最終章 二人の未来編
第124話 初恋の人達の新たな動き
昭和六十三年四月……
俺が高校三年生になったと同時に妹の奏が『青葉東高校』に入学してきた。
『前の世界』での奏はあまり勉強が出来ず、公立の『青葉高校』を受験したが失敗に終わり、滑り止めで合格していた私立の『神崎女子高校』に通っていたのだ。
それが『この世界』ではまさかの『青葉東高校』に入学するなんて……
俺が中学の頃に通っていた塾に奏も通いだした事も大きかったと思うが、やはり勉強嫌いの奏がそこまで頑張れたのは認めたくは無いが『愛の力』であろう。
「奏ちゃ~ん、入学おめでとう!!」
「けん……高山さん、有難うございます!!」
はぁ……奏のやつ、今、健一さんって言いかけたんじゃないのか?
しかし、この二人を見ていたらホント、複雑な気持ちになってしまうよ……
この付き合っていないフリをしているところも可愛らしいというか、憎たらしいというか……これから卒業するまでの一年、気が気じゃ無いな。
いや、俺はそんな事を気にしている場合じゃ無かったんだ。
とうとう今年、俺は十八歳になる。
法律的にも結婚しても良い年齢になるのだ。
俺の誕生日が十一月というのが今となっては恨めしく思ってしまう。
四月生まれだったらもう今月中に『つねちゃん』にプロポーズできたのになぁ……
しかし、自分自身で十八歳になったら『つねちゃん』にプロポーズをするって決めた事だから、今更それを変更するのも男としてどうかという様な気もするからな……
そんな事を考えている俺は自分の教室に向かう。
俺は三年十組……教室には大塚、羽田の姿もある。
その大塚が俺に話しかけてくる。
「ヤッホー、五十鈴君!! 一年の時以来、同じクラスになったわねぇ?」
「そうだなぁ……お手柔らかに頼むよぉぉ?」
「えーっ!? 別に私は何もしないわよぉぉ!! 失礼しちゃうわねっ!!」
「ハハハ、冗談だよ、冗談!! でも本当によろしくな? 何かと頼りにしているからさ」
「フンッ、私を頼りにしないで!! 勘違いしちゃうからさ……」
「えっ、勘違い?」
「違う、こっちの話よ!! 私、用事あるから行くね? それじゃぁね……」
大塚は顔を真っ赤にしながら教室を出て行くのであった。
すると次は羽田が俺の所に近づいて来た。
「おーい、五十鈴~」
「よっ、羽田も一年の時以来だよな? また宜しく頼むよ」
「おう、こちらこそ、よろしくな。それでさ、この高校に五十鈴の妹が入学してきたって聞いたんだけど本当なのか?」
「えっ、情報がめちゃくちゃ早いな? ああ、本当だ……」
「へぇ、やっぱり本当だったのかぁ……で、五十鈴の妹は可愛いのか?」
「はぁ!? そんな事、分からねぇよ!! 羽田が自分の目で見て決めれば良いじゃないか!?」
バカ野郎!! 奏は可愛いに決まっているだろ!!
でも今から奏の事を好きになっても遅いからな!!
あいつには高山が……って、これじゃぁ俺が二人を認めているみたいじゃないか!!
はぁ……
「私、羽田君の応援しようかなぁ……」
そう言ってきたのは、これまた同じクラスになった北川だった。
彼女は前から高山の事が好きで、今もアルバイトを辞めずに頑張っている。
「おっ、北川さん、俺を応援してくれるのかい!? それは頼もしいなぁ……」
「オイオイ、北川……変な事、言わないでくれよ……」
「それじゃぁ、五十鈴君が私を応援してくれる?」
「えーっ!? うっ、うーん……俺はどうすれば……」
「プッ、一生悩みなさい!!」
北川はそう言うと大塚と同様に教室を出て行った。
残された俺と羽田はお互いの顔を見ながら首を傾げるのであった。
ここ数ヶ月で俺の周りも色々と変化している。
稲田から聞いた話だが、東京に行っている岸本が今年の秋のドラマに出演が決まったそうだ。まだ脇役だが凄いことだと思う。きっと岸本なら『石田と一緒に』頑張ることだろう。
そして大石と川田は俺の予想通り、付き合っている。いつも喧嘩ばかりしているみたいだが、まぁあの二人なら大丈夫だろうとは思う。
新見と米田は『夫婦』と言われているくらいに相変わらずラブラブだ。
ホント、羨ましい限りだ。
それと先日、志保姉ちゃんと三郎さんとの間に子供が誕生した。
それを期に三郎さんは『山本姓』から『鎌田姓』へと変更したみたいだ。
まぁ、俺が『山本』に殴られて入院したもんだから、同じ山本である三郎さんも俺に気を遣って早めに婿養子に入ってくれたんじゃないかという気もしている。
そして、その俺を殴って現行犯逮捕された『山本次郎』は『つねちゃん』のお父さんの話によると、俺が金輪際、『つねちゃん』に近づかない事を条件に被害届を取り消したので刑務所行きは免れたが、その後も荒れた生活だったらしく、酒に溺れ結局『前の世界』と同様、飲酒運転で事故を起こしたらしく意識不明の重体で入院しているそうだ。
『前の世界』と違い、単独事故だったそうなので俺は少しホッとした。何故なら『前の世界』の山本はひき逃げ事故を起こしており、その事故で女性が一人亡くなっているからだ。 それも『母子家庭』の母親の方が亡くなりまだ幼かった娘さんが一人残されたのだ。
先で起こるはずだった、その悲しい事故を防げたのだと思えば俺が殴られて気を失ってしまった事も凄く意味があったんじゃないかと思う。
そういう事で『この世界』では、やはり微妙に未来が良い方向に変わっている様な気がする。
最後に『つねちゃん』だが、今月から俺が通っていた『青葉第一幼稚園』に戻る事になった。そして前に一人暮らしをしていたアパートの同じ部屋がたまたま空いていたのでその部屋で再び一人暮らしをするようになったのだ。
実は弟の昇さん夫婦が、この春から『つねちゃん』の両親と同居する事になったのだ。昇さんの奥さんの佳子さんは小さい頃に両親を亡くしており、実家に帰って子供を見てもらうという事が出来ないでいた。
しかし今年の夏に二人目の子供が産まれるということで、上の子もまだ小さいこともあり、これを機に同居する事になったのだ。
そういった理由で『つねちゃん』も安心して一人暮らしが出来る様になったというのが本当のところである。
こうして俺の周りの人達はそれぞれの人生を頑張って歩んでいるのだ。
俺も皆に負けてられない……
今年の秋にはきっと、俺が『この世界』に来た意味がハッキリするだろう……
いや、ハッキリさせるつもりだと決意する俺であった。
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
遂に最終章です。
高校三年生になった隆
再び一人暮らしをする事になった『つねちゃん』
そして新たな動きをしだした周りの人達
それぞれが頑張って幸せな未来になるように歩みだす。
隆は夢を叶える事ができるのか!?
どうぞ次回もお楽しみに。
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