もう、汗でグショグショだよ」


 青年は二人の汗に塗れた自身の腕と、滴が伝うほどに濡れた指先を見ながら言った。


「ううぅ」

「ぬうぅ」


 二人の少女は口を尖らせてまで不満を表現している。

 そんな事などお構いなしに、青年はベッドから降りた。


「ほら、お風呂入るよ。そのままじゃ風邪引いちゃうだろ……一緒に入らないの?」

「入るっ」

「やったっ」


 嬉しそうな声を上げて、二人の少女はベッドから飛び降りた。

 どうやら青年の賢明な治療により、元気を取り戻したようだ。

 病弱な二人の妹と、頼りになるお兄ちゃん。なんとも爽やかな構図である。


「じゃあ今度は私がお兄ちゃんに気持ちいいことして上げる」

「ダメ、私がするの。私の方がお兄ちゃんの気持ち良いところ知ってるもん」

「ダメっ、私がやるのっ」

「嫌だってばっ。私が――」

「やれやれ」


 青年は呆れた様子で首を振り振り。元気になった妹二人を引き連れて、寝室を出ていった。

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