第128話 初恋の人に運命の日を告げる

『三年生の予選一位は『元気をだして』を合唱した十一組!! そして二位が『時代』を合唱した十組です!! この二クラスが本戦出場となります!!』


「 「 「よっしゃーっ!!」 」 」

「 「 「やったわーっ!!」 」 」


 『合唱コンクール』の予選結果は俺達のクラスが二位になり本戦出場となった。


 実は『前の世界』では予選ダントツ一位だったので、今回、曲順の意見を言った俺としてはかなりプレッシャーがあったが、どうにか二位になれたのでホッとした。


 まぁ、そんな『前の世界』の事など知らないクラスメイトは大喜びをしていたが……


「五十鈴君、これで次の本戦では皆で元気よく『太陽がくれた季節』を思いっきり歌えるね?」


 予選二位になる事ができた『合唱コンクール責任者』の大塚が少し興奮気味で俺の手を握りながら話しかけてくる。


「そ、そうだな。あとは悔いの無いように歌うだけだなぁ……」


「頑張ろうね!?」


「あ、ああ……うん……で、そろそろ手を離してもらってもいいかな?」


「あっ!?」


 大塚はそう言うと顔を赤くしながら『ゴメン』と言うと、慌てながら他のクラスメイトの所へ駆け寄って行くのだった。



 そして本戦が始まる。


 一年生の予選一位、二位の順に合唱することになっており、俺達の出番は一番最後……


 この順番は『前の世界』とは微妙に違った。


 これも予選で二位だったからなのか、それはよく分からないが、いずれにしても恐らく『パフォーマンス的』な事をやるはずの十一組の後になったのは良かったと思う。


 『前の世界』では順番が逆で俺達のクラスの合唱は他のクラスよりも断然良かったが最後の十一組の『パフォーマンス』が衝撃過ぎて会場全体を食われてしまったのだから……



 本戦が始まった。


 最初は一年生の予選一位からだが、やはり思っていた通り、数名は恥ずかしさが残った感じの歌い方になっている。だから所々で声のずれが見られた。


 まぁ、この年代の子供達がまずクラス一丸となってまとまるのも大変な時期であるのに、そんな彼等がこんな大勢の前で合唱するんだからな。普通は恥ずかしいだろう……


 二年生は一年生よりもマシではあるが、それでも俺達三年生に勝てる程のレベルでは無い……と、俺は思う。


 やはり最大のライバルは三年十一組……

 そして彼等が合唱する曲名は……


 『贈る言葉』……


 更に指揮者は十一組の中でも一番のムードメーカーの生徒がスーツを着ていて、髪はロン毛のカツラをかぶっている。まさに『〇〇先生』だ……


 そう、これが彼等の『パフォーマンス』なのだ。

 この『パフォーマンス』に俺達は『前の世界』で負けたんだ。


 やはり予想通り会場はバカうけしている。

 先生達もお腹をかかえて爆笑している。


 逆に舞台袖では俺達十組のクラスメイト達が口々に文句を言っていた。


「なっ、何だよアレは!? 全然、合唱に関係無いじゃねぇか!!」

「そうよ、あんなの卑怯よ!!」

「あんな目立つことをされたら次に出場する私達、とってもやりづらいじゃない!!」


 彼等が怒るのもよく分かる。


 あれだけ必死に練習したのに……それがあの『パフォーマンス』に負けてしまったら……まだ十代の少年少女にはかなりショックであろう。いや、『前の世界』の時は俺も含めて皆、かなり凹んだんだ。


 でも今の俺は事前に分かっていたからという事もあるがそんな怒りはこれっぽちも無い。皆、勝つ為に必死なんだ。だからルール違反でもない彼等を責める必要はない。


 それに今回の俺達は曲順も変更して、合唱順も前とは違う。

 そして俺にはもう一つ『秘策』がある。なのでまだ負けたと決まっていないんだ。


 俺の『秘策』が成功するかどうかは半々くらいの確立だが、この『秘策』は先生方がどう受け止めるかにかかっている。それにこの『秘策』を発動する為には俺がめちゃくちゃ恥ずかしい思いをしなければいけないんだ……でも『この世界』の俺は出来る事は全て全力でやると決めている……



 俺達の番が来た。


 まだ会場では十一組の合唱に対する余韻が残っている。

 俺達、十組の生徒達は小声で何やらブツブツ言いながら自分達の立ち位置に向かっている。ふてくされた顔をしている奴もいた。



 そして俺達が合唱の準備が出来た瞬間に俺は息を大きく吸い込み、これでもかというくらいの大声でこう叫んだ。



「お前ら~っ!! 今から俺達の『本気』の合唱をするぞ~っ!!」


 俺の声に会場は一瞬、静まりかえる。そしてクラスメイトの目の色が変わり……


「 「 「 「お―――――――――っ!!!!」 」 」 」


 クラスメイト全員が右腕を高々と上げて叫んでくれた。


 そしてすぐさま曲のイントロが流れ始める……



『♪君は、何をいーま 見―つーめていーるの♬ 若い悲しみーにぬれーた瞳で♪……』


 俺達は腹の底から大きな声で歌った。


 俺はこんな大きな声を出しながら大勢で合唱したのは後にも先にもこの日だけだと思う。


 会場中を今日一番の歌声が響き渡る。


 ついさっきまで十一組の『パフォーマンス』に顔が緩んでいた先生方も真剣な表情になり俺達の歌を聞いている様子がうかがえる。


 俺はこの曲を歌いながら『この世界』に来てからの事を次々と思い出していた。


 『つねちゃん』との再会……石田との別れ……マーコとの別れ……そして……



『♪燃やそうよ、二度となーい日々を~、燃やそうよ、二度となーい日々を~!!♪』



 俺達は最後まで腹の底から本気で歌い上げた。

 皆、疲れたのだろう。肩で息をしている。まぁ俺もだが……


 すると会場全体から割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。


「 「 「うぉおおお!! 凄い良かったぞーっ!!」 」 」

「 「 「感動したわーーーっ!!」 」 」


 きっと俺だけでは無いいだろう。こんなに鳥肌が立ったのは……



『合唱コンクール、優勝は三年十組の太陽がくれた季節です!!』


「 「 「うぉぉおおおおお!! やったぞーっ!!」 」 」

「 「 「キャーッ!! やったわーーーっ!!」 」 」


 俺達は涙を流しながら抱き合い喜びあった。


 俺なんかは涙と鼻水でズルズルになり羽田達にいじられるほどだったが、羽田も目に涙を浮かべながらこう言った。


「五十鈴が気合いを入れてくれたお陰で俺達は本気を出せたよ。ありがとな、お前のお陰で良い思い出ができたよ……」


「ハハハ、何を言ってるんだよ? 俺があんな恥ずかしい言葉を言えたのはお前達のお陰なんだから……」


 すると俺の話を聞いていた大塚が後ろから抱きつき、そして泣きじゃくりながら……


「ウッ……だ、だがら、いずずぐんは……がっご……よずぎるんだよ~っ!! ウワーーーン!!」


 大塚が何を言っているのかよく理解できなかったが……

 ホント、こんな興奮したのは『卓球』の団体戦で優勝した時以来だな……


 努力が報われるってめちゃくちゃ嬉しいし、めちゃくちゃ幸せだなぁ……




 その日の夜、俺は『つねちゃん』に『合唱コンクール』での優勝の報告の電話をかけた。


 『つねちゃん』は自分のことのように喜んでくれ、そして俺に『ご褒美として何かしてあげたいから何でも言ってちょうだい』と言ってくれた。


「い、いや、そんなの悪いよぉぉ……」


「いいの、いいの。遠慮せずに何でも言ってちょうだい!! ねっ?」


「う、うーん……」


 悩んでいるフリをしている俺だったが心の中では『それじゃぁ、結婚してほしい』と言いたい気持ちで一杯だったが、さすがに今、言う時では無い。


 俺は何気に目の前の壁に貼るつけている年間カレンダーを見て、もう少し先で言おうとしていたことを口にする。


「そ、それじゃあさぁ、少し先になるんだけど……」


「えっ、何かな……?」


「十一月十二日……俺の誕生日に『エキサイトランド』で俺と……俺とデートをしてくれないかい?」




――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


合唱コンクールで優勝した隆達

努力が報われ涙を流しながら喜ぶ隆達


そしてそれを自分のことの様に喜んでくれる『つねちゃん』

そんな『つねちゃん』からご褒美をあげたいと言われた隆がお願いしたことは……


『運命の日』でのデートの約束だった。



どうぞ次回もお楽しみに。

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