第122話 初恋の人を守り抜く

「誰だ、お前は!?」


 山本は鋭い目つきで俺を睨む。

 それとは逆に『つねちゃん』はとても心配そうな表情で俺を見つめている。


 俺はどう答えるか悩んだが、とりあえず部外者のフリをする事にした。


「お、俺は隣の席にいる者なんですけど……」


「で、何の用だ!?」


 山本は更に鋭い目をしながら威嚇している様な感じで俺に聞いてきた。


「いや、さっきから隣でお二人の話を聞いていたんですけどねぇ……あまりにもお兄さんの言っている事が理不尽というか、身勝手だったもので、こちらの方がとても困っているというか、可哀想だったもので……」


「はぁああ!? お前は何を言っているんだ!? 俺達の話を聞いていただと!? それで関係無いお前が何で俺達の話の中に入ってくるんだ!? お前の方が身勝手じゃないのか!?」


 この男はおそらく何を言っても言い返すタイプだな……

 『前の世界』でもこんなタイプの部下はいた。

 いくら注意をしても非を認めず、詫びる事も出来ない、逆に言い訳をして、人のせいにして……最終的には逆切れをして自分のミスを上司の責任にしていくような……


 そしてこちらが本気で怒るとそれ見逃しに『パワハラ』だと訴える……

 はぁ……嫌だ嫌だ……こんな奴が『前の世界』の『つねちゃん』の旦那だったなんて……


 本気でいかないと駄目みたいだな……


「はぁ……お兄さん、気付いてないのですか? 周りを見てくださいよ。お兄さんが大きな声を出すものだから他のお客さんが怖がっているじゃないですか? せっかく美味しものを食べに来ているのに……これじゃ食事が不味くなるでしょ? 大人なんですから、もう少し落ち着いてお話されたどうですか? それにさっきからこの方は『お付き合いしない』ってハッキリ言われているのにソレを承諾できないというのも男としてどうなんですかね?」


「他の客なんて今の俺には関係ねぇんだよ!! それにお前、高校生くらいだろ!? 『大人』の話に入って来るな!! お前みたいな『子供』に説教染みた事を言われる筋合いもねぇんだよ!! とっとと席に戻るかこの店から出て行きやがれっ!!」


 俺が『つねちゃん』の方を軽く見ると目に涙を浮かべながら『隆君、もういいから』と言っている様な感じがしたので俺は『大丈夫だから』という意味でニコッと微笑んだ。


「お前、何を笑ってやがるんだ!? 俺を舐めているのか!?」


「別に舐めてなんかいませんよ。お兄さんを軽蔑しているだけですよ」


「なっ、何だとーっ!!??」


 山本はそう言うと立ち上がり俺に近づいて来た。


 意外と俺には恐怖心は無かったというか、開き直って恐怖心が消えたというのが本当のところだろう。


 でも『つねちゃん』はそうはいかない。


「山本さん、止めてください!!」


 危険を感じた『つねちゃん』は山本の動きを制止しようとした。

 すると山本の動きが止り、『つねちゃん』に、


「香織さん、何が『止めて』なんですか? こいつは俺に喧嘩を売ってきているんですよ!! それにこうなったのも元はと言えばあなたのせいじゃないですか!!」


 はぁ……また人のせいかよ……

 つくづく嫌気がさしてしまう。


「お兄さん、さっきからこの人を責めてばかりいますけど、あなたには非は無いのですか!? この人と付き合えるもんだと勝手に思い込んで、相手の気持ちを無視して、それを無理矢理押し付けて、そして断られたらブチ切れて……これじゃぁ『幼稚園児以下』じゃないですか? それでよく俺に『子供』とか言えますよね? 恥ずかしくないのですか?」



 ギーッ


 この時、俺はレストランの中に入って来た友人二人のことは気付かなかった。


「あれ、ちょっと大石君? あそこで揉めているの、五十鈴君じゃない? っていうか今日は日曜だからバイトの日じゃないの?」


「あっ、ほんとだ、隆だ……それに椅子に座っている女の人は常谷先生じゃないのか? 川田どうだ? 俺あまり視力が良くないから自信は無いけどさ……」


「うん、大石君の言う通りよ。あの人は常谷先生よ。それにしても何なの? 五十鈴君達が揉めているのにレストランのスタッフは眺めているだけだなんて!! 何で止めないのよ!? 私、ちょっと文句言ってくる!!」


「おい、誰に言うんだよ!?」


「決まってるじゃない、ここの責任者の人によ!!」




「きっ、貴様っ!! ガキのくせしてこの俺に『幼稚園児以下』だとーっ!? それに俺に非が無いのかって言ったよな!? 俺のどこに非があるんだよ!? ある訳ねぇだろ? 俺はこの香織さんの父親の勤めている会社の取引先の社長の息子なんだぞっ!! そんな俺に非がある訳ねぇだろ!! あるのは香織さんの方だ!! 自分の父親の立場だけじゃ無く、会社の従業員全員の生活を脅かしてしまう可能性だってあるんだぞ!!」 


「それって完全に『脅迫』ですよね? あんた今、墓穴を掘りましたよ。そんな事を言って大丈夫なんですか? 今の脅迫染みた発言は他のお客さんも聞きましたよ。出るとこ出たら全員が『承認』になりますよ!!」


「うっ!!」


 遂に山本の口撃が止った。

 しかし……


「うぉぉおお!! このガキがぁぁ、舐めやがってーっ!!」


 山本が俺の胸倉を掴んできた。


「キャーッ!! 止めて、山本さん!!」


「お客様、お止めください!!」


 レストランの責任者らしき人が山本の両脇に手を入れて止めている。


「お客様、もうこれ以上はお止めください。他のお客様にもご迷惑ですし、お引き頂かなければ当店もしかるべき処置をとらせていただく事になりますが、それでも構わないでしょうか?」


「うっ、うぅぅ……」


「お願い、山本さん!! 悪いのは私です!! お願いですから隆君から離れてください!!」


「つっ、つねちゃんは悪く無いよっ!!」


 俺は山本に殴られてもいいと思っていた。

 何故なら、その方が『この日』だけで全てを終わらせることができると思ったからだ。


「はぁ……な~んだ、やっぱり二人は知り合いだったんだぁ……そうだったのかぁ……」


 山本はそう言うと俺の胸倉を掴んでいた手を離すのだった。


 そして誰もがホッとした瞬間……



 バッコーーーン!!


 俺の顔面に激痛が走ったかと思うと俺はそのまま後ろにあった『ついたて』まで吹っ飛び、後頭部を強打した。


 『つねちゃん』の泣き叫びながら「隆君!!」という声がした後、俺は『つねちゃん』を守れたのだろうかという事を思いながら意識を失うのだった。




――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


山本から『つねちゃん』を守る為に頑張った隆であったが、最後に山本に殴られてしまい、そして気を失ってしまう。果たして隆は大丈夫なのか?


次回『高校二年・誘惑と嫉妬編』最終話となります。

どうぞ次回もお楽しみに。

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