第125話 初恋の人と俺を繋いでくれた人

 今日は『つねちゃん』の一人暮らしをしている部屋での初めての『勉強会』の日……


 前に住んで居た部屋とはいえ、さすがに久しぶり過ぎて緊張をしている俺だった。

 勿論、この部屋には『つねちゃん』しか住んでいない。両親もいない。


 だから今までよりも余計な事を考えてしまう俺がいる。

 

 俺はもう今年で十八歳になる少年というよりは男だ。


 っていうか、実際の年齢は考えたくもない年齢になっているから本来なら『性欲』は衰えてもいいはずだが、そこは悲しいかな若い頃のままだ……


 今までもそうだが、俺は『つねちゃん』と二人っきりになった時は理性を保つのが大変である。ただ、俺が理性を失い行動に起こしてしまえば『つねちゃん』の性格からすると拒絶される様な気がするから何とか我慢してきたのだ。


 あと半年の辛抱だ……

 俺は自分にそう言い聞かせながら『つねちゃん』の家のインターホンを押そうとしていた。


 ガチャッ ギーーー


 すると隣の家のドアが開く。

 そしてそこには見覚えのある女の人が……


「あれ? あなたは前に会ったことあるよね? たしか……『五十鈴隆君』だったかな?」


「えっ? ああっ!! そうです。五十鈴隆です!! 中一の頃にお会いしました!! あの時は僕宛ての手紙をつねちゃんから預かってくれていたんですよね? お、お久しぶりです!!」


 俺が小六の夏休みに『前の世界』に逆戻りをして、また『この世界』に戻って来た時に俺は『空白の一年』を取り戻す為にここへ来た際にに出会った女性……


 あの時よりも老けている訳では無いが大人の女性といった感じがする。


 まぁ、あの頃と違ってその女性の横には手を繋いでじっと俺の顔を見ている二、三歳くらいの女の子が立っていたので余計にそう思えたのかもしれない。


 そっかぁ……この数年の間にこの人もお母さんになったんだぁ……


「つねちゃん? ああ、常谷さんの事ね? そうそう、私ビックリしちゃったわ。まさか隣に越して来た人が前に住んで居た常谷さんだなんて……それに君にもまた会うなんてね。本当に驚いたわ……しかし大きくなったわねぇ……大人の顔になったわ……」


「あ、有難うございます……し、しかしアレですね……娘さん、とても可愛いですね。お名前はなんていうのかなぁ?」


「アタチはねぇ……ちかっちゃん……」


「えっ? ちかっちゃん??」


「フフフ、有難う。この子の名前は『千夏』っていうのよ。顔は『元旦那』に似てるけどさ、でも私がお腹を痛めて産んだ子だからさ、めちゃくちゃ可愛くてさぁ……」


「えっ、元旦那?」


「ええ、そうよ。あなたと前に会った時はこの家で『元旦那』と同棲していたの。それで子供が出来ちゃって籍を入れたんだけど、彼は直ぐに他の女と浮気をしてさ……それであっさりと離婚して、それで今は娘と二人暮らしって訳なのよ。まぁ、あまり堂々と言える話でも無いけどね……」


 そ、そうだったのか……たった数年で結婚、出産、離婚って……

 この人も波乱な人生を送って来たんだなぁ……


「た、大変だったんですねぇ……」


「まぁ、大変だったけどこの子がいるから頑張れるって感じかな。この子は私にとって『宝物』だから……」


 『宝物』かぁ……今の俺にとっての『宝物』は『つねちゃん』だな。

 うん、間違いない!!


 そしてそれから『つねちゃん』と二人で『宝物』を増やしていく……

 そうなりたいよなぁ……


「ところでさ、前に会った時も気になったんだけど、常谷さんと君はどんな関係なの?」


「えっ!? かっ、関係ですか!? え、えっと……それはですねぇ……つねちゃんは僕が幼稚園の頃の先生だったんですよ。それで今でもお付き合いをさせてもらっているといいますか……今日も勉強を教えてもらいに来たんですが……」


「フーン……そうなんだぁ……ウフ……それでお互いに『恋愛感情』とかは無いのかしら? なんか『禁断の愛』って感じで凄く興奮するんだけど!!


 こっ、この人は何て事を聞いてくるんだ!?


「いっ、いや、そのぉぉ……俺、いや、僕はつねちゃんの事が好きですけど……向こうは実際、僕の事をどう思っているのかは……分かりません……嫌いでは無いとは思いますが……歳も離れていますし……」


 俺は正直半分、嘘半分の返答をした。


 すると今、表札を見て初めて分かったことだが、その『中野さん』が俺の肩をポンッと叩き、こう言った。


「恋愛に『歳の差』なんて関係無いわよ!! 私だって『元旦那』は私よりも一回り以上年上だったんだからね。でもまぁ、私はそんないい歳した『親父』に裏切られたんだけどね……」


「は、はぁ……」


「君は絶対に浮気しちゃダメよ!? どうも君って女の子にモテそうな感じだからなぁ……『彼女』からすればとても不安になるんじゃないかなぁ……」


 俺は中野さんに『浮気しちゃダメよ』と言われた瞬間、脳裏に石田や佐々木にキスされた場面が浮かんでしまい、それを消そうとして首を横に大きく振った。


「ん、どうかしたの?」


 中野さんは俺の様子を見て不思議そうな顔をしていたが、ニコッと笑いながら再度、俺の肩を叩きこう言った。


「でも君は大丈夫だよ。まだ二回しか会ったことないけどさ、私が保証するわ。だってそうでしょ? 中一の頃に常谷さんを尋ねてきた少年が数年経った今もこうしてここに居るんだから……後はお互いの気持ちだけよ。『五十鈴隆君』、頑張ってね!? 私、応援してるから!!」


「あ、有難うございます……」


 さっきからこの中野さんは誰かに似ているなぁと思っていたけど、ようやく分かったぞ。志保姉ちゃんだ。そう、中野さんは志保姉ちゃんに雰囲気が似ている。


 だから俺も中野さんと話をしていて不思議と居心地が良かったんだろうな……

 ってか、そんな事を言うと俺がまるで『気の強い女性』が好きみたいで嫌なんだが……


 おっ、俺は『つねちゃん』の様な優しくて、思いやりのある女性が好きなんだ。


 そうこうしているうちに『つねちゃん』の部屋のドアが開いた。


 ガチャッ ギーーー


「あれ? 隆君、来ていたのね? 良かったわぁ……とても心配したわよ。約束の時間になっても全然、来ないから心配になって様子を見に行こうと思っていたところだったのよ……」


「ご、ゴメン、つねちゃん……」


 そう、そうなんだ。俺は『つねちゃん』のこういうところが大好きなんだ。


「すみません、常谷さん!! 私が偶然、五十鈴君に会ったもんだから、懐かしさを感じてつい話し込んでしまって……千夏と一緒にお買い物に行こうと思っていたのにすっかり忘れていたわ」


「中野さん、こんにちは……フフフ、いいですよ。中野さんにはお世話になってばかりでしたし……それに数年前には隆君宛ての手紙もお預かりして頂いてましたしね。あの時は本当にお世話になりました。お陰で今もこうして隆君と会えるのですから……」


「いえいえ、私は何もしてませんよぉぉ。っていうか、そろそろ私達はお買い物に行きますので。それじゃぁ、五十鈴君またお話しましょうね?」


「は、はい、またお話しましょう!! ちかちゃんもまたねぇ」


「うん、お兄ちゃん……バイバ~イ」


 俺と『つねちゃん』は二人のうしろ姿をじっと眺めていた。


 何度も俺達に振り向く千夏ちゃんがとても可愛らしかった。


「千夏ちゃん、とっても可愛いわねぇ……」


「ホントだね……」


 俺はそう言いながら一瞬、頭の中で俺と『つねちゃん』との間に生まれる子の顔を想像し、心の中で『可愛い過ぎるだろ』と叫んでしまった自分に少し恥ずかしくなってしまうのであった。



――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


再び一人暮らしを始めた『つねちゃん』の家で初めての勉強会ということで何かと緊張している隆

しかし、その時にとても懐かしい女子に出会う。


どことなく志保姉ちゃんに似ているその人は隆の気持ちを分かっているかの様な言葉を発し、そして最後は応援の言葉をかけるのだった。


その人の娘を見ながら将来の自分の子供を想像する隆

これからこの先、その隆の想像通りの夢は叶うのでしょうか?


どうぞ次回もお楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る