第126話 初恋の人と一年でも長く

「ところで隆君は進路はどうするの?」


 突然、勉強をしている俺に『つねちゃん』が質問をしてきた。


「えっ? うーん……そうだねぇ……多分、就職すると思うよ。それも父さんの会社にね」


「そうなんだぁ……それはお父さんもお喜びになるわねぇ。でも隆君、勉強できるし……というか、それなら何故そんなに勉強を頑張っているの?」


 それは少しでも多く、『つねちゃん』と一緒にいたいからさって言いたいところだが恥ずかしくて言えるはずがない。


 まぁ、もう一つ理由があるから、それだけを伝えておこう。


「お、俺が勉強を頑張っているのは前につねちゃんが言ってくれた言葉に影響を受けたんだよ。前に言ってくれただろ『選択肢を広げろ』って? だから俺は将来の為に選択肢を広げる為に頑張っているんだ」


「『選択肢を広げる』かぁ……そう言えばそんなこと言ったわねぇ……覚えていてくれたんだ?」


「うん、覚えていたよ。『選択肢を広げる』……俺は別に大学に行きたくない訳じゃ無いんだよ。ただ『理由』があって早く働きたいって思っているんだ。でも、もしかしたら昼間働いて『夜間大学』に通う可能性もあるし、将来、本当に勉強がしたいと思った時に大学を受けてもいいかなぁっていう思いもあるんだ。まぁ、今の時代、そう簡単に大学に行けるとは思っていないけどさ……」


 俺がそう言うと『つねちゃん』はとても驚いた顔をしながらこう言った。


「す、凄いなぁ隆君は……いえ、凄すぎるわ。あの時の言葉を実践しているんだもんねぇ……今どきの高校生で隆君みたいなことを考えている子なんていないと思うわなぁ……ほんと、隆君って昔からそういうところは『大人顔負け』のところがあるわね……」


 『そういうところは』っていう言葉も気になりつつ……

 いや、俺は『中身が大人』なんで当然……とも言えるはずも無く……

 

 でも『前の世界』の俺だって大人だったんだ。


 しかし今の様な考えになることなく人生を歩んできた。

 高校では大学に行くつもりは無かったので真剣に勉強もせず、常にギリギリの成績だった。毎回、追試を受けていた記憶がある。


 高校を卒業して、父さんの会社を継ぐという気持ちににもならず、別に大して興味の無かった会社に就職をした。

 

 恋愛関係では数年に一度毎に彼女はいたが、今一歩のところで自分に自信が無く、『プロポーズ』をする事が出来ず、結局相手に愛想を尽かせてしまいフラれるという形になっていた。


 『この世界』に来るまで、『前の世界』での俺の『最終経歴』は『自分に自信も無く、会社をリストラにあい、ずっと家に引きこもり、ニート状態になった五十前の独身のおっさん』……

 

 これも『大人』なんだ……


 でも俺は『この世界』で生まれ変わる事が出来た。


 何故、生まれ変わる事が出来たのか……それは『つねちゃん』がいたからだ。

 『つねちゃん』と結婚をするという目標があるから俺は変われたんだ。


 未だ、たまに何故俺は『この世界』に『タイムリープ』をして人生をやり直しできるチャンスが貰えたのだろうかと思う時がある。


 何故、俺が……


 もしかしたら俺が知らないだけで、他にも『タイムリープ』をしている人間が『この世界』のどこかにいるのかもしれない……いや、現に石田は俺と同じ時期に『タイムリープ』をしていたのだからな。絶対に他にもいるはずだ……


 俺が分からないのは『タイムリープ』する為の条件だ。

 何故、俺や石田が選ばれたのだろうか……


 まぁ、石田は何となく理解できる。


 『伝えられなかった思いを伝える為』


 石田は『前の世界』では事故で亡くなり誰にも何も思いを伝える事が出来ず、そしてお別れの挨拶も出来ずにこの世を去った。


 だからこの世に強い未練があったのは間違い無いし、『この世界』に『タイムリープ』をする人間に選ばれても不思議では無いと思える。


 しかし俺が石田と同じ様な権利がある人間だとはどうしても思えない。

 

 何故なら俺は『前の世界』で志保姉ちゃんに『つねちゃん』の死を教えてもらってからようやく『つねちゃん』が初恋の人だと思い出したからだ。


 そして後日、志保姉ちゃんから『つねちゃん』の人生を聞いた俺は『後悔』した。

 俺が『つねちゃん』を幸せにしてあげたかったと思ったんだ。


 そう、俺はその時に初めて『つねちゃん』の事を考えた。


 あまりにも都合の良過ぎる思い……


 『つねちゃん』の事を四十年以上忘れていた俺が……

 こんな俺が『この世界』に『タイムリープ』する資格があるのか?

 と、つい思ってしまう事が有る。


 でも……いつまでもそんな事を考えていても仕方が無い。

 実際、俺は『選ばれ』『この世界』で生きている。


 そして俺が『一生をかけて幸せにしたい人』が目の前にいるんだ。


 もう後悔はしたくない。俺は絶対にこの人を幸せにするんだ。

 その為にも俺は『努力』を惜しまない!!


 そう心に誓う俺であった。



「うっ……」


「えっ、どうしたの、つねちゃん?」


「ゴメンね……ちょっと頭痛がしたもんだから……最近、よく頭が痛くなるの……」


「えっ、いつ頃からなの? あ、もしかしてお見合いの日の……」


「そ…そうねぇ……お見合いをする前くらいからかな……でも大丈夫よ。頭痛薬を飲めばすぐに痛みは治まるから……」


 俺は不安になった。


 俺が『この世界』に来るキッカケになったのが頭痛だったからだ。


 でもまさかな……『つねちゃん』が俺みたいに『別の世界』に『タイムリープ』するなんてあり得ない話だ。


 今の……『この世界』の『つねちゃん』に『タイムリープ』をする理由なんて無いはずだ。


「つねちゃん、病院には行ったのかい?」


「うううん……病院には行ってないけど……」


「そうんなんだ……でも一度、病院で診てもらおうよ? 心配だしさ……俺が一緒に病院に付いて行っても構わないからさ……ねっ?」


「そ、そうね。一度、病院で診てもらった方が良いかもしれないわね……隆君に心配も迷惑もかけたくないし……」


「迷惑なんかじゃ無いよ。でも心配ってのは本当だよ。だから今度、一緒に病院に行こう」



 基本的に『つねちゃん』はあまり身体は強くない。

 だから俺は本当に『つねちゃん』の体調を気にしている。


『前の世界』では心不全で六十歳半ばで亡くなっている『つねちゃん』……

『前の世界』の平均寿命で考えれば『つねちゃん』は長生きだとは思えない。


 だから『この世界』の『つねちゃん』には、どうしても長生きしてもらいたいんだ。


 十七歳も歳の差がある俺達……

 普通に考えれば『つねちゃん』の方が先に死んでしまう。


 俺は『つねちゃん』と一年でも長く一緒にいたい。

 『この世界』で俺は人一倍努力をして、そして『この世界の未来』を少しでも変えるんだ。


 必死に努力して俺は少しでも『つねちゃん』の寿命を延ばしたいと思うのであった。




――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


今回は隆の頭の中の場面が多い回になりました。

この作品もあと残り数話で終わります。


どうぞ完結までお付き合いくださいませ。


それでは次回もお楽しみ。

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