第106話 初恋の人に雰囲気が似ている

「ケンチ、凄いメイクだな!?」


「高山さん、可愛いです!!」


 俺が高山にメイクの事を言って直ぐに奏がどう見てもそう思えない言葉をかける。

 それに対し、高山も嬉しそうな顔をしながら


「奏ちゃん、ありがとねぇ……っていうか今日はうちの文化祭に来てくれて有難う」


「奏ちゃん、せっかくだから今ここで、高山君と一緒に写真を撮ろうか?」


 『つねちゃん』は笑顔で奏に言った後、カメラを持っている俺の顔を見る。


「あっ、そうですね。お願いします!! 高山さんも構わないですか?」


「ハハ……ああ、全然いいよぉぉ」



 俺は今、何とも言えない複雑な心境でシャッターを押そうとしている。

 ファインダーの先には絶対に可愛いとは思えないメイクをしている高山とめちゃくちゃ幸せそうな顔をした奏が、『二人共もう少し離れろよ』と言いたくなるくらいの距離で立っている。


 他の人達の目もあるので『兄としての嫉妬心丸出し』の表情にならないように俺は我慢しながら二人に作り笑顔で『はい、チーズ』と言いながらシャッターを押すのであった。


 何故こうなった?

 『前の世界』ではこんな事は何一つ無かったのに……


 というか、これだけの面子が文化祭に来るのも『前の世界』ではあり得ない事である。


 中学を卒業してから俺は今日来てくれた友人達と誰一人会っていなかったのだから……


 それが『この世界』では『つねちゃん』を筆頭に今でもこうやって楽しく一緒に文化祭を案内しているのだ。


 ある意味、俺は『幸せ者』だ。いや、幸せ過ぎるかもしれない。

 だから『この世界』での奏と高山の関係もとりあえずは見守る方が良いのかもしれない。


 この皆とのこんな関係が続いているのは俺がタイムリープをして『この世界』に来た事に何か大事な意味みたいなものがあるのかもしれないしな……と思う俺であった。


「川田先輩?」


「何、奏ちゃん?」


「私、しばらく高山さんと一緒にいても良いですか?」


「ええ、いいわよ。ここでゆっくりしてちょうだい。高山君、奏ちゃんをしっかりとエスコートするのよ!?」


「ハハハ……了解で~す!!」


 しかし、奏の奴……そんな積極的な性格だったか?

 いや、『前の世界』では真逆の性格だっただろう……


 それもやはり『バレー部』を辞めずにここまで来ているからなんだろうか?

 『前の世界』の奏と違って自分に自信を持っている感じがするし……


 兄としては高山の件以外で考えれば嬉しいことではあるからな。

 これも石田のお陰だよなぁ……


 石田の置き土産みたいなものかもしれないな。


 石田……ありがとな……




 奏と別れた俺達は幾つかの教室を回っていたが、川田からここらへんで二手に分かれて行動しない? と提案があり俺達はその提案に乗る事にした。


 俺としてはここらで『つねちゃん』と二人きりで文化祭を回りたかったのだが、そうはいかず、もれなく稲田と村瀬がついてきた。


 そして川田、大石、森重、の三人が同じグループになったのだが、出だしから三人言い合いをしながら俺達の元から離れて行くのであった。


「それじゃぁ、一時間後に体育館の前で待ち合わせしよう!!」


 俺は川田達にそう言うと、『つねちゃん』と稲田に挟まれ、そして村瀬は何故か俺の背後で廊下を歩いている。


 すると稲田が俺に質問をしてきた。


「ところでさぁ、五十鈴君はこの学校に気になる女子とかはいないの?」


「えっ、急に何だよ!? き、気になる女子はいないよ……」


 俺の今の返事は稲田ではなく『つねちゃん』に向けて答えたところがある。

 なので俺は『つねちゃん』の顔をチラっと見たが、相変わらずとても可愛い笑顔で俺の顔を見てくれている。


 これは『大人の余裕』というやつか? っていうか俺も『大人』だった……


 俺は高校生になってから、よく自分が『大人』であることを忘れてしまっていることがある。簡単に言えば、中学生の頃と比べると俺の心に余裕が無くなっているのだ。


 だから、たまに自分が情けなくなって凹んでしまう時もあるくらいだ。


「そういえば、佐々木さんはどのクラスなのかな? 先生、久しぶりに佐々木さんに会ってみたいわ……」


 『つねちゃん』、いきなり何てことを……それも稲田の前でさ……


「佐々木? その人って女子なの?」


 予想通り、稲田が俺に聞いてくる。


「あ、ああ、そうだよ。佐々木は一緒に遊園地でアルバイトをしている子で、稲田も前に少しだけ会っていると思うんだけど……」


「えぇ!? 私、全然覚えてないわぁぁ。そういえば入り口にあるボックスに女の子が二人いたような気はしたけど、はっきり顔をみてなかったし……それじゃ、その二人のどちらかが、その佐々木って子なのね?」


「ま、まぁ、そういうことだな……」


「ふーん……それでその子は可愛いのぉぉ?」


「とても可愛いわよ……それにとても気が利く子なのよ……」


 何故か『つねちゃん』が答えてしまう。

 そんなにも佐々木のことを『つねちゃん』は気に入ってるんだな……


 ますます俺の心の中は複雑だ……


「それで、その佐々木って子は何組なの? 今から行きましょうよ?」


 稲田までもが早く佐々木に会いたい感を出している。

 まぁ、稲田が佐々木に会いたいのは『つねちゃん』と同じ理由ではないということは、さすがの俺でも理解できてしまうが……


「さ、佐々木は七組だよ。ホラッ、もうすぐ七組の前を通るよ。七組はたしか『迷路』をやっていると思うけど……」


「へぇ、そうなんだ。先生、子供の頃から『迷路』って大好きよ。とても楽しみだわ」


 俺は今、『人生の迷路』に迷いそうになっているんだが……と、上手い言葉を考えた自分を心の中で褒めながら俺達は佐々木のいる七組の教室へと向かう。


 そして教室入り口に設置している受付に座っている女子はまさに『絵に描いた』様に佐々木真由子であった。


 その佐々木の姿を見た『つねちゃん』は弾む声で話しかけていく。


「佐々木さん、お久しぶり!! お元気そうで良かったわ。あなたにまた会いたかったから……会えて本当に嬉しいいわ!!」


 嬉しそうにそう言いながら『つねちゃん』は佐々木の手を両手で掴んでいる。


 対する佐々木もとても嬉しそうに笑顔で『私も嬉しいです!! まさか常谷先生とうちの高校の文化祭で会えるなんて、信じられませんよ!!』と興奮気味であった。


 二人のやり取りをジッと見ていた稲田は俺の耳元で呟いてくる。


「佐々木さん、とても可愛らしい子ね? それに常谷先生とあんなに仲良しだなんて……私、ビックリしちゃった……」


「い、いや……俺もビックリしているよ……」


「それでさぁ、もう一度聞くけどさぁ……五十鈴君はこの学校に気になる女子はいないのね?」


「あ、ああ……い、いないよ……」(この世界ではな……)


「ふーん……そっかぁぁ……まぁ別にいいんだけどさぁぁ……」


「そっ、そんなことよりも稲田の方こそ好きな人とかはいないのかよ? さっきから俺ばっかりに聞くのはズルイじゃないか!!」


「……いるよ……目の前に……」


「えっ? 今、なんて言ったんだ? 周りが騒がしくて聞こえなかったよ」


 おれが稲田に聞き返すと彼女は笑顔でこう言った。



「あの佐々木さんってさ、常谷先生や浩美にどことなく雰囲気が似ているよね? って言ったのよ……」



 えっ!?


「そ、そうかなぁ……い? 俺にはよく分からないけど……」


 俺は稲田の何気ない言葉に動揺するのであった。




――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


稲田からまさかの言葉……

つねちゃん、石田、そして佐々木……い三人共、雰囲気が似ている。

その言葉に対して動揺する隆。


そして遂に遭遇した『つねちゃん』と佐々木……


どうぞ次回もお楽しみに。

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