第121話 初恋の人が修羅場

 遂にこの日が来た。

 

 『つねちゃん』と『あの男』の二度目のお見合い? というか話し合いの場……


 一度目と違うのは俺が近くにいることだ。


 俺は『つねちゃん』達のテーブルの隣のテーブルに一人、座っているが、お互いのテーブルの間にはオシャレな『ついたて』があり、お互いの姿は見えない様になっている。


 しかし隣と言う事でおそらく話し声はよく聞こえるとは思う。


 『つねちゃん』の表情が見えないのは少し残念ではあるが、俺は『つねちゃん』の話し声で今、どんな心境なのかは分かる自信がある。


 ただ、相手の顔も見えず、声も初めて聞くと言うことで、そこは多少不安なところでもあった。


 俺は相手の男がまだ来ていないこともあり、今のうちにお手洗いに行こうと席を立つ。


 チラっと『つねちゃん』の方を見ると、少し不安そうな表情をした『つねちゃん』と目が合った。


 俺は『大丈夫だよ』という思いを込めた笑顔でお手洗いに行くのであった。



 俺がお手洗いに行くとスーツを着た男性が『はぁ……』と、大きく息を吐きながら用を足している。そして何やらブツブツと言っていた。


「う、うまくいくかなぁ……大丈夫かなぁ……いや、絶対に大丈夫だ……」


 俺にはそう言っているように聞こえた。

 もしかしたら……


 俺はその人の顔を見たかったが失礼だと思い我慢をしたが、その人がお手洗いから出て行く際に洗面台の鏡に映る顔を少しだけだが顔が見えた。


 色白で男前だが、どことなく影がある様な……

 まぁ、元々俺が『あの男』に対して悪いイメージしかないので、そう見えてしまったのかもしれないが……


 そして俺もお手洗いから出て、自分の席に戻ろうと思い、『つねちゃん』の席を見ると、思っていた通り、あの人……いや、『あの男』も座っていた。


 俺は急いで自分の席に座り方耳を『ついたて』の方に集中するのだった。


 俺の様子がレストランのスタッフ達に変に思われてもいけないので、一応テーブルの上に置かれている『ケーキセット』のショートケーキを小さくカットして食べようとするフリをしている。


 すると隣からまずは『つねちゃん』の声がしてきた。


「山本さん……先日は申し訳ありませんでした。途中で帰る事になってしまいまして……」


「いえいえ、何をおっしゃっておられるのですか? 僕は全然気にしていませんよ!! それよりもあの後、大丈夫でしたか? 凄く顔色が悪かったので心配していたんですよ」


「有難うございます。あれから自宅に戻って横になってしばらくしたら頭痛も治まり体調は戻りましたよ」


「そうですかぁ!? それなら良かったです!! それでは今日は仕切り直しという事で、前に僕がお話した通り、結婚を前提にお付き合いして頂けないでしょうか?」


 遂に来た……『つねちゃん』、うまく断っておくれよ……


「そ……その事なんですが……」


「香織さん、僕は今日の日がずっと待ち遠しくて待ち遠しくて!! 今日の日が二人にとって特別な日になるんだと思うと夜も眠れなくて!!」


 あっ、あの野郎!!


『つねちゃん』の話を聞けよ!!

 それに『香織さん』って何だよ!?


 付き合ってもいないのに下の名前で呼ぶなんて……

 まだ会って今日が二回目だろ!?


 始まって早々、怒りがこみあげてきたぞ!!



「山本さん……?」


「何ですか、香織さん?」


「はい、私の話を最後まで聞いて頂けませんか?」


「あっ!! すっ、すみません!! 興奮して自分だけが舞い上がっていましたね? ほんと申し訳ありません。ちゃんと香織さんのお話を聞かせて頂きますので……ただ、僕は今日、香織さんとお会いできるのを心待ちにしていたという事だけは分かって頂きたいなぁと……」


 『あの男』は見た目は大人しそうに見えるが結構、ベラベラとしゃべる奴なんだな? それも自分の思いばかりを話しているし……年齢は二十代後半らしいけど中身は『子供』みたいな奴だな。


「心待ちにしてくれていたのは大変光栄ですが……でも……誠に申し訳ありませんが、私は山本さんと結婚を前提にお付き合いをする事はできません……」


 よし!! 遂に『つねちゃん』が断ったぞ!!


「えっ!? ど、どういう事でしょうか……? 結婚前提で付き合いはできない……あっ!! そういう事ですか、分かりました!! そうですよね? さすがにまだ二回しか会っていない相手と結婚前提で付き合うというのは重過ぎましたよね? これは僕としては浅はかでした。分かりました。それではまずは『恋人』……いや、『お友達』からお付き合いという事でどうでしょうか? それなら香織さんも大丈夫ですよね!?」


 あ、あいつ……『つねちゃん』の言っている意味が分からないのか?


「申し訳ありません……『恋人』も『お友達』からも私は山本さんとお付き合いする気はありません……本当に申し訳ありません。それに山本さんはお若くてハンサムですし、私みたいなおばさんじゃなくても、もっと良い方がおられると思いますから……」


 さすがにそう言われると諦めてくれるだろう……


「はぁああ!? 香織さん、何を言っているんですか!? 僕にはあなたの言っている意味が全然、分かりませんよ!!」


「えっ?」


 なっ、何だ!? あいつ急に大きな声を出してきたぞ!!


「前に言いましたよね!? 僕はあなたに一目惚れしたんです!! 年齢差も関係ないって事も言いましたよね!? それで今僕は結婚前提は、さすがに重すぎるなと反省して友達からお付き合いして欲しいと言い直しましたよね!? それなのに香織さんの返事がソレってどういう事ですか!?」


 何なんだ!? なんか『つねちゃん』の方が悪い様な言い方をしているぞ!!

 何て身勝手な奴なんだ!!


「怒らせてしまって申し訳ありません……でも私の気持ちは変わりませんので……」


「そっ、それじゃぁ、何で僕とお見合いをしたんだ!? 何故、今日も僕と会ったんだ!? 期待させるだけさせておいて、それじゃぁあんまりじゃないか!!」


 マズいな。あいつの口調が変わってきたぞ……


 『前の世界』でのあいつは『酒乱』だと聞いていたが、おそらく『この世界』のあいつは『酒乱』以前に『精神的に』どこかおかしい気がする。


 このまま放っておけば大変な事になりかねないぞ……

 どうする? 俺が出て行ってあいつを止めるべきか……


 周りを見渡すと他のお客さんは静まりかえり『つねちゃん』達の方を見ている。

 レストランのスタッフも仕事の手を止め、どうすれば良いのか迷っている感じだ。


「期待させてしまう様な行動をとって申し訳ありません……でも……私は山本さんとお付き合いする事はできませんので……」


「なっ、何故だ―――っ!? 何故、僕じゃ駄目なんだ―――っ!!??」


 バンッ!!


 山本が叫ぶと同時にテーブルを両手で思いっきり叩き出した。


 俺は咄嗟に動き出す。



 俺は今、二人のテーブルの前に立っている。




――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


隆の予想以上に人間性を疑う様な山本……

その山本が『つねちゃん』に言葉の攻撃をしている。

そして山本の怒りが最高潮になった時、

遂に隆が動き出した。


どうぞ次回もお楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る