第127話 初恋の人にいじられる

 【とある日の夕方】



「うーん……特に脳に異常は見られないですねぇ……精神的なものから頭痛が起こっている可能性があるかもしれませんし……もしくは肩凝りなどからきているか……そうなるとまだ頭痛が頻繁に起こる様でしたら『精神科』『神経科』『整形外科』等で診察をされる事もお勧めしますが……まぁ、とりあえず今日は頭痛薬を用意しておきますね?」


「は、はい、有難うございます」



 俺は先日、『脳外科』で脳の精密検査を受けた『つねちゃん』と一緒に検査結果を聞きに行った。


 ここの病院は『つねちゃん』の実家近くにある『国立病院』……

 そう、石田が入院していた俺達が通い慣れている病院だ。


「つねちゃん、脳に異常が無くて良かったね。俺、ホッとしたよ」


「そ、そうね。先生も安心したわ。隆君、今日は一緒に付いて来てくれて有難うね……」


 結果を聞くまでこわばっていた『つねちゃん』の表情も柔らかくなり笑顔でお礼を言ってくれた。


 俺も『異常なし』の診断結果を聞いて安堵感が漂っていた。


「でも先生が言っていた通り、痛みが続く様なら他の科で診察を受けてみた方が良いとは思うけど……それと、つねちゃんって肩凝りとかはあるの?」


「うーん、どうだろう? 先生って昔から肩が凝らない体質だと思うのだけど……でも同僚からは本人が気付いていないだけで実は相当凝っている人もいるんだから気をつけないさいよって言われたことはあるわねぇ……先生って色んなところが鈍感というか、感じにくいというか……だから頭痛だって今まであまり気にならなかったの……」


「でも今回の頭痛は今までとは違っていたってことかな?」


「そ、そうね。そんな感じかな……奥の奥の方から突然、痛みが来るというか……ちょっと説明が難しいのだけど……何か凄い電流が体中に流れる様な感じというか……」


「えっ!?……」


 俺は衝撃を受けてしまい言葉が出なくなる。


 電流が体中に流れる感じって……

 俺が『タイムリープ』をした時と同じ症状じゃないか……これはマズイ……


「隆君、どうかしたの?」


 『つねちゃん』が心配そうな表情で聞いてくる。


「いっ、いや、何でも無いよ。そ、それよりも、いくらつねちゃんが肩が凝らないタイプだとしても知らず知らずに凝っているかもしれないんだから、たまには『マッサージ』をしてもらった方が良いんじゃないかな……」


「うーん、そうねぇ……隆君がそこまで言うなら一度、『マッサージ屋さん』に行ってみようかしら……ただ、知らない人に身体を触られるのは少し抵抗があるのだけど……」


「まぁ、その気持ちも分からなくは無いけどさぁ……探せば女性の『マッサージ師』だっているんじゃないのかな?」


「そうよね、近いうちに探してみるわね。でも本当は先生としたら昔から知っている隆君にマッサージをしてもらった方が安心なんだけどなぁ……クスッ……」


「えーっ、俺がつねちゃんにマッサージだって!? 出来なくはないけどさぁ……そっ、それはちょっとマズいというか……恥ずかしいというか……」


 まさか、『つねちゃん』がそんな事を言うとは思ってなかった俺は顔が真っ赤になり、『中身が大人』の俺とあろう者が思わずモジモジしてしまった。


 本音を言えば是非ともマッサージをさせてもらいたいものだが、今はまだ色々と我慢の時期だからなぁ……って、俺は何を考えているんだ。『つねちゃん』の身体の為のマッサージなのにな……はぁ……情けないやら、恥ずかしいやら……


「プッ……冗談よ、冗談。隆君がそんなに恥ずかしがるとは思ってなくて驚いちゃったけど……いつも『大人』みたいなところがあるから……珍しい隆君が見れて先生、なんだか得した気分だわ。フフフ……」


「つ……つねちゃん……」


『つねちゃん』に軽くいじられた俺は、苦笑いをする事しかできないでいた。




 【ある日のホームルーム】


「さぁ、今度の『合唱コンクール』で私達が歌う二曲だけど、どちらの曲を予選で歌った方が良いと思うかな? 皆の意見を聞かせて欲しいんだけど」


 責任者がよく似合う大塚が教壇の前に立ち、俺達に問いかける。



 俺の高校は毎年、夏休み前に二日間に渡り『合唱コンクール』が行われる。

 俺は結構、この『合唱コンクール』が小学生の頃から好きだった。

 元々、歌うのが好きだというのもあるが、大勢で一つの曲を歌うのがとても爽快だったからだ。


 一日目は学年ごとに時間をずらしての予選、そして上位二クラスが二日目の本戦へと出場する形だ。


 実は『前の世界』で俺達、十組はどのクラスよりも練習をし、そして最終的に準優勝に終わった。


 準優勝でも凄い事だが俺達はかなり落ち込んでしまったのを俺は今でも覚えている。

 何故なら実力的には俺達が優勝だったが隣の十一組の『パフォーマンス』に負けてしまったからだ。

 

 十一組が行ったパフォーマンスがかなりウケてしまい、審査員の先生達も思わず、十一組に一票を入れてしまったのだろう。合唱では俺達よりも少し劣っていた十一組が優勝した事で、俺もそうだったがクラス全員がブーイングの嵐になったのだ。


 今の俺ならその時の先生達の気持ちもよく分かる。

 逆にあの時、一番会場を盛り上げた十一組に票を入れない方がおかしいと思う。


 ただ俺は『合唱コンクール』後にある事を後悔した。

 『あの時、こうしていたらどうだっただろう……』


 まぁ、今更終わった事をどうこう考えても仕方の無い話なんだが……


 

 『この世界』での俺達十組もかなりの練習をした。


 俺も懐かしさもあり気合いを入れて練習をした。気合いが入り過ぎてやる気の無さそうな男子数名にキレたほどだ。


 日頃、『温厚なフリ』をしている俺が突然キレたもんだから、その生徒達はその日から生まれ変わったように練習をしてくれた。そして他のクラスメイトも更に気合いを入れて練習をやったのだ。


 どう考えても『前の世界』の十組よりも更に凄いレベルで仕上がった様に俺は感じた。


 だから、勝ちたい……勝たせてあげたい……そんな感情が芽生えてしまう。

 もし……『未来』を少しでも変えれる可能性があるのなら……


「お、大塚、一ついいかな?」


「おっ? 五十鈴君が手をあげるなんて珍しいわね? で、何かな?」


「あ、ああ……俺はどちらの曲を合唱してもこのクラスの実力だったら予選は突破できると思うんだよ……」


 俺の言葉にクラスメイト達は何か嬉しそうな表情をしている。


「でもさ……本戦で勝つ為には『勢い』が必要だと思うんだ」


「えっ? それじゃぁ、何か『パフォーマンス的』な事をやれっていうの?」


「違う違う!! そんな事をやってまで勝つのは嫌だ!! あくまでも『合唱コンクール』なんだから……でも中にはそんな事をやって勝ちを狙ってくるクラスもあるかもしれない……だから俺はそういったクラスにも『実力』と『勢い』で勝ちたいんだ」


「ってことはアレね? 五十鈴君が思っている予選と本戦で歌う曲は……」


「そう、予選では『時代』を合唱して、そして本戦では『太陽がくれた季節』を合唱するっていうのはどうだろうか……?」


 俺は『前の世界』の時とは逆の曲順を提案した。


 これで優勝出来なくても俺は別に何の悔いも無い……

 ただ俺は皆と楽しい高校生活の思い出を一つでも多く残したいだけだから……





――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


とりあえず脳に異常はなかった『つねちゃん』だったが痛みの症状が身に覚えのある症状で不安になる隆……しかし『つねちゃん』からの『隆いじり』のお陰でその不安も薄くなる。


そして高校生活も一年を切った隆は様々な行事に全力で取り組む。

まずは『合唱コンクール』で優勝する。それを目標に『ある提案』をする隆であったが……

果たしてその結課は……


完結まで残り6話す。

何卒、完結までお付き合いください。


どうぞ次回もお楽しみに。

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